第27話 限界の一撃と新たな決意

融合体の仮面越しに赤い目が再び輝いた瞬間、

アトラス隊の面々は言葉を失っていた。

砕け散ったはずの頭部装甲がゆっくりと自己再生し、

肉体の裂傷すらも見る間に塞がっていく。

「まさか……あれで倒しきれなかったのか……」 マリアが呟いた。

「冗談じゃない……化け物かよ……」 アルノ・シュベが、

機体越しに震えをこらえるように呻く。

融合体は無言のまま立ち上がると、再び爆発的な速度で突進してきた。

フェリシアが反射的に射撃を開始し、

アルノ・コレットが側面から火線を浴びせるも、

融合体の動きはさらに鋭さを増していた。

「……蓄積が足りなかったんだ……」

ジョージは荒く息を吐きながら盾を構え、再び前線に出る。

「《ヘイトコントロール》……発動!」融合体の殺気が、

再びジョージに集中した。

「ジョージ、無茶だ!今のでかなりやられてるだろ!」

リンが叫ぶが、ジョージは微笑みながら小さく首を振った。

「大丈夫だ。まだ動ける……いや、やるしかないんだ」

キャシーがすぐさま詠唱に入った。

「――癒しの光よ、聖なる息吹よ、傷つきし盾へその祝福を……

キュア・グランデ!」

黄金の光がジョージを包み、皮膚の裂け目が一つ、また一つと塞がっていく。

しかし、融合体の攻撃はそれ以上の速度と威力で迫ってきた。

突進、蹴り、連打、肘打ち、投げ――

まるで“武の化身”のように流れるような動きで次々と攻撃を繰り出すザーグ兵。

ジョージは全身を盾で覆い、防御に徹する。

(……限界まで、蓄積する。まだだ……一撃だけで、決めるんだ)

キャシーの詠唱が止まらない。

彼女の顔は蒼白で、額には脂汗が滲んでいた。

「くっ……力が、もう……!」

「キャシー、俺のことはもういい。他の隊員の援護を――」

「だめ……!ここで止めたら、死ぬのはあなただよ……!」

ジョージはその言葉に心打たれながらも、目を閉じて精神を集中させる。

次の一撃。

それが最後。

(……頼む、一撃で仕留めてくれ……)融合体が全体重を乗せた拳を放つ。

ジョージの身体が紅く閃く。

《レッドゾーン》発動――

体力30%以下時、攻撃力と防御力が2倍に跳ね上がる。

その瞬間、ジョージはシールドを高く掲げ――

「これが……セレスティアル・シールドの真の力だ……!」

盾が光を放ち、今までに蓄積した全攻撃の反射エネルギーが一気に放出される。

「喰らえええええええええええええええええええッ!」

爆裂する光と音。

融合体の仮面が粉々に砕け、内部の組織までもが焼き尽くされていく。

仮面の奥に輝いていた赤い目が、光を失った。

そして――静寂が訪れた。

重苦しい空気の中、全員が息を呑んだまま動けなかった。

「……終わった……?」 フェリシアがスコープ越しに確認する。

「生命反応、ゼロ。今度こそ――完全に沈黙した」

マリアがゆっくりと頷く。

その場に、どっと安堵の息が漏れる。

ジョージはその場に崩れ落ちた。

「やったか……」

誰よりも過酷な戦いをくぐり抜けた男の肩に、仲間たちが駆け寄った。

マゼランの荒野に静寂が戻った。

破壊し尽くされた地面、焦げついた空気、そして血と汗にまみれたアトラス隊の面々。

「……完全に沈黙。生命反応、ゼロを確認」

マリアの声が乾いた空に響き、ついに戦いの終焉が告げられた。

「終わった……のか?」

リンが、まだ警戒を解けない表情で立ち尽くしていた。

「今回は……装備に助けられただけだ」

ジョージが崩れるように座り込み、肩で荒く息をする。

フェリシアがライフルを肩に担ぎながら呟いた。

「正直、アレに勝てたのは奇跡に近いわ」

マックス艦長が前に出て、ジョージに向かって深く頷いた。

「本当に、ありがとう。君がいなければ、我々は全滅していた」

ジョージは微笑んだが、その目はどこか曇っていた。

「……今回は俺の完敗だった。格闘では、一撃もまともに入れられなかった」

マリアが静かに聞き入っていた。

ジョージは拳を見つめながら続けた。

「どんな打撃も、どんな投げも、全て読まれていた。

俺の格闘術は……あいつのそれに、遠く及ばなかった」

リンが真剣な表情を浮かべる。

「お前の格闘術は……相当なものだが、それを確かに超えていたな……」

「恐らく、次世代ザーグが取り込んでいたのは、

シェンダオ人であると思う。それも相当な手練れをな...」

ジョージの言葉に、一同が息を呑む。

「このままじゃ、次はない。

家族を……仲間を守るには、もっと力が必要だ」

キャシーが心配そうに顔を寄せた。

「でも、それって……どうやって……」ジョージは静かに立ち上がり、

空を仰いだ。

「俺は、ゴシャンに行く。シェンダオ人の星だったよな。

あそこで現代の“武”を学ぶ」

マックス艦長が驚いたように目を見開く。

「……修行か?」

「ああ、アトラス隊の次の任務まで少し時間があるその間、俺は一人で鍛え直す」

マリアが腕を組みながら、納得するように頷いた。

「確かに、あれだけの化け物が今後も現れるようなら、このままでは通じないわね…」

「お前の格闘レベルでゴシャンの老師達に鍛えられたら、

恐ろしいレベルになるだろう」リンが低く言った。

「今回の次世代ザーグがシェンダオの格闘術を極めた戦い方なら、

同じ技術を身に着けて今まで培った技術と融合すればあるいはと思っただけだ……」 ジョージの声に、強い決意があった。

その日のうちに、ジョージは本部のアンジェラに連絡を入れた。

「……行きたいのね、ゴシャンに」

「はい。更に強くなるために。今回の敵は正直装備のおかげで勝てたようなものだ……

次もそれだけで通用する保証はどこにもない」

アンジェラはしばし沈黙した後、微笑みを見せた。

「いいわ。ただし、無茶はしないで。君はこの戦争の希望でもあるのよ」

「ありがとう、アンジェラ」

アトラスに戻ると、ジョージはマックス艦長に事情を説明した。

「小型の探索艇を一隻、借りられないか?」

「もちろんだ。司令官からも連絡はされている。

だが、くれぐれも無理はするな。

アトラス隊員として命令する、強くなって帰還するように!」

出発の日、ジョージは整備ハンガーに集まったアトラス隊の仲間たちに一礼する。

「短い間だけど、俺はゴシャンへ向かう。みんな、しばしの別れだ」

「……俺の故郷でどれぐらい強くなって戻ってくるか楽しみだ」 リンが腕を組みながら口元をゆるめた。

「戻ったら、また戦場で共に戦おう」 マリアが静かに敬礼を返した。

「その時は、私もサポートするからね。

しっかり修行してきて」 キャシーが明るく笑った。

「ふっ……“強くなったジョージ”を楽しみにしてるわ」 フェリシアがウィンクを送る。

マックス艦長が歩み寄り、ジョージの肩に手を置いた。

「帰還を、待っている」最後にジョージは深く一礼し、小型艇へと乗り込んだ。

「次の戦いまでに、俺は変わってみせる。

次は、“俺の力”で、家族と仲間を守る」

アトラス隊員達は、彼の背中に込められた覚悟を感じていた。

かくしてジョージは、己の限界を打ち破るため、

格闘の聖地・ゴシャンへの旅に出た。

そしてその先には、全宇宙の運命を決する“決戦”が、確実に近づいていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る