第6話 これでイイのだろうか

田尾は首班指名で首相に選ばれ、第三次矢部内閣を組閣する事になった。官房長は管を続投(しないと田尾は何もできない)、ほとんどの閣僚は横滑りで続投。少しの交代で組閣は終わった。国会運営は、以前と違って矢部がひと皮むけた様に各大臣や官僚から上程してくる案件を即決で処理していく。当然各大臣がのびのびと仕事ができる(優秀な官僚の言う通り)、また衆議院の単独過半数を持っているため民自党の思うまま進められるので、首相のすることは野党への答弁だけで、ご存じのように官僚たちが答弁書を作成しているのでその通りに応えれば良い。また、田尾は会社経営をしていたので、質問書にない急な質問にも卒なく上手く対応していた。

田尾へのレクチャーは内務、外交など多岐にわたって続いており、元々自頭が良い田尾は問題なく吸収していく。官僚の幹部からは、『首相は勉強すれば非常に優秀だ』と今まで以上に素晴らしい政策が考えられていく。その中でも官僚たちに一番認められたのが、昭和の遺産のような看板政策の『阿部野イズム』の見直しだった。

驚くことに、これだけ急速な変化が有るにも関わらず官房長官の菅をはじめ閣僚たちも全く気にもしない。

この国は大丈夫なのか、心配になった。


田尾が優秀な官僚と修正した政策で、景気が少しずつ良くなり、内閣支持率は60%になった。

政治は素人の方が向いているかもしれない。


矢部の秘書山際沙耶は、違和感の正体に気づいた。

整理をしてみると

1.阿部野が狙撃される前より優しくなっている。

2.妻の紀子との仲も総理になる前のようによくなっている。

3.理解力が早くなっている。

4.食べ物の好き嫌いが無くなった。

「ひょっとしたら、今の総理は矢部一郎じゃない」「じゃあ、誰なの」


紀子は矢部の面影が残る田尾と話をするのが楽しみになっていた。政治家一家で育った矢部とは違い、色んなジャンルの話題が聞け、毎日が楽しいのである。田尾も5年間の隠遁生活のうっ憤を晴らすように会社経営時代や学生時代の話をした。官邸での紀子との生活は人間嫌いになっていた田尾の心を溶かした。

先日の訪問先フランスでも外交優先ではあるが、少しの時間をお忍びでショッピングやティータイムを二人で過ごした。紀子は不謹慎にも、どこか新鮮で自然体な田尾に好意を持っていることに気づいた。





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