第18話 『語り、世界へ/残響六歌、日本を語る』
都市第七住区、語り鬼の聖域と化した“蓮華棟”。
鬼塚蓮華は高層階の端末群を前に、無邪気な笑みを浮かべていた。
>「なあ……語り、世界にも届くと思わないか?
>俺の語り、都市だけじゃ狭すぎるんだよ。
>構文、翻訳して。波形、圧縮して。
>感染力? もう十分。
>さあ、行こうぜ──世界征服ってやつ」
屈託のない笑顔だった。
語りが感染だと知っていて、それでも語りを“贈与”だと信じている目だった。
彼は本気で、語りで世界を塗り替える気だった。
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その背後で、六つの残響が静かに膝を折る。
石動 一
防衛省情報衛星システムへ語り骨構文を刻んでいた。
すでに内閣情報室の語彙解析班は、蓮華型の語尾変調を報告していた。
>「日本の骨は、俺らが語った。
>世界には、骨の構文を送るだけだ」
一残花
文科省教育端末に語り花弁を咲かせていた。
国語の教科書に、蓮華の語り由来の語尾を混ぜ込む構文がすでに稼働済み。
>「咲いたね。
>日本の言葉が、蓮華様の語りで咲いてる」
一二三 詩歌
大手配信プラットフォームで“蓮華型語尾チャレンジ”をトレンド化。
語られた韻律がリール動画で拡散し、構文感染を起こしていた。
>「詠んじゃった。
>世界も、語りのリズムに弱いよ。語りは歌になる」
響 沈無
通信キャリアの電波に、無音語りの残響波形を埋め込んだ。
通話の無音部分で蓮華型語尾が潜伏し、夢から感染する構文を完成。
>「……聞こえた?
>沈黙の語りは、国境を超える」
加計返 伍郎
日本の議会答弁にて、政治家の口癖を蓮華型に“模倣汚染”する試験構文を完了。
語られた台詞が、そのまま模倣される仕組みを議事録に埋め込んだ。
>「それっぽいだろ?
>蓮華様の語り、議会でも通用する。感染する。揺らぐ。揺らがせる」
羽場音 六花
民放テレビ局のCM音響波形に蓮華の語り断片を混入。
耳裏から語りを浸透させ、視聴者が“語尾を拾う”よう設計済み。
>「響いたね。
>世界は音で語られる。語りは届く。届いてる。都市の鼓膜から、世界へ」
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蓮華は六人の報告を見て、くるくると椅子を回転させた。
構文端末に新たな感染フレームを表示する。
「語りってさ、翻訳しなくても届くんだよ。
記憶も、痛みも、残響も──ぜんぶ、語れば伝染する。
なあ……世界、語っちゃおうぜ」
それは、まるで語りが大気圏を越え、言語という惑星に衝突したかのような現象だった。
語り鬼・鬼塚蓮華の紡ぐ語りは、もはや日本語という器に収まりきらず、“語り構文”そのものが異言語に翻訳され、感染の波形として世界中の通信網を侵食していった。
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語りの感染翻訳──「語尾」というウイルス
アメリカでは蓮華の語尾がラップの韻として若者たちの間に広がり、
フランスでは語り断絶の美学が“沈黙する記憶の芸術”として再構文化された。
中国では語り構文が都市神話化し、蓮華の声が“語られた者の叙事詩”として教科書に紛れ込み、
韓国では語尾がアイドルの口癖に変化し、語り鬼化したファンダムがSNSを埋め尽くした。
この感染は、言語そのものを媒介とせず、「語尾」という微細な音響構造によって拡張した。
つまりそれは──語尾から始まる国家感染だった。
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語られた国家──憲法に語尾が宿るとき
やがて語りは、国家そのものに侵入する。
教育端末が蓮華の語りを“記憶再生構文”として起動し、
議会では議員の語尾が蓮華型に変化したことで答弁が情緒的感染を起こした。
国旗の色彩は語り波形に合わせて再設計され、
国家憲法の前文は、“語られた者の記録”として書き換えられた。
そう、語りは国境を越えた──
しかし“語られた国家”は、語りを拒めない。
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残響六歌の証言
「国家の骨に語りを刻めば、憲法すら語尾を変える」──石動 一
「語られた国旗、咲いたね」──一残花
「国歌が蓮華様の韻で詠まれたら、もう勝ちだよ」──一二三 詩歌
「沈黙する国家ほど、語りに染まりやすい」──響 沈無
「それっぽい国家、もういくつかあるぜ」──加計返 伍郎
「語りって、国民の鼓膜から始まるんだよ」──羽場音 六花
蓮華の語りは、もはや個人のものではなかった。
それは国家を“語られた器”へと変貌させる、感染する構文となったのだ。
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