第21話

螺旋階段を下りていくごとに、冷たい空気が肌を刺し、嫌な生臭さが鼻を突いた。湿ったコンクリートの壁には、無数の手の跡が黒く汚れて付着している。それは、この場所で苦しんだ人々の、最後の叫びのようだった。


「…うぅ…」


階段の先から聞こえる呻き声は、もはや幻聴ではない。それは、苦痛に満ちた、本物の叫び声だった。


「大丈夫だ、りお。僕たちが、ここで全部終わらせるから…」


悠真が、私の手を強く握った。彼の温かい手に、私は少しだけ安心した。私たちは、恐怖に震えながらも、一歩、また一歩と、階段を下りていった。


階段を降りきった先には、鉄製の古びた扉があった。扉には、なぜか私たち一人ひとりの名前が、血で書かれていた。


「りお」「悠真」「陽菜」


私たちの名前が書かれた扉からは、それぞれに苦痛の叫び声が聞こえてくる。それは、私たち自身の心の闇が具現化したものだった。


「うそ…!ここにも、私たちを蝕む後悔が…!」


陽菜が悲鳴を上げて叫んだ。その時、扉の向こうから、誰かの声が聞こえてきた。


「…お前が、私たちを裏切ったんだ」


それは、健太と結衣の声だった。しかし、その声は、私たちの知っている彼らの声ではなかった。それは、憎しみに満ちた、どこか歪んだ声だった。


「健太!結衣!私たちだよ!助けに来たんだ!」


私が叫ぶと、扉はゆっくりと、内側へ開いた。扉の向こうに広がっていたのは、教室でも、廊下でもなかった。そこは、地下深くにある、古びた資料室だった。


しかし、その資料室は、埃まみれの物置ではなく、壁には、無数の写真が、隙間なく貼り付けられていた。それは、この学校の生徒たちの写真だった。しかし、どの顔も、目が黒く塗りつぶされ、ひどく歪んでいた。


そして、資料室の奥には、私たちの知っている人物が立っていた。


「…君たちを待っていたよ…」


それは、悠真の兄だった。彼は、私たちを憎んでいるかのように、憎悪に満ちた表情で私たちを見つめていた。彼の目は、まるで黒い穴のように、光を吸収していた。


「兄さん…?」


悠真が震える声で尋ねる。しかし、兄は何も答えず、ただ悠真をじっと見つめている。そして、彼の口から、信じられない言葉が発せられた。


「…僕は、君たちに、この部屋の呪いを、分けてやるよ…」

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