幸せのボーダーライン

本郷さんという劇薬がみんなを完全に分裂させていく。

もう精霊王が・・・なんて話をする空気ではない。


しかし俺もそれどころではない。

この砂漠のように乾いた人生にも、うるおいが・・・ついに春が来ている。

いや・・・そんなわけない。

この俺にそんな時代が訪れるわけがない。

そうだ浮かれてはいけない。

これはなにか大きな落とし穴があるはず・・・。

「ねぇ徹、生徒会長選挙の演説の原稿はこんな感じで良いかな?」

本郷さんがぴったりとくっついて横に座っている。

・・・もう落とし穴に落ちてもいいかもしれない。


「あら?お2人楽しくやっていらっしゃるようですわね」

「あっ高峰!僕たち楽しくやってるよ。相性が良いみたいだし」

「ふふっ・・・そうですの・・・それはよろしいですわね・・・」

「あの・・・生徒会長より精霊王のほうが気にならないかな?王だし規模感も大きいし・・・」

「何を言っているの?生徒会長であってこその高峰怜奈ですわ!生徒会長でない私など考えられませんわ」

「そこまでのものでは・・・」

「いいえ!そこまでのものですわ。私は生徒会長に返り咲きます。それまで精霊王の件は放置しますわ」

ダメだ・・・生徒会長への思いが強すぎる・・・。

本郷さんという劇薬は今も確実に効いている。

もう俺だけではどうにもならない。

助けを求める。


「相模原!!」

「えっ?俺?生徒会長とか興味ないからパス」

「じゃあ香春さん!」

「私も・・・興味ない」

「亜里坂・・・さん?」

「バトルならやる気出るんだけど選挙じゃなぁ私もパスだな」

「水無月さん・・・あの・・・」

「気持悪いから話しかけないで」

「いや・・・何にもないんだよ何にも・・・」

「その状態で?その状態で何を言っても気持ち悪さが増すだけなんだけど」

「えーなんでぇ仲の良さが出てて微笑ましくない?」

「気持悪いだけよ」

「ひどいなぁ気持悪いだなんて僕はショックだよ」


香春さんこれ以上燃料を投下しないで!!炎上が止まらない。


「あーもう嫌!嫌!嫌!降格よ降格!!犬小屋から出てって!今日から犬小屋の裏の物置に住んで!!」

「物置って人の住むところじゃないじゃん!」

「犬小屋だって人の住むところじゃないわよ!」

「そうだけど・・・」

「渡瀬ごときなんて物置で充分よ!!」


飛び火、思わぬ角度で飛び火する被害・・・こうして俺は犬小屋から物置へ引っ越しをすることとなった。

そして物置


「思ったよりは広い・・・が・・・相模原なぜお前がここにいる?」

「いやだって物置に降格引越しだろ?」

「降格引越し・・・そんな言葉はない」

「しかし水道とかもないし不便だな。前は犬小屋とは言え上下水道完備冷暖房完備だったのにな」

「おまえは帰る家あるんだから帰ればいいだろ?」

「そんなわけにいかないだろ、ともに犬小屋で過ごした仲だ。引っ越すというなら一緒に行くだろ」

「別に帰ってくれて良いんだが・・・」


そしてなんやかんやがあり臨時で行われた生徒会長選挙、多数の候補者が立候補し混迷を極めるかと思ったがあっさり圧倒的な獲得票数で本郷亜希の勝利に終わった。


「終わった・・・完全に終わりましたわ・・・」

高峰さんが膝から崩れ落ち部屋の隅へと転がって行き、そのままどんよりと黒い影と化した。

悲壮感がすごすぎて声がかけられない。


「あれ高峰?なに消し炭みたいになってんの?僕がわざわざ会いに来たのに」

「・・・・・・」

「精霊王を殺しに行こうよ」


高峰さんは微動だにしないどんより陰ったままだ。


「うーん計算間違ったかな?生徒会長辞めさせたら精霊王殺しに専念するしやる気も出すかと思ったんだけど・・・しょうがない生徒会長変わってあげるから!殺しに行こうよ!」

「・・・いらない」

「困ったなぁ、じゃあ徹一緒に精霊王殺しに行こうよ」

「えっ嫌だよ殺したくないし」

「精霊王を殺すって?」

「あー水無月ぃちょうどよかった。高峰こんなになっちゃってさ役に立たないから一緒に精霊王殺し手伝ってよ」

「なんで私が精霊王様を殺すのよ」

「手伝ってくれたら僕の徹あげるからさ」

「いらないわよ!!!いらないからね!!」


ねって俺を見ながら念を押すなよ。

可哀そうだろ俺が・・・。


「えー徹何とかしてよ僕困ってるんだけど」

「困られても俺も困る。そもそもなんでそんなに精霊王を殺したいんだよ」

「なんでって僕さ超能力者で精霊で・・・悪魔でもあるからさ精霊王ってじゃまなんだよね」

「悪魔・・・おまえ悪魔なのか?私自分以外の悪魔初めて見たぞ」

「えっ亜里坂さん友達いないの?」

「水無月さん・・・そんなこと聞いちゃダメ・・・」

「香春や俺ですら友達いるぞ」

「相模原君・・・追い打ちはダメ・・・」

「まてまて悪魔を見たことないだけだ。友達は普通にいる!勝手にかわいそうなやつするなよ」

「無理しなくていいのよ」

「だからいるって言ってるだろ!」

「盛り上がってる所あれなんだが重要なのは・・・亜里坂さんの友達がどうとかよりも本郷さんの衝撃的告白、俺が水無月さんのものになったという事だ」

「なってないわよ。もらってないから」

「えーせっかく僕があげたのに」


ゆずりあい・・・俺のゆずりあい・・・俺可哀そうじゃね?ちょっと涙ぐんじゃうよ。


「あのさそもそも論なんだけどさ精霊王どうするも何も見つかってないんだから議論しても意味なくね?とりあえず見つけないと」


相模原・・・正論だ、珍しくド正論だ。

どうした相模原?


「・・・そうなの?僕この辺にいるもんだと思ってたのに・・・徹、そうなの?」

「そうだね行方不明だね精霊王」

「行方不明?じゃあ僕のやってきたことって無駄じゃない?早く言ってよ徹!」

「知らん知らん目的知らなかったし」

「えーじゃあ生徒会長とか僕いらないんだけど、まあ徹は持っておいてもいいけど」

「くれたのよね」

「でもいらないって」

「いらないけどもらっておくわ。いらないけど・・・」


いらないけど連発・・・悲しすぎる。


「渡瀬君今日から犬小屋に戻っていいわよ」

「いっ犬小屋に・・・戻れる!!」


なんと水無月さんツンデレか?俺を犬小屋に戻してくれるなんて・・・。

「やったこれで人の暮らしが出来るぞ」

「いや犬の暮らしだろ!」

「相模原!余計な事言うな。今俺は喜びをかみしめてるんだ」

「お前・・・幸せのボーダーライン下がりすぎじゃないか?」

そんなことはない俺は幸せだ。


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