第5話
──まぁいいかじゃねえ。全然よくなかったわコレ。
「いいかぁ余計な抵抗はすんなよガキ共? しょせん異能を使えなきゃテメーらはただの一般人なんだ。死にたくなきゃ黙って震えてろ」
ゴツい自動小銃を携えた黒いローブの集団の中から、おそらくリーダー格と思われる男が出てきて座らされている学生たちにそう告げた。
そうそう、これ。
このイベントね。
柏木が転校してから一ヵ月が経ち、異能者たちによる武闘大会の予選を目前に控えた学生たちは、クラス合同の強化林間合宿に参加することになっている。
もちろん柏木や隣のクラスのアリア・イフリーティア王女殿下もだ。
そこで学園都市の外れにある山奥の施設へ赴く、のだがそこで事件が。
黒幕の息がかかった武装犯罪者グループに襲撃され、能力を無効化させるガスをバラ撒かれて絶体絶命のピンチに。
そこでガスを吸引せず逃れることができた柏木を始めとする少数の学生だけで武装グループを討伐する、というのが原作にあった展開だ。
……なの、だが。
「私が囮になって銃口を引き付けるから、柏木はその隙に」
「いや待ってイフリーティアさん、それは危険すぎるよ。キミの炎のアーマーは強力だけどガスを吸い込んだらその瞬間に無効化されてしまう。そうなったら銃弾を防ぐ術がないじゃないか」
「剣だけで戦うアンタよりは囮向きでしょ! それに私なら──」
「でも──」
「ふ、二人とも、言い争ってる場合じゃ……」
……こんな感じで難を逃れたチームもグダグダになってしまっているのが現状だ。
こうして隠れて生き残っている学生は他にいないようで、この場を解決できるのは柏木と王女様、俺と……彼らを宥めているそこの伊々月だけになっている。ちなみに鳴海はワケあって合宿そのものに参加していない。
とりあえず伊々月に関しては一旦置いておくとして。
問題は作戦について口論している目の前の男女二人だ。
「んもうっ、そんなに時間ないのよ! いいから私を信じなさいって、柏木!」
「そっちこそ僕を信じてほしい。攪乱ならスピードが速い僕の方が適任だ。イフリーティアさんはみんなを……」
ずっとこの調子である。おかしい、原作では割とサクッと片づけてたはずなのだが。
──いやまぁ、理由に関しては明白なのだ。というか、ついさっき気がついた。
この二人のお互いの好感度がそこまで高くなく、なおかつ『映司』や『アリア』と名前で呼び合ってすらいない現状にはワケがある。
かませ犬の討伐が無くなったことが大きな一因なのだろう。
ピンチに陥った王女殿下を圧倒的な強さで救うことで少年はアリア・イフリーティアにとって『転校生の柏木』から『信頼できる学友の映司』へと変化する。
逆もまたしかりで、悪漢に後れを取らないよう自らを鍛え直す少女と触れ合う中で、彼にとってもイフリーティアは大切な『友人のアリア』になるわけだ。
……うん、なんか大事なイベントだったらしいな、対レイド・ラルオット戦。
イフリーティアや鳴海、まだ見ぬ新ヒロインたちとの“繋がり”自体は持っているようだが、事件を起こした学生の捕縛という活躍が無くなったせいで、そこに起因する流れそのものが悉く失せてしまっているみたいだ。
ふむ。
なるほど、しょうがない。
俺はレイドという一人の学生が道を踏み外して人生を台無しにすることがないよう立ち回っただけなので、現状が自分のせいだとはこれっぽっちも思っていない。
あくまで悪いのはあそこで学生たちをビビらせて暴れ散らかしている犯罪者たちだと考えている。
そもそも俺が元のレイドと同じような事をしたところで、この世界によく似た物語と同じ道筋を辿っていたかどうかは誰にも分からないことだろう。
──とはいえこの状況に関して無関係とも言い難い。
かもしれないを考慮して、未来のために主人公とメインヒロインの間を取り持つくらいはできたはずだが、俺は何もできていなかった。
それを仮に責任として捉えるのであれば、清算するべきタイミングは今この場をおいて他にはないだろう。
「……なぁ柏木くん、イフリーティア。ちょっといいか」
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