第22話

悠真の兄の幻影は、私たちを嘲笑うように、ゆっくりと近づいてきた。その手に握られた鏡の破片が、冷たい光を放っている。


「裏切り者…!お前たちが、僕をここに閉じ込めたんだ!」


幻影は、悠真にそう叫び、鏡の破片を振り上げた。


「兄さん!やめて!」


悠真は、幻影にそう叫び、その前に立ちはだかった。


「りお、陽菜!逃げろ!」


悠真は私たちを庇うように叫ぶが、私たちもその場から動くことはできなかった。私たちの足は、まるでコンクリートに埋められたかのように、その場に縫い付けられていた。


その時、幻影は、悠真の言葉を無視し、鏡の破片を振り下ろした。私たちは、目を閉じて、その瞬間を待った。


しかし、痛みはなかった。


目を開けると、悠真の兄の幻影は、鏡の破片を振り下ろす寸前で、動きを止めていた。彼の表情は、憎悪と苦痛に満ちていたが、その瞳の奥には、一瞬だけ、悲しみの色が浮かんでいた。


「…なぜだ…なぜ、僕を裏切るんだ…」


幻影は、そうつぶやき、鏡の破片を力なく落とした。破片は、床に落ち、カランと音を立てて砕け散った。


「兄さん…?」


悠真は、恐る恐る幻影に近づいた。


「悠真……。お前は、僕の後悔を、乗り越えてしまったのか…」


幻影は、そう言って、悠真の顔をじっと見つめた。その瞳には、もはや憎悪の色はなく、ただ絶望だけが満ちていた。


「僕は…兄さんを助けられなかったことを後悔している。でも、もう逃げない。兄さんの後悔も、僕が一緒に背負う」


悠真の言葉に、幻影は、ゆっくりと首を振った。


「違う……。僕の後悔は、もう終わらない……。この部屋は、僕の憎しみでできているんだ…」


幻影は、そう言って、その場にへたり込んだ。彼の身体は、まるでロウソクの炎のように揺らぎ始め、徐々に薄れていく。


その時、資料室の壁一面に貼り付けられていた写真が、一斉に血を流し始めた。写真に描かれた生徒たちの顔が、苦痛に歪み、私たちに向かって叫んでいる。


「出して!助けて!」


それは、この部屋に閉じ込められてきた人々の、最後の叫びだった。


「呪いは……まだ終わってない!」


陽菜が悲鳴を上げた。幻影は消え去ったが、部屋は、さらなる恐怖で私たちを包み込もうとしていた。私たちは、この呪いを完全に終わらせるために、この部屋の核心を探さなければならない。

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