紫君子蘭が選んだ恋

@cieloid

紫君子蘭が選んだ恋

いいとこの育ちであることは否定したことはない。

飽きたといえるレベルではないけどモテてモテてはきた。

だからこそ、なんだかんだ親の言うことは逆らう気はない。


そんな中、親が許嫁を指定してきた。


「花が欲しいの」

「…はぁ」

そんな許嫁との最初の出会いはありふれたファミレスの一席で行われた。

「それは」

「私のために選んで?」

机に肘をつき笑顔で微笑む私に、表情があまり変わらない変わった許嫁は少しだけ眉をひそめた。

「…脈絡がよく」

「あら、簡単よ?」

「親同士が決めたとはいえ、今の私たちは恋人同士」

彼をみつめ、自分の指をもてあそぶ。いつものように言葉を紡ぐ。

「私、彼氏には最初に花を贈ってもらうと決めてるの」

「……」

「わかりました」

そういって変な許嫁は静かに頷いてその時の会話は終わった。


(とりあえず理解はしてくれたみたいだけど)

数日後、待ち合わせに珍しく少し早めについた私はぼんやりと考えた。

あの何を考えてるか全くわからない許嫁は何を持ってくるのだろう。

今までであれば…薔薇とか。ありがちではあるが綺麗で素敵だと思う。

一周回ってカスミソウという意表をつく可能性もあるかしら。

「こんにちは」

「あら、用意してきた?」

くるっと振り返ったときにも、彼は最初と同じ顔してこちらをみていた。

「はい、どうぞ」

彼が静かに置いた鉢植えに、思わず目を凝らす

それは紫色の蘭のような花

「この花、なんて花?」

知らない、とつぶやいた私に彼は淡々とこう答えた。

「…紫君子蘭です」

「初心者にも育てやすいらしく、それでいて優雅で美しい花ですよね」

「そんなところがどこでも咲ける貴女らしい、と」

そして彼は初めて笑ったのだ。

「そう、思ったんです」


そう語った昔話を彼に似た娘はそのまなざしを冷ややかに細めてこう言った。

「……育てられたの?」

「育ててたわよ?でも結局みんなが危なっかしいって代わってもらってしまったのだけど!」

「……だと思った」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紫君子蘭が選んだ恋 @cieloid

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る