第2話 帰り道と彼

 駅までの通学路を歩きながら、わたしはさっきの出来事を思い返していた。わたしのことを探して下駄箱まで来た一年生の彼。めちゃめちゃかわいかった。あの初々しさといいぎこちなさは何。普通なら職員室にでも持って行っておしまいにしそうなもんだけど。落としたことに気づかないわたしは、改札で定期がないことに気付き、ため息をつきながら片道十五分の道を学校に向けて歩いたことであろう。春は新しい出会いの季節というけど、こんなドラマみたいな展開もあるのだなと思った。

 一ノ瀬学くんか。彼はわたしの名前を憶えてくれただろうか。一年先輩というだけでちょっと馴れ馴れしくしすぎてしまったかな。緊張をほぐそうと思ってのことが逆効果だったかもしれないと、彼のそらした目線を思い出して反省する。時間がたつのは早いものであっという間に二年生になってしまった。ほんの一年前までは、着慣れない制服を着て緊張していた。お母さんが「これから身長が伸びるんだから」と一つ大きいサイズにしようとして、それを断固拒否した覚えがある。案の定、わたしの身長が劇的に伸びることはなく、今ではずっと昔から当たり前に着ていたかのように私に馴染んでいる。彼はきっとお母さんに押し切られて大きなサイズにしたんだろうな。そう考えると、一人で「ふふふ」と笑ってしまった。せっかくだから何かお礼をしようかな。

 カバンの中から花柄のパスケースを取り出し、改札に当てる。ピピッという音が鳴ってゲートが開く。そう言えば名前は聞いたけど、クラスまでは聞いてなかったなと気付く。

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