第17話

「この部屋の呪いを解く鍵は、僕たちの『後悔』にあるんだ」


悠真の言葉に、私は震えた。私たちは、この閉ざされた空間で、自分自身の心の闇と向き合い、それを乗り越えなければならない。悠真は、兄が残した写真を見つめながら、静かに語り始めた。


「兄さんは、あの時、友人を救おうとしていた。でも、失敗した。その後悔が、兄さんをこの部屋に縛り付けていたんだ」


そして、悠真は自分の後悔を口にした。兄が失踪する前、悠真は兄に反発し、ひどい言葉を言ってしまったこと。それが、兄との最期の会話になってしまったこと。その後悔が、夜な夜な悠真を責め立てていた声の正体だった。


悠真の告白に、陽菜も涙を流しながら頷いた。


「私の後悔は、兄を信じられなかったこと……。兄が私を裏切ったと思い込んで、憎しみに囚われてしまった」


陽菜の後悔は、彼女自身を呪いへと導き、この部屋の力を増幅させていた。


「この部屋は、俺たちの後悔を喰らう。でも、もしその後悔を、**『懺悔(ざんげ)』**に変えることができたら……」


悠真は、兄の手記の中にあった「血と、懺悔と、鏡」という言葉を思い出した。鏡は部屋への入り口、血は失踪した兄の悲痛な叫び。そして、「懺悔」こそが、この呪いを断ち切る鍵なのかもしれない。


悠「俺たちの後悔は、もう十分この部屋に喰われた。これからは、自分自身を許し、前へ進むための懺悔に変えるんだ」


悠真はそう言って、私と陽菜の手を強く握った。私たち三人は、それぞれの後悔を乗り越えることを誓った。


その瞬間、部屋の様子が再び変化した。壁にうごめいていた血肉が、後退していく。しかし、同時に、廊下の奥から、新たな恐怖が私たちに迫ってきていた。


それは、健太と結衣が最後に見ていた、あの鏡だった。鏡は、巨大な渦のように回転し、中に閉じ込められた二人の苦しむ顔が、私たちを責め立てるように映し出されている。


「…次は、お前たちの番だ」


鏡の中から、健太の声が聞こえた。それは、健太の声でありながら、どこか冷たく、憎しみに満ちた響きだった。鏡は、私たちに残された希望さえも、喰い尽くそうとしていた。

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