09年10月10日 操り人形はバラバラ死体の夢を見るか?

連休初日の本日も結構張り切ってアクティブだった私でござい。


まず午前中に彌生画廊の「加守田章二・有元利夫版画展」を見に行きましてです。

私ここもう5回くらい行ってると思うんですけどまだ一度も迷わずたどり着いたことがなく、不思議なんですけど今日もやっぱり迷いました。なんでだ。

加守田作品の陶器類はたいへん素朴で可愛らしく、有元の版画はというととても目新しかった。というのは有元といえばフレスコ画の手法でもってあたかも朽ちかけた壁絵のごとく仕上げているものがほとんどなので、版画だと逆に線のタッチとかが鮮明になるわけです。ほおおって感じですな。


近いので靖国神社に参拝してふと曇天の空に思ったんですけど、昭和天皇御存命の折、10月10日はいつも晴れだった記憶が私にはあって、子供心にやっぱすげーな天皇。とか感心していたような、気のせいだろうか。


それはまたともかくとして、そこから地下鉄東西線に乗って明治学院大学へ。

公開講座江戸糸あやつり人形座公演『バッカイ』を見るためです。

これ実は、大学構内の重要文化財指定を受けてる建物の見学に行きたいなあと思ってサイトを調べたらたまたま見つけた情報でして。誰か友達を誘おうか、しかし当大学には行ったことがないので勝手がよく分からない、せっかく行っても大賑わいの在学生優先で入れませんでしたなんてなるかもしれんしと独りで行ってみたんですけど、開場20分前で整理券番号はまだ2番であった。

結論から言うとすっごく良かったので、誰か誘えばよかったなあ。

ちなみにホールはけっこう狭くて椅子席が120くらい、かぶりつきに当たる前方の靴脱いで座る席に30人くらい。


演目は、古典狂言『茨木』とギリシャ悲劇『バッカイ』。

お恥ずかしながら最初「江戸糸あやつり人形ってなんだ??」と首を傾げていたんですが、上演の後に討議があり、そのときの説明によりますと、歴史としては江戸時代初期頃からやってたらしいけど資料が残ってないのでよく分からない、仏教説話なんかを人形を使って見せるからくりの一種だったらしい…のが、明治初めに人形師が台詞を言いながら演じる歌舞伎仕立ての人形劇になったんだそうな。

狂言のほうはさすがに伝統芸だけあって素直に面白かったです。古典の人形劇っていうと浄瑠璃とかを想像するんですけど、あやつり人形もよく動くもんだなあ。

そんで「バッカイ」がどうも曲者でしたよ。舞台の様子としては現代劇×人形劇というところでしょうか、来年2月に公開予定のものの一部分だそうですが。

困ったことに、舞台を見ただけだと「ううん?」って感想だったんです。まあ好みの問題ですけどね、表現が抽象的なのにセリフが写実というか直接的で、どうもいかにも現代劇ぽくて面映いなあという。

しかしだ、上演後の討議がえらい面白くて。なにせ参加メンバーが演出家×脚本担当の現代詩人×人形師×能楽師×役者、でもってそれぞれの立場から見た演劇との関わり方であるとか自意識のあり方だとか身体性だとかの認識をですね。語るわけですね。

もーね、みんなバラバラなんですよ。それぞれ違うことを本業で確立してきてる人たちだから当然ですけど、言ってることは経験に基づく深い実感を伴いながらバラバラ、でも観客がいて脚本があって演じてるっていう特殊な仕事をしている点では一致するから、なんとなく話は噛みあってる。やろうとしてることも、方向的にはたぶん一緒だ。

ああなるほど、そういう立ち位置でね、そういう意図でね、とか知れると非常に面白いんだけど、逆に言うと解説がないと面白さ半減な気もするんだ。実際、討議前にさっさと帰っちゃった学生さんらしき女の子たち、トイレでぶうぶう言ってたもんなあ、意味わかんないとかなんなのアレとか。


どうもね、そういうものって意外に世の中たくさんあって、日々、面白くないとか、いや作り手の意図をわかっていれば面白いんだとか、そんなの作品としては失敗だろうとか、いやそうじゃないとか、色んな物議をかもしているんだと思うんだけれど、なにかが面白いとか面白くないとかを延々と論じていられるのって、実に平和でいいことだとも思うんだ。

そんでそんなヤヤコシイものを大真面目に人生かけて作ってる人たちがいるっていうのも、本当に良いことだなあと思うわけでございました。


《2025年追記》

いま思うと、トイレの女の子たちは演出や表現方法に対してではなく「バッカイ」の内容に対して不快感を示していたのかもしれない。

可愛い人形劇を見に来たら、バッカス信仰の狂乱状態で実の息子を八つ裂きにしてしまった母親の懺悔を延々と聞かされたわけで…。

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