第十四話:ツチノコを探さない日
雨音が、少しだけ小さくなっていた。
「熱もないし、大丈夫そうね。親御さんには連絡したの?」
姫の額に触れてから、一達にそう聞く宇田川。
四人は一瞬固まったが、一は満面の笑みで「今からしようと思ってます!」と答える。
嘘をついているつもりはないが、連絡がつくのかは疑問だった。
「まぁ、事件性がないなら良いわ。友達というのは本当らしいし」
宇田川は姫と四人を見比べてそう言ってから、こう続ける。
「でも、困った事があったら子供だけでなんとかしようとせずに大人を頼りなさい。分かった?」
「すみません。ありがとうございました」
真っ先にそう返事をしたのはミヒロだった。一達も、それに習って頭を下げる。
「雨も弱くなってきたし、大丈夫そうね。また何かあったら言いなさい。これ、一応私と……寺浦君の連絡先」
宇田川は二枚の名刺を取り出して、一に持たせた。名刺には『フシギテレビあなたの町の都市伝説番組スタッフ』という肩書きが書いてある。
「あ、俺この番組結構見てますよ!」
それを見て、一は驚いたような声を上げた。
「あー、コレ偶にレジ子が見てるな」
「本当だー」
名刺を覗き込むミヒロとレジ子。
あなたの町の都市伝説は偶に特番でやっているオカルト番組で、ツチノコ等のUMAや宇宙人や幽霊なんかを多く取り扱っている番組である。
それなりの知名度があり、主にレジ子が好きな番組だった。
「え、じゃあ……つまり、次の放送はツチノコなんだ……!」
レジ子が世界の真理に気がついたような顔で当たり前のような言葉を漏らす。宇田川は「取材の前って感じだから、分からないわよ」とそれを否定した。
「そういう訳だから、また何かあったら連絡しなさい」
荷物をまとめて、二階に上がる五人に声を掛ける宇田川。一達は再びお礼を言って、階段を登る。
「普通の子だし、違うわよね。でもあの子、何処かで見た気が……する。気のせいかしら」
五人を見届けて、宇田川は部屋に戻った。
☆ ☆ ☆
お腹の虫が大きな鳴き声を漏らす。虫の飼い主は姫だった。
「──とりあえず、飯か」
「お腹空いちゃった」
少し大きめで、ワンピースみたいになっているツチノコTシャツの上からお腹を抑える姫。
そうすると、自分が着ている服にツチノコがいる事に気がついた姫は、目を丸くする。
「ツチノコだー!」
「姫ちゃんにプレゼントだよー」
「やったー!」
両手を上げて喜ぶ姫。そのお腹の中で、再び虫が鳴いた。
「めっちゃ腹減ってんじゃん。ミヒロ兄ちゃん、飯」
「ん。姫、好きな食べ物あるか? あんまり具材ないけど」
ヒラケンに言われて冷蔵庫を開けるミヒロ。昨日釣った魚は食べ切ってしまったので、朝食のサンドイッチ用に買っておいたベーコンや卵なんかしか入っていない。
「んーと、お米?」
「米」
あまりにも具体的だが、あまりにも曖昧な回答。日本人の殆どが大好き、お米。
「……またチャーハンでも作るかぁ」
どのみち大した食材はないので、あり物で作るチャーハンを作り始めるミヒロ。香ばしい匂いが部屋に漂い、姫だけじゃなくレジ子のお腹も鳴る。
「ミー君の作るご飯美味しいから、楽しみにしててね」
「うん! 美味しそうな匂い」
「姫、オセロやるぞ」
チャーハンを待つ事に耐えられず、ヒラケンは鞄からオセロを取り出してテーブルの上に乗せた。
姫は嬉しそうに「やるやるー!」と目を輝かせる。
「良かった……」
テーブルゲームにはしゃぐ姫達を見て、一はホッと溜め息を吐いた。
一時はどうなるかと思ったが、とりあえずは安心である。
ただ、姫をこの後どうするかが問題だ。
「親御さんに連絡、かぁ」
山の向こうの村から来た、という姫の言葉がどうしても頭を過ぎる。
温泉で聞いた話では、西野原村という村は三年前に土砂崩れでなくなったらしい。
もし姫が言う山の向こう側の村が西野原村だったとしたら、そこに本当に彼女の家があるのだろうか。
「チャーハン出来たぞー。……これ、黒がヒラケンか? 弱」
「て、手加減しただけだし! 姫! もう一回!」
「良いよー!」
「先に飯。テーブルの上片付けろ」
オセロを一旦退かして、テーブルの上に置かれるミヒロ特製チャーハン。
「一、腹減ってないのか?」
「あ、いや。食う食う! よっしゃー、飯!」
固まっていた一に声を掛けて、挙動不審な彼の言動にミヒロは首を傾げた。
「ミヒロお兄さんのチャーハン美味しい!」
「でしょー」
「なんでレジ子が得意げなんだ。……おかわり、作るか?」
一の考えている事が全く分からない訳ではないが、ミヒロは目の前で姫が笑っている事で一旦安心している。
それがどんな存在であろうが、今はそれで良い。ミヒロはそう思いながら追加のチャーハンを作り始めた。
冷蔵庫の食材は、気が付けば空になっている。夕食の献立をどうしたものか、なんて不安も今はどうでも良かった。
「ヒラケン……弱」
「レジ子、言ってやるな」
「この俺が……三連敗」
食事を終えた五人は、再びボードゲームで遊んでいる。
オセロで負け、トランプで負け、しまいには五人を巻き込んだUNOで
ヒラケンは崩れ落ちて白目を剥いたまま干からびた青虫のように横たわっていた。
「次は何して遊ぶー?」
ひたすら遊び続けているが、元気な姫に大学生三人は唖然とする。これが田舎の子供のバイタリティという物か。
「オセロやるか、俺と」
珍しくミヒロから動いて、彼はテーブルの上から一度片付けられたオセロを再び取り出した。
「ヒラケン、見てろ。俺が大人気なさってのを教えてやる」
「ミー君が悪い顔してる」
「ミヒロ兄ちゃん……かっけぇ」
「格好良いか? コレ」
一のツッコミを無視して、ミヒロは悪人のような顔で姫の前に座る。
そして、数分後、普通に負けた。
「ミヒロ弱!!」
「うるせぇ。じゃあお前やれよ」
「ったく、しょうがねぇな。俺がオセロとはなんたるかを皆に教えてやるよ」
一は肩をぐりぐり回しながら、小物のような顔で姫の前に座る。
そして、数分後、普通に負けた。
「やったー! 勝ったー!」
「ミー君も一君もどっちも弱い」
「お、俺の方が最終的に石がミヒロより多く残ってたし!!」
「一個の差なんて変わらねぇだろうが……!!」
「一個差でも俺の勝ちですー! 残念だったなミヒロー! ザーコザーコ!」
敗者同士で汚く罵り合う二人。
そんな二人を見て、ヒラケンは「姫、コレが大人気なさって奴だ」と目を半開きにして醜い年上のお兄さんを指差す。
「分かった。白黒ハッキリ着けるぞ。来いよ、一」
「良いだろう。ボコボコにしてやるぜ」
「姫、マ〇パやろ。ゲーム機持ってきたから」
「ゲーム? やるー!」
「私もやるー」
遂にお兄さん達は醜い争いを始め、残った三人は仲良く楽しくゲームをし始めた。
ちなみにオセロは一個差でミヒロが勝った。
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