第23話 反撃ののろしと次の任務

セントラル基地の作戦ブリーフィングルームは、

いつもと違う張り詰めた空気に包まれていた。

アトラス隊の全メンバーが揃い、

アンジェラ・バルキリーが執務室から姿を現すと、

その緊張は一気に最高潮に達した。

「皆、今回の任務、本当にご苦労だったわ。

あなたたちのおかげで、極めて貴重な情報と戦果が得られた」

アンジェラはそう言うと、テーブル中央のホログラム装置に手をかざし、

融合体のスキャン映像を表示した。

「これが、あなたたちが討伐した2体の正体。

科学分析班の報告によると、これはザーグのDNAを基に、

ヴォラク人とルミエル人の遺伝子を融合させた“人工的生命体”だと結論づけられた。

吟味の結果、”次世代ザーグ”と呼ぶことにしたわ」

室内がざわつく。

「我々が戦った相手が……合成生命体だったというのか?」リンが低く呟く。

「ええ。

それも、もとは別々の生きた生物を無理やり融合させたような痕跡があった。

戦闘分析シミュレーションの結果、

アライアンスの部隊でもまったく太刀打ちできないことも判明した」

沈黙が重くのしかかる。

その時、誰からともなくため息が漏れた。

マリアは瞳を閉じたまま静かに語った。

「……確かに、あれは“異常”だった。

銃火器も、魔法も、ほとんど通じなかった……正直、勝てたのが奇跡に思える」

「俺もそう思うさ」アルノ・コレが腕を組んだまま頷いた。

「あんな化け物に囲まれたら、普通は数分と持たない。

だが、俺たちは──あいつがいたから、生き延びた」アリシアが続いて言う。

「全員が限界を超えた戦いをした。

けれど、ジョージが“受け止めてくれる”と信じられたから、俺は前に出られた」

リンの言葉に、他の隊員たちも頷いた。

キャシーは目を伏せたまま、ぽつりと呟いた。

「背中、預けられる人間なんて久しぶりよ」アリシアは小さく笑いながら

「回復しても追いつかないほど戦い抜いてくれるなんて……私、初めてだったわ」と続けた。

その空気を感じ取ってか、アンジェラも一度だけ視線を落とし、そして再び全員を見渡す。

「そうね、希望はあるわ」 アンジェラはジョージを見た。

「あなたがいれば、今回の任務は全滅していたと分析班も推定されている」

ジョージは静かに頷いた。

「だからこそ、

アライアンスは早急に“対次世代ザーグ”対抗のため戦力の底上げに動き出す。

次の任務は──ミリタリア星への派遣よ」

ホログラムが変化し、赤褐色の荒廃した惑星が表示される。

「ミリタリアはヴォラク人の母星であり、宇宙最大の軍事産業国家。

彼らと連携し、新たな兵器と装備の開発、

そしてあなたたち自身の戦力増強も進めるわ」

「……それだけじゃないのでしょう?」マリアが口を開く。

「ええ。ここからは極秘情報として扱ってほしいわ、

全アライアンス種族とミネルバ教会で“プロメテウス進行作戦”を開始するわ」

隊員たちの表情が変わった。

アンジェラはさらに続ける。

「今回の融合体はまだ“未完成”と判断された。

完成されれば、更なる脅威が襲ってくる。だからこそ、今が攻めるべき時なの」

彼女の目が真っ直ぐジョージに向けられる。

「あなたの存在が、決断を加速させた。この戦いの希望なのよ」

ジョージは何も言わずに頷き、アトラス隊全員の視線が彼に集まる。

その瞬間、ひとつの覚悟が共有された。

「任務は明日出発。それまでに退院は休むように。解散!」アンジェラのその言葉で、会議は終わった。

だが誰もが、

これからの戦いが過去のどの戦場よりも熾烈なものになると理解していた。

──次なる舞台は、ミリタリア。

戦いの歯車が、静かに音を立てて回り始めていた。

荒れ地ミリタリアへの旅立ちの出発前夜、

アトラス艦内では通常の整備点検に加え、装備の最終チェックが入念に行われていた。

ミリタリア――赤褐色の大地と砂の風が吹く、宇宙最大の軍事国家。

その名を耳にするだけで、戦士たちの背筋に緊張が走る。

ジョージはT-Forgeの店内で、

テディ―と自分の装備のメンテナンスを行っていた。

「次はミリタリアか……戦うために生まれた星って感じだな」

テディ―は鼻を鳴らした。

「あそこは、平和って概念すら弾薬でできてる。

だが、だからこそお前の力が試される場所だ」

ジョージはガントレットの可動域を確かめながら、頷いた。

「俺の目的は家族だ。だが、戦いを避けるつもりもない。

必要なら、どこまでも進む」

翌日、アトラスはセントラルを離脱し、ミリタリア軌道宙域へと突入した。

ブリッジでは、マリアが着陸シーケンスを指揮していた。

「降下速度、調整完了。着陸ポートA-17へ誘導する」

アルノ・シュベが後方の計器を確認しながら報告した。

「大気は問題なし。ただし磁気嵐が接近中、長居はできなさそうだ」

マックス艦長がうなずく。

「速やかに任務を遂行する。戦闘員は、到着後各々パワーアップに精進すること、

これは命令だ!」

アトラスの機体が微かに震え、ミリタリアの巨大軍事施設へと着陸した。

着艦後、彼らを迎えたのは武骨な軍服を纏ったヴォラク人の兵士たちと、重装甲の歩行戦車だった。

施設中央では、軍事開発局の長官スロボダン・ミロゼビック将軍が待ち構えていた。

スロボダンは中年のヴォラク人で、

頬には過去のザーグ戦闘で負った大きな傷が走っていた。傷を隠すこともなく、

むしろそれを誇りにしているかのように晒し、茶髪の短髪と軍帽、

そして鍛え上げられた筋肉質な体格で圧倒的な存在感を放っていた。

その厳格な表情と、冷徹な目つきから、

“鬼教官”の異名を持つ彼の評判が誇張ではないことがすぐにわかった。

「貴様らが、あの融合体と渡り合ったという“アトラス隊”か。

……見るからに雑多な寄せ集めだが、目は死んでいないな」

ジョージが一歩前に出る。

「生き残っただけだ。これからもっと強くならないといけないんだ」

スロボダン将軍は鼻で笑った。

「その通り。ならば貴様らに一つ任務を与える。

ここでは現在、“対次世代ザーグ”用の兵器開発が進められているが、

決定的な問題がある」

彼の背後のホログラムが展開し、鏡のようなコーティングをしている鉱石のサンプルが映し出された。

「“オリハリウム”……古代戦争時代から語り継がれる、究極の高密度金属。

これなくして、新兵器の完成はあり得ん」マリアが眉をひそめる。

「しかし、それは……非常に希少で発見は困難なはず」

「我々は数十年にわたってミリタリア全土をスキャンしてきたが、いまだに正確な鉱脈を見つけ出せていない。微弱な反応はあるが、場所が特定できん」

ジョージがその言葉に反応する。

(スキャンと鑑定なら……)彼はそっと手を握った。

自らの能力が、今まさに必要とされていることを直感していた。

「……なら、俺に探させてくれ」その言葉に、場が静まり返った。

「何を言っている、素人の戦士に鉱脈探索ができるわけ──」

「できる」ジョージの瞳に、一切の迷いはなかった。

「やらせてくれ!今まで黙っていたが、あの融合体戦の時も、鑑定とスキャンで敵の特性や戦っている地形を読み取っていたんだ。鉱脈も、きっと見つけ出せる」

将軍はジョージの言葉を見定めるように見つめたあと、静かに頷いた。

「いいだろう。お前一人でなら問題ない。素人に人員を割くわけには行かない。

他の連中はここに残って、新兵器の試験と調整に協力してもらう」

こうして、アトラス隊は二手に分かれることとなった。

ミリタリアの過酷な大地で、希少な金属“オリハリウム”を探る旅が

幕を開けようとしていた。

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