第6話 隠しフロアⅣ

「この高揚感。次はどんなモンスターとアイテムをくれるんだ?」


扉を開けた瞬間に来る威圧。身体が硬直し暫くそこから動けなくなる。


な、なんだ!?この威圧…。感じたことの無い威圧感。


多分だが、今は見えないが近くにとんでもないモンスターが居るのだろうことが分かる。


見渡す場所には石碑、石碑、石碑。


この部屋の至る所に石碑がある。


「特にモンスターは見当たらないな…」


何かギミックがあるんだろう。この部屋に入ったときのあの威圧感。何かは絶対に居る。


だが、どこにも見当たらない。


取り敢えず石碑を読むところから始めよう。攻略のヒントが書かれているかも知れない。


「汝、黄金への道へ至る者、孤独な王へと至る道」


「汝、資格を示せば彼の王に挑めし」


資格…か。その資格とやらが何か分からない。


「汝、玉座を受け入れし」


「汝、彼の王と戯れし」


「汝、光輝の欠片を貢し」


光輝の欠片はある。この課題は達成してそうだな。取り敢えずこれが資格って事で良いのか?


「汝、知力を示せ」


「ならば彼の王現れん」


知力を示せ…か。取り敢えず無数にある光輝の欠片をどこかに貢げば良いのだろうか。


やっぱ…真ん中にある玉座…だよな?


「取り敢えず光輝の欠片…十個くらいで良いか?」


十個ほど光輝の欠片を玉座の前に置く。


「特に何も起こらないか...」


他の課題をやった方が良さそうだな。


玉座を受け入れろ…どういう意味だ?玉座を受け入れる…それはすなわち王に成れって事か?あるいはその真逆か。


戯れし…は何だろう。王…と呼ばれる何かとゲームをすればいいって事だろうか?


「うん?これは…ボードゲームの一つか?」


日本で言う将棋のようなものが玉座の端に置かれていた。


多分王と戯れるのはこれの事だろう。


「取り敢えず…駒を並べるか」


取り敢えず駒を適当に並べる。どこにどの駒を置けば良いのか全く分からないが…取り敢えずこんなもんで良いか?


「”汝の力、ここにて示せ”」


「っ!?なんだこの声…」


突如として声が降りかかってくる。どこか人では無いようなその声音は恐怖を煽るには十分だった。


「”用意は出来たか。ならばその力示して見せよ”」


謎の声がそう言った瞬間に転移の魔法が発動する。


「嘘だろ!?」


今や目に見える範囲にはさっきのボードゲームの駒ばかり。しいて言うなら俺が小さくなったのか、駒が大きくなったのか、トレントなんかと比べ物にならない大きさであった。


「力を示せ…ってどういう事だよ!?」


駒が一つ動き出す。よく分からないが…取り敢えず俺がこのゲームの王って事で良いのか?


「そ、そこの駒、前に進め!」


取り敢えず命令してみる。


すると俺が命令した駒が命令通り動いた。


「なんとなく分かったぜ…。このゲームでこいつに勝てばいいって事だろ?」


ルールも分かんねぇんだけどな。


「多分だが…向こうの王を取れば勝利…って事か」


将棋もチェスも王を取るゲームだ。多分このゲームも似たようなものだろう。


「多分…見た目的にあのいかつい奴が王…だよな?」


俺が適当に置いた駒。右端に置いたその駒は一際目立って見える。


そして自陣にその駒が無い。って事は俺がその王って事だろう。


「また動いたな」


取り敢えずあの王を打ち取ることを目指そう。


「そこの駒、斜めに進めるか?」


駒が動かない。多分この駒は斜めには進めないのだろう。


「くそ…じゃあそこの駒、前に進め」


そう言うと命令した駒が動いた。


ルールを把握することが先決だな。


「そいつは斜めに動けるんだな?」


相手の駒が斜めに動く。この弓を持った駒が斜めに動けるらしい。


「おいおい…王を護ってばっかで良いのか?」


相手の動きは一貫して王の前に護りを固めるばかり。攻めと言う概念が無いのだろうか。


「こっちは攻める陣形だ」


攻撃こそ最大の防御。それを体現したような陣形になった。


「その兵が動けば王が死ぬ。これはどうだ?」


相手の陣形を崩すべく兵士の駒を一つ倒す。


勿論攻めた兵は相手の兵がすぐさま打ち取るが。


「おいおい、そいつが動いて良いのか?」


後、気付いたことと言えば。多分だが、対戦相手は俺の声を聴いている。ブラフが通じるって訳だ。


俺が言うと駒の動きが止まる。多分悩んでいるんだろう。思ったより人間みたいな奴だ。


「この手は予想できなかっただろ」


一見すればただの捨て駒。だが、相手のクセを読んだ一手だ。こいつならば狩人の駒で取るだろう。


ほら見たことか。


「それは悪手だな」


その狩人を俺は取ることが出来ないが…その狩人が動いたことで陣形に穴が開いた。


この隙を攻めれば何れこっちに有利に働く。


もう一度駒を動かす。これも捨て駒にしか見えない。


「お前なら魔術師で取ると思ったぜ」


相手が魔術師で俺の駒を討つ。だが…狩人を動かした事によりその魔術師が動くと陣形が崩壊する。


「その魔術師と狩人はもう王を護る資格は無い」


そこから盤面は一気に崩壊していった。数分もかからない内に相手の王を打ち取る事に成功する。


「取り敢えず、試練が一つクリアできたか?」


試練の書かれていた石碑が一つ割れる。


試練をクリアするとその試練が記載されていた石碑が割れるみたいだな。


「ん?じゃあ適当に光輝の欠片起きまくったらいつかクリア出来るんじゃね?」


って事で実際に試してみた。


「簡単にクリア出来たな」


そもそもこれを試練と呼んでいいのかは疑問だけどな。ただお供え物をするだけだしな。


残るは…玉座を受け入れろ、知力を示せか…。


「玉座を受け入れろ…どういう事だ…」


この空間の真ん中に置かれた玉座。ただし、誰も座っていない。


受け入れろ…受け入れろか。


解らん。取り敢えず…座ってみるか?


「にしては人用の大きさでは無いよなぁ…」


余りに巨大な玉座。座るには登る必要がある位だ。それくらい巨大な玉座だった。


孤独な玉座…何か関係するのだろうか。孤独…か。


孤独な玉座を受け入れる…すなわちどういう事だ?


「孤独な玉座を受け入れる…それこそ王の不在を受け入れる事なのか?」


既に王なんて居ないが…どうやって受け入れろと言うんだ。駄目だ…この試練だけはどれだけ考えても分からない。


ここから出る手立ても無いからな…この答えが分かるまでここで暮らすことになりそうだ。

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