第17話『語られなかった職歴、語り断絶者の誘い』
都市第七住区、旧配信端末保管区画。
残響六歌の語り波形が都市第六住区を完全に覆った直後、澪と氷室は逃げ切っていた。
逃避型構文による語り回避は、都市構文の隙間を縫うように機能し、澪の語り断絶構文と共鳴することで、感染を免れた。
澪は息を整えながら、氷室の端末を見つめた。
そこには、語り遮断ではなく“語りの撓み”によって感染を避ける術が記録されていた。
「……氷室、あんた、これ……いつから使ってたの?」
氷室は少しだけ笑った。
その笑みは、語り鬼に晒された者のものではなく、語りから逃げ続けた者のものだった。
「俺が逃げたのは、語り鬼からじゃない。
もっと前から、現実から逃げてた。
仕事も、生活も、全部。
語られるのが怖くて、語られる前に逃げた。
それが、俺の“逃避型構文”の始まりだった」
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氷室の回想は、都市第三区の旧Onigame本社跡地にまで遡る。
彼はかつて、語り構文解析官として働いていた。
だが、語り鬼の初期感染構文に触れたことで、語られることへの恐怖が芽生えた。
語られた記録が、自分の声より強くなる。
語られた過去が、自分の記憶を上書きする。
その感覚に耐えられず、氷室は職場を去った。
語られないために、語られそうな場所から逃げ続けた。
「無職になったのは、語りから逃げた結果だ。
でも、逃げ続ける中で、語りに触れずに済む構文を作った。
それが、今の俺の術だ」
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澪は黙って聞いていた。
語り断絶者として、語りを記録することに人生を捧げてきた彼女にとって、氷室の語り拒絶は、理解できないものではなかった。
そして、彼女は静かに言った。
「氷室。黙殺課に来ない?」
氷室は目を見開いた。
「……俺が? 語りを断つ側に?」
「違う。語りを避ける側として。
黙殺課には、断絶だけじゃなく、回避も必要なの。
あんたの逃避型構文は、語り断絶者の補完になる。
語られないために逃げたあんたの技術は、語られないために戦う私たちに必要なの」
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氷室はしばらく黙っていた。
そして、端末を閉じた。
「……語られないために逃げた俺が、語りを守る側になるのか。
皮肉だな」
「皮肉じゃない。
語りは、逃げることも含めて語りだから」
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了解しました──以下は『鬼ノ遊戯』第十五話の中盤として、残響六歌が澪と氷室の逃亡を許した直後、蓮華からの帰還命令を受け、語り感染を撒き散らしながら都市へ戻る場面をラノベ風長文で描写しています。六人それぞれの語り構文が都市に残響を刻みながら、次なる語りの器を探し始める描写です。
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都市第六住区、感染波形の最深層。
澪と氷室の逃亡が確定した瞬間、残響六歌の六人は一斉に沈黙した。
語りの器を逃したことは、蓮華の構文にとって“語りの断絶”と同義だった。
その沈黙を破ったのは、蓮華の声だった。
都市構文に直接刻まれるような、低く、冷たい語り。
>「六歌、帰還せよ。
>語りの器は逃げた。
>だが、都市はまだ語られていない。
>残響を撒け。語りの種を刻め。
>次の器は、都市が選ぶ」
その命令は、語りではなく“構文の指令”だった。
六人はそれぞれの語り構文を起動し、都市へと帰還を開始する。
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石動 一
彼の足元が軋むたび、舗装が“語られた記憶の墓標”に変化する。
語り断絶者が通った道を、語りの骨で塗り替える。
>「逃げた器の跡地に、語りの骨を刻む。
>都市は、語られた痛みを忘れさせないだろうが」
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一残花
彼女の指先から、語り花弁が舞う。
澪の記録に触れた残響が、都市の壁面に“語られた記憶の花”として咲き始める。
>「咲いたね……澪ちゃんの記録。
>語られなかった語りほど、都市はよく咲くの」
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一二三 詩歌
彼女の語りは、都市のスピーカーに韻律として侵入する。
通行人の語尾が、知らぬ間に詩化されていく。
>「詠んじゃった。
>都市って、語りの韻に弱いんだよね。
>誰かが口ずさめば、それが語りになる」
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響 沈無
彼の語りは、無音の残響として都市の地下構文に染み込む。
誰も聞いていないはずの語りが、誰かの夢に響き始める。
>「……聞こえた?
>語られてない語りほど、深く沈む。
>都市は、沈黙を語る器だから」
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加計返 伍郎
彼は蓮華の口調を模倣しながら、都市の端末に“偽蓮華構文”をばら撒く。
語り鬼の影が、都市の至る所に“それっぽく”残る。
>「それっぽいだろ?
>蓮華様の語りって、模倣するだけで都市が震えるんだよ。
>本物じゃなくても、語りは残る」
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羽場音 六花
彼女は音響感染を起動し、都市の鼓膜に“語りの残響”を刻む。
語り断絶者が通った路地に、音の波形が定着する。
>「響いたね。
>澪の耳裏に残った音、都市が拾ってる。
>語りって、音の記憶だから」
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六人は語りの器を逃した。
だが、語りは逃げていない。
都市が語りを記憶している限り、語り鬼の構文は残響として拡張され続ける。
蓮華の命令は、語りの断絶ではなく、語りの再構文化だった。
残響六歌は、語りの器を探すのではなく、都市そのものを語りの器に変えるために帰還していた。
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📡【都市第七住区語り掲示板】残響六歌を語るスレ #426
──この語りは、構文じゃない。崇敬だ。
スレ立て人:影構文研究班(三巡目)
澪と氷室が逃げ切ったみたいだけど、正直それはそれとして……残響六歌、強すぎじゃないか?
語りの設計思想が多様すぎる。都市構文そのものを語りの器に変えていく設計、震えた。
💀石動 一(断定の墓彫り師)
語尾「〜だろうが」の重さが異常。語りを骨格から変える存在。都市の舗装って彼に語られてたのかって思った。
「断絶はまだ甘い。骨に語れ」が刺さる。伝説級。
🌸一残花(語り花弁の記憶刺客)
語りが“開花する記憶”って発想がもう芸術。
残響で澪の記録を咲かせる構文……やられた。美しさに怖さが混ざってる。
🎶一二三 詩歌(韻律感染構文持ち)
投稿者たちが語尾で韻踏み始めてるのマジで怖い。
「詠んじゃった」で感染するって、都市のスピーカーが詩の感染源になってるの本気で危ない。
🔇響 沈無(無音語りの霊圧使い)
実質“聞こえてない語り”の始祖。語ってないのに語られるとか反則。
澪に幻聴レベルで入ったあの残響、誰が防げるの。
👥加計返 伍郎(語り鬼のモノマネ暗殺者)
「それっぽいだろ?」で都市端末に蓮華様の語りを偽装するとか、悪質すぎて逆に美しい。
模倣型の最高峰、語りのカバースキルが異常。
🎧羽場音 六花(耳裏感染型音響使い)
語りを音で伝える天才。都市の鼓膜、彼女に語られてる。
音の波形だけで語りを刻める構文ってもう語り超えてる。
断絶者たちよ、逃げるだけじゃ残響は消えない。
六歌は都市そのものを語りの器にしている。
語り鬼の右腕たちが、都市の記憶を詩と沈黙で焼いていく──これ、ほんとに止められるのか?
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