第5話 正体がバレたか
第二次矢部政権は『矢部イズム』の失敗で、経済面がガタガタ。そこに円安が進み輸入製品が軒並み値上げ、得意の外交もロシアのペーソン大統領に騙され北方領土返還交渉も棚上げ。仲の良かったアメリカのカード大統領も1期で交代し、関税問題もやまずみ。政権末期の症状での選挙戦であった。しかし矢部の狙撃以降風向きがガラリと変わった。この辺が日本の国らしい。
選挙の開票が終わり、小選挙区289人比例代表176人、改選465人の内、民自党は単独過半数を超える235議席を、連立を組む公正党は45議席を確保した。
記者会見に向かった田尾は、頭も顎の包帯も取り堂々と胸を張って「有権者の皆さん、民自党に多大いなるご期待を賜り、ありがとうございます。この矢部、自信をもって日本国のかじ取りを行ってまいります。どうもありがとうございます。」と挨拶し、その後のインタビューもそつなくこなした。隣に座っていた管も田尾が矢部に見えてきた。
その日の深夜、田尾は佐々木から矢部総理が亡くなっていることを聞いた。
「佐々木さん、私は今後どうなるのですか。詐欺で捕まったりしませんよね」
「田尾さん、これはもう私の手を離れ、もっと高い地位の方々での話し合いになっています。申し訳ないが、今後の事はわからない。明日大切な話し合いがあるので質問はその時にして下さい」
田尾はその日眠れなかった。次の朝、官邸に官房長官の菅喜朗と矢部の妻紀子、矢部の実弟で参議院議員の湊秀二が参集した。そして佐々木が田尾を紹介した。ここ数日で田尾も物真似に自信がついたせいか、身内から見ても矢部にしか見えない。知ってはいたが3人とも驚いた。
「初めまして、アルバイトで総理大臣をしている田尾一樹と申します」と変な自己紹介。湊が大笑いし、場が少しなじんだ。その後の話し合いでは田尾はこのまま矢部を演じ、第三次矢部内閣を続ける。そして頃合いを見て政治から身を引くという大まかな方針が決まった。
矢部の葬儀は秘密裏に行われた。ここでもさみしい人生の最後だった。
それから田尾は、忙しい合間を縫って湊からは矢部の小さい頃からの人となりやエピソード、癖など、紀子からは結婚してから今日までの事を。また管からは政治家矢部一郎を教えられた。
防衛省の情報本部の真田の下には、多くの情報が集まり始めた。四国の片田舎の田尾一樹という元中小企業の経営者で5年前に破産をし、一人暮らしの男を内調が東京まで連れて行って、内調の管理下のマンション(アジト)に入った。ここまでの情報は掴めたが、その後は不明である。
「なぜ田尾が内調のアジトに。そして、その後どこへ行った」徹底的に調べることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます