第26話 黒き影の武人
ミリタリアとアースの中間地点、量子ドライブ中。
航行は順調に進んでいた……はずだった。
突如、船体を激しく揺さぶる衝撃が走る。
強制的に量子ドライブ空間から停止させられる。
「敵襲――!?宙域座標、マゼラン宙域!」
マニューの大声と共に、警報が艦内に鳴り響く。
小型ザーグ戦艦がワープアウトし、アトラスに高出力のビームを集中砲火してきた。
「船体損傷!一部推進機能、停止しました!」
マックス艦長がすぐに判断を下す。
「全員、衝撃に備えろ!このままでは持たん、
マゼラン星に緊急着陸地点を確保する!
大気圏に突入するぞ!」
アトラスは炎に包まれながら、
大気圏を突き破ってマゼラン表層へと滑り込んでいった。
焦げた大地が広がるマゼランの荒野に、
アトラスの艦影が重々しく横たわっていた。
緊急着陸時の衝撃で艦の一部が歪み、煙が上がる場所もあったが、
乗員の命に別状はなかった。
マックス艦長は即座に現地防衛態勢を整え、調査隊を展開する。
ジョージを中心とした前衛部隊は、周囲の安全確保と索敵の任務を請け負った。
「何か、気配がする……」
フェリシアがスコープ越しに地平線を睨みながらつぶやく。
そして、それは唐突に姿を現した。
荒野の彼方、ひときわ黒い影が高速で跳躍しながら迫ってきた。
その動きは風を裂くように鋭く、迷いがない。
やがて影が宙を舞い、地上に着地した。
その姿は、全身を漆黒の強化皮膚のような装甲で包み、
赤い両目だけが仮面の奥から妖しく光っていた。
「ケルベールの次世代ザーグか……」 アルノ・コレが眉をしかめて呟く。
「いや……」 ジョージが目を細める。
影の動きは、ケルベールのような獣性に頼った反応ではない。
あまりに洗練され、無駄がなかった。
まるで武道――そう、それは格闘術だった。
敵はすでに、彼らの目の前に現れていた。
「来る!」
リンが叫ぶより早く、黒き襲撃者は地を蹴り、猛スピードで突撃してきた。
「反応、シェンダオの“気”を検知……これは――」 マリアが息を呑んだ。
ザーグと融合した“新たな存在”。
それは、かつてないほどの速度と力を兼ね備えた、まさに黒き武人だった。
リンが先陣を切って応戦するが、融合体の一撃で吹き飛ばされ、岩壁に激突した。
「くっ……っ」 装甲が亀裂を見せ、血が滲む。
フェリシアが即座に援護射撃を展開し、融合体の動きを牽制するが、その回避速度は常識外れだった。
ジョージは、リンを抱えながら一時的に後退し、
キャシーが
「――癒しの光よ、聖なる息吹よ、傷つきし者へその恵みを。キュア・グランデ!」
黄金の光がリンを包み、深い傷がみるみるうちに塞がっていく。
「すまん……ありがとう」 リンが起き上がるが、
その目は今までにない緊張と畏怖を湛えていた。
「アイツの“気”は俺たちの……いや、俺の知っているどの武人よりも巨大だ……
まるで、武の極致そのものだ」
ジョージは次世代ザーグの姿を改めて見据えた。
仮面の奥から放たれる殺気、そして――(この赤い目……まさか……)
そう、誘拐事件の際に彼が垣間見た首謀者とまったく同じ姿だった。
あの時の記憶が脳裏を過ぎる。
「……間違いない。あの時の、アイツだ」
歯を噛みしめながら、ジョージは構えを取った。
「全員、俺が前に出る。援護は任せる」
廃墟と化したマゼランの荒野に、轟音と閃光が炸裂した。
アトラスからアルノ・シュベの巨大メカも出動した。
各戦闘員がそれぞれの持ち場につく中、黒きザーグとの本格的な戦闘が開始された。
「射線確保、フェリシア、右側高台から援護を!」
「アルノ・コレット、左から包囲に入る!」
「キャシー、バフ準備!」
「アルノ・シュベは敵の動きを抑えろ!」
マックス艦長とマリアが的確に指示を飛ばし、
アトラス隊は息を合わせて融合体を囲い込む。
融合体は高速で跳躍し、圧倒的な身体能力で攻撃をかわしながら反撃を繰り出す。
「反応速度が異常だ……っ!」
フェリシアのプラズマライフルが命中しても、浅い傷しか残らない。
ジョージは一瞬の隙をついて距離を詰めると、低い姿勢から鋭い蹴りを放つ。
しかし敵はその一撃を寸前で見切り、軽やかな身のこなしで回避した。
「なに……!?動きが速すぎる……」
すかさず裏拳を繰り出すも、次世代ザーグのカウンターを受け、
ジョージのガントレットが衝撃で鳴る。
(この身のこなし……完全に、格闘技を極めた達人の動きだ。……)
一歩引きながら、ジョージは自分の格闘術が通用しない現実に焦りを覚える。
アルノ・シュベの巨大メカが斜め上から奇襲を仕掛け、
アルノ・コレットが同時に射撃を浴びせるも、融合体は風のように動いてかわし、
全体重を乗せたような打撃でメカを弾き飛ばす。
「こいつ……前の2体とは比べ物にならないほど強敵だ!」
アルノ・コレットが叫ぶ。
そのとき、ジョージが一歩前に出た。
「みんな、攻撃を俺に向ける……《ヘイトコントロール》、発動!」
ジョージはシールドを構え、融合体の連撃を正面から受け止めていく。
融合体が次の一撃を繰り出す直前、ジョージが盾を前方に突き出す。
「今だ――!バースト!」
《セレスティアル・シールド》に蓄積された攻撃エネルギーが逆流し、
放出される。
巨大なエネルギーの波動が融合体を直撃し、
その体ごと吹き飛ばして山に衝突させた。
「……倒したか?」
マックス艦長が慎重に問いかけ、マリアがセンサーを確認する。
「生命反応、急激に低下中……けど、まだ完全には――」その時だった。
融合体の身体が不気味な音を立てて蠢き、仮面の奥で再び“赤い双眸”が灯る。
「再生してる!」マリアが叫ぶ。
「……クソッ!」リンが歯を噛みしめる。
「もう……こんなヤツ、どうやって倒せってんだよ……!」
ジョージは歯を食いしばりながら、再び盾を構えた。
「……蓄積が足りなかったか」
そう、セレスティアル装備の反射でも倒しきれなかった。
「次で、終わらせる」全員が再び構えを取り、決死の再戦が始まる――
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