第9話 黒幕が判った
田尾は、広島で紀子と矢部の実家で暮らしていた。もちろん病気もなく元気である。
防衛省の情報本部の人間も内調の人間も、今の田尾をマークしていない。
紀子は元々旧財閥の企業の娘に生まれ、利発で快活な質で、数年前は自分で料亭を経営したり、洋服のブランドを立ち上げたりしていた。ファーストレディーだけでなく経済人としても有名であった。しかし、名義を貸したり視察に訪れたりしていた林崎学園の補助金問題で、政界で大問題になり、しばらく大人しくして、形をひそめて総理婦人として慎ましくしていたのである。
最近はその箍が外れたかのように、活発に行動を始めつつある。
内閣は矢部の後を引き継いで総理大臣になった管喜朗が運営していたが、第三次矢部内閣ほどの人気もなく、『矢部イズム』(今は管イズム)を復活させたせいで景気は減退している。内閣支持率もどんどん下がり、脛に傷を持つ管は野党からも身内の民自党からも相当な突き上げを食らっていた。
総裁任期まで政権が維持できるかが微妙な状況である。
弟の湊修二が、急に二人に会いに来た。
「管にやられたよ。あいつ兄貴が撃たれる前から、内調に田尾さんをマークさせていた。ひょっとすると狙撃犯も管の息が掛かった奴かも知れない。兄貴が生きていたら管は総理にはなれていない。兄貴は後継に外務大臣の鈴木を指名していたから」
「矢部は管に殺された」紀子が呟いた。
「俺が管に頼んで防衛大臣にしてもらったのは、情報本部でこの件をもっと詳しく調べるためさ」
防衛省情報本部の真田は、湊大臣からの命令で内閣情報調査室の佐々木と名乗る男を調査していた。しかし、内調のどのセクションにも佐々木という男はいない。大臣の話では、衆議院選挙の日までは矢部のそばにいたらしい。
内調の人間を尋問することは不可能である。情報本部も内調も機密保持が当たり前、スパイ活動はもちろん洗脳や殺人などもお手の物である。
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