第3話 丸橋屋の小僧
男が奉公する丸橋屋は、小間物問屋として繁盛していた。
櫛、かんざし、紅、白粉、煙草入れ、楊枝など、客層は個人から大店まで幅広く、店はいつも賑わっていた。
多くの奉公人を一人の番頭が取り仕切っていた。
男は店で番頭が待ち構えている姿を思い浮かべ絶望した。
頭を叩きながら、「どうすりゃいいんだ、怒られるぞ」と喚きつつ店へ向かった。
だが、番頭の姿はなく、同郷の助七が心配そうに「番頭さんが部屋で待ってるよ」と告げた。
番頭の部屋に入った男は、叱責を恐れ、「申し訳ねえ!」と土下座した。
顔を上げるよう促されても、「申し訳ねえ」と繰り返すばかり。
番頭は呆れつつ、諭すように言った。
「生きていれば誰だって過ちを犯す。お前が謝るのは、その罪から逃れようと足掻いているだけで、償おうと言う気持ちからでは無い。
大事なのは、その後の心の始末だ。お前は不器用だが真面目だ。今まで通り真っ直ぐ務めてくれ。今夜は休みなさい。」
男は顔を上げず、謹慎を言い渡されたと思い、喚きながら部屋へ戻った。
涙で顔を濡らし、番頭にどう思われたか不安で身動きできなかったが、胸元の竹皮の包みがガサゴソと音を立てると、急に気分が変わった。
「そうか、嫌われればいいんだ! 番頭にあんなに嫌われたなら、竹皮に小判が溜まってるはずだ!」
下衆な笑みを浮かべ、竹皮を開いたが、小判はなかった。
裏返し、畳を這って探したが、何もない。男は考え込み、突然立ち上がった。
「嫌われ方が足りなかったんだ! 待ってるだけじゃ駄目だ。自分から嫌われに行かなきゃ、小判は溜まらねえ!」
男の顔には自信が満ち、別人のようだった。
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