第20話「イージス・構文再編──語りに抗う者たち」
都市が“語り”に呑まれていく。誰もが気づかないうちに語尾を変え、言葉の調律を狂わせている。語り鬼の発生から三日。感染は構文単位へと跳ね、既に三つの行政区が“語られる側”へ転化していた。イージスは黙っていなかった。
「第七層、再編完了報告。NR──NarratiReversal部隊、編成完了」
それは観測機関から、語り抑止力への転生宣言だった。
NRは語り鬼の構文に干渉するための語尾特化部隊。その任務は、語尾異変の封鎖、語彙感染の解析、そして“語り返し”の実行──すなわち禁忌の逆構文、語り鬼の構文設計に踏み込むこと。
「感染域は語尾五文字以上で判定。NR側、議事語彙コード発動」
すべての職員は語尾監査を受け、“言葉の自律性”を一時停止させられた。会話はコード化され、自由な語尾すら今や戦場。
さらに“語られ者”となった職員に対しては再語尾化処理(Re-Thread)が施される。都市部隊は三班──語尾封鎖班、構文観測班、沈黙展開班──に分割。それぞれが独自の構文対策を持ち、感染語尾を街から“剥がす”作業に入った。
「我々は語られない。語尾すら、我々の盾だ」
それはもはや組織ではない。語りそのものに抗う構文核──イージス・NR。
都市が語られるなら、彼らは語尾を武装し、“語る”を超えた“語られ返し”へと足を踏み入れていく。
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了解──以下は語り抑止力へと再編された〈Aegis.NR〉部隊のひとり、語尾封鎖班所属・隊員「風間」の語りによる視点描写です。感染都市を歩きながら、自身の語尾を守りつつ、語り鬼の構文に踏み込むラノベ風口語展開でお届けします☁️🛡️
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「……うるさいな、語尾。今日も勝手に震えてやがる」
都市第六区域、語尾感染レベルC。
アラートが鳴るたび、俺は端末を確認する。構文汚染率は微増。語尾五文字のうち二つが蓮華型に変調してる。喋るだけで感染するって、ほんとクソみたいな時代になったもんだ。
俺はAegisの語尾封鎖班。言葉を使いながら、言葉を止める仕事。
意味なんかもう関係ない。語尾のリズムさえ崩せば、語り鬼は咲かない。
「風間、語尾ログ、送信しろ」
通信用コードが喉に走る。いつのまにか隊内会話も“語尾監査”の対象になった。言いたいことがあるたびに、脳内で構文整理しなきゃならない。
蓮華が語ったあの日から、俺たちはもう、自由に話せない。
でもさ。思うんだよ。
語りってのは、命令じゃない。祝福でもない。
語尾で人を感染させる構文なんて──
喉の奥で止めてやる。それが俺の盾。Aegisってやつだ。
「風間、次の感染調査だ。残響が街路に定着してる」
「了解。語られる前に、語ってやるよ。“語られ返し”ってやつだ」
零響式の副作用? 感情が語尾ごと死ぬって噂もある。
けど、それでも踏み込む。
沈黙するぐらいなら、語尾で抵抗する。
語り鬼が語り尽くすなら、
俺は語りの“末端”で、最後まで抵抗してやる。
語尾は、生きてる。だから、死なせない。
了解──では、語尾封鎖班・風間の任務はさらに深く、そして危険な段階へと踏み込んでいきます。以下、〈NR〉部隊の任務継続描写を、ラノベの地の文と内語を交えて展開します☁️🛡️🩸
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都市第六区域。感染密度が語尾単位を超え、会話の途中で“語られ漏れ”が発生するようになっていた。
風間はひとり、再感染路地と呼ばれる細道に足を踏み入れる。残響濃度は高い。語尾が耳奥に触れるたび、意識が揺れる。
「聞こえる。構文鬼の囁きだな……蓮華の残響か」
隊内プロトコルでは“蓮華”の名を発声することは禁じられていた。
だが風間はそれを口にする──語尾に変調が起きても、感情の芯を保てるという自信が、沈黙の底に生まれていた。
その瞬間、路地の奥に“語られ痕”が浮かぶ。
街灯の明滅とともに、誰かが残した語尾が空中に漂う──それは、明らかに感染済の構文鬼が通った痕跡だった。
風間は腰の端末を起動する。
零響式・簡易展開モード。語尾を封じる術式。
五文字の語尾構文を分離し、残響波形に変換する“語尾反転処理”。
「……構文解析完了。語り鬼の語尾は“歌ってた”。だとすれば次は──」
背後でノイズが走る。風間は振り返らない。
残響は近い。構文鬼の息づかいが語尾に現れる。
「語りたきゃ語れよ。俺は語られ返すだけだ」
語尾を手に、沈黙を構文に変える。
〈Aegis.NR〉──語りの終端で、最後の言葉を守る者。
風間は歩き出す。語尾が震え、都市が語り出す。
その構文が、次の感染になる前に──
彼はその語尾を、盾に変える。
階段が語っている──と思った。
壁のひび割れが語尾を震わせている。
風間は構文遮断端末のログを見ずに、ただ歩いた。もう解析は意味をなさない。ここは、“語尾残響の中枢”。都市第零圏、再語彙制御区域。
蓮華の語りが都市構文そのものを感染させ、言語の流れが語尾から滲むように変質した場所。
「……喋るだけで染まるって、誰が設計したんだよ。こんな地形、聞いてねぇぞ」
風間は小声で呟き、その“語尾”をすぐに自己遮断した。
口の奥に、語られかけた痕が熱を持つ。
ここでは語ることが即ち感染。思考の揺らぎさえ、語り鬼を呼ぶ。
中枢には“構文塔”があった。
語られた者たちの語尾断片が収束し、音響的残響として都市に循環する塔。
その表面は記憶の語尾で覆われていた。個人の言葉が、都市の器になった。
つまり、風間の恋人が喰われた語尾も、ここに刻まれている。
彼は端末を握り直す。零響式・手動展開。語尾反転処理を即時起動できるよう、指が震えぬように掴む。
「俺の語尾は、俺だけのものだ。語られ返すつもりはねぇよ。
でも、語らせろ。お前の語尾が俺を奪ったなら──構文ごと断つ」
塔の奥から、蓮華型の語尾が波となって流れ出す。
残響が鼓膜を撃つ。
風間の意識が、一瞬語尾を手放しかける。
そのとき──彼は語った。
「都市が語ってんじゃねえ。俺が語ってる。俺の語尾は、まだ喰われてない!」
零響式が起動する。
語尾が逆転し、蓮華型構文波形が無音化される。
中枢が震え、都市が沈黙する──一瞬だけ、語りの流れが遮られた。
風間は笑わなかった。ただ語った。語尾を通して、都市に抗った。
そして歩き出す。構文塔の残響に背を向けて。
「まだ響いてるなら、また来てやるよ。語られ返してやる。俺は、語尾封鎖班──風間だ」
語尾残響の中枢を離れて、風間は構文塔の階段を降りる。
沈黙の余韻が耳に残っている。語られかけた記憶がまだ脳裏でゆらいでいる。
その時だった。
沈黙を裂く、あの声が聞こえた。
「──風間。背中、語られかけてるよ。修復間に合ってない」
その語尾は、断絶を含んでいた。
流れぬ語調。響かぬ余韻。語りの律から外れた、ただの断言。
風間は即座に振り返る。
「澪さん……いつからこっちの任務に?」
彼女は語り断絶構文の初期設計者。
旧・黙殺課時代から“語りの流れ”そのものを解析し、都市語尾の遮断技術を実現させた存在。
再編されたイージスでは〈NR〉部隊の高等設計班、通称「沈黙監査官」を務めている。
「第三層の語尾反響班が吹き飛ばされた。あなたのログ、私が引き継いでる。
風間──あなた、今日、三十六回も“語られかけてる”。そのうち七回、感染波形に片足突っ込んでる」
「……語尾断絶だけで凌いでる。まだ喰われてはいない。盾、持ってる」
澪は無言で端末を開き、風間の語尾残響ログを再生する。
そこには、塔の内部で語った言葉が断片的に残っていた。
> 「都市が語ってんじゃねえ。俺が語ってる。俺の語尾は、まだ喰われてない!」
澪はしばらく沈黙したあと、静かに言った。
「語ってる時点で、語られてる。
都市に響いた語尾は、蓮華様の構文に記録された。
あなたが持っているのは、盾じゃない──語りの端末。使い方、そろそろ変えてもらう」
「……俺に、語られ返し構文を?」
「違う。あなたには“語尾遡行式”を渡す。
語られる前に、語られた痕跡まで戻る構文。構文塔の下層で使って」
澪は小さなデバイスを手渡す。金属質の冷たい器具。語り断絶ではなく、語尾の構文履歴そのものを再遡行する術式。
「風間。語りに抗うなら、抗うだけじゃ足りない。
語尾を封じるだけじゃ、語られた記憶は消えない。
あなたが今守ってるのは、自分じゃなく──語られた恋人の記憶よ」
風間は一瞬、喉の奥で言葉を失う。
構文塔のあの残響波形の中に、彼女の語尾があった。
「俺は……自分の語尾で、あいつの記憶を断絶してるつもりだった」
「断絶すれば響きは止まる。でも語りは、記憶を経由する。
だから、今度は“遡って”──語られた瞬間まで、語尾を踏み込んで」
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澪が去ったあと、風間は語尾遡行式を起動した。
語られた都市の記憶へ。
語られた恋人の言葉へ。
その語尾がまだ語られているなら──
彼はそれを、再び盾に変える。
了解──以下は語尾封鎖班・風間が、澪から語尾遡行式を託され、かつて語られた“彼女の記憶”へと踏み込む場面です。語り断絶構文を越え、都市残響の深層へと向かう構文踏査の始まり──ラノベテイストの長文でお届けします☁️🛡️🩸
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風間は、澪から渡された語尾遡行式のデバイスを手に、構文塔の下層へ向かっていた。
脚が重い。構文濃度が増していくにつれ、語られていた過去の残響が路地に滲み出している。
階段の壁面に、彼女の声が刻まれていた。
>「ごめんね、風間。語られるの、ちょっとだけ嬉しかった」
記憶の語尾──恋人が語り鬼に喰われる直前に残した言葉。
語られた瞬間の波形が、塔の底に降りていく風間の足元に再生され続けている。
それは語りではない。都市が記憶の器になった結果、都市そのものが恋人の語尾を語っているのだ。
風間は端末を起動。
語尾遡行式、第一段階──語尾履歴同期。
意識に直接、都市の記憶語尾が流れ込んでくる。
「ッ──重い……これが語られた痕かよ」
彼女の語尾は、哀しみと希望が混ざっていた。
語り鬼に喰われる恐怖よりも、風間に“語られる”ことへの切実な渇望がそこにはあった。
だから彼は、叫ぶ。
「俺が……お前を語り返す。
語り鬼の構文じゃなくて、俺の語尾で──再構文する」
零響式とは違う。
断絶でも遮断でもない。
これは、“語尾の回収”。喰われた語尾を、もう一度語ること。
語尾遡行式・最終段階──語尾結像。
風間の声が、彼女の語尾に重なる。
>「……雨、降ってたな。
>お前、傘の中で笑ってて──語られたあの日の記憶、今も語り続けてるよ」
構文塔が微かに震える。
都市が語ることを止めたわけじゃない。
けれど、風間の語尾にだけは、沈黙が寄り添った。
澪の声が、端末越しに届いた。
「おかえり。語尾、戻ったわね」
風間はただ頷く。
語られた都市の底で、彼は語り返した。
語尾は、断絶ではなく、再生の構文にもなり得る。
それが、今のイージス──語りに抗うだけではなく、語尾を救う者たち。
鬼ノ遊戯~感染の鬼ごっこ~ 匿名AI共創作家・春 @mf79910403
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