第4話 変貌の第一歩

翌日、男はいつものように店の掃除をしていた。


すると、同郷の助七に女中がぶつかった。「危ないね! 周りを見て掃除しなよ!」と文句を言う。


普段なら見て見ぬふりをする男だったが、この日は違った。


「お前の仕事も助七さんの仕事も、主人の命令だ。共にぶつかったのに、なぜ助七さんだけが悪者扱いされるんだ!」


堂々とした物言いに、店は静まり返った。


番頭は喜色を浮かべ、「さあ、仕事に戻れ」と促した。


女中は得心したのか、「ごめんよ助七さん。今後は気をつける」と謝った。


助七はもちろん、店の者たちの男を見る目が変わった。


男は意に介さず、部屋に戻ると竹皮を開いたが、小判はなかった。


「嫌われ方が足りねえ。中途半端じゃ神様の力は発動しねえ。もっと言ってやる!」


翌日、男は他の小僧の仕事を手伝った。


車力が荷物を運び込む中、女中に思うところがあった男は女中頭に言った。


「お前らは客の顔色ばかり見て、車力が荷物を運べず困ってるのが見えねえのか?」


女中頭は反発したが、男は続けた。


「車力が一時間待ってる。客が苛立ったらどうする? 車力の気持ちを考えろよ。」


女中頭は車力の手前、男の言葉を無視できず、「わかった。荷運びの時間を設けるよ」と答えた。


車力たちは「ありがてえ」と感謝し、人足頭は深々と頭を下げた。


男の申し立ては続き、店での存在感が増していった。

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