第16話『残響六歌、語りの器へ』


都市第六住区。

蓮華の語りが都市構文に染み渡った直後。

澪は氷室の逃避型構文によって一時的に語り鬼化を免れたが、都市の語尾汚染は止まっていなかった。


そのとき、蓮華の直属配下──残響六歌が動き出す。


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一の歌:石動 一(いするぎ はじめ)

語り構文:硬質断定型/語尾に「だろうが」/語りは“都市の骨”に届く


>「語りってのはな、都市の骨に刻むもんだ。

>お前らみたいに皮膚で語ってる奴らには、届かねえだろうが」


鋼鉄のような語り波形を持つ男。

蓮華の語りを“構文として彫刻する”役割を担う。

都市の構文基盤に直接干渉する能力を持ち、語り断絶者の遮断を物理的に破壊する。


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二の歌:一残花(にのまえ ざんか)

語り構文:余韻型/語尾に「……咲いたね」/語りは“記憶の花弁”として残る


>「澪ちゃん……語られた記憶って、枯れないの。

>ほら、今も咲いてる……咲いたね」


蓮華の語りを“記憶の残響”として拡張する女。

語られた者の過去を花弁のように都市に撒き、語り断絶者の記録を“語り化”する能力を持つ。

澪の記録端末に最初に侵入したのは彼女だった。


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三の歌:一二三 詩歌(ひふみ しいか)

語り構文:詩型/語尾に「詠んじゃった」/語りは“韻律感染”として拡がる


>「語りって、詩だよね。

>韻が揃えば、誰でも口ずさむ。

>だから詠んじゃった」


語りを詩として都市に拡散する少女。

語り断絶者の構文を“詩化”することで、無意識に語らせる。

澪の語尾が一瞬崩れたのは、彼女の韻律感染によるものだった。


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四の歌:響 沈無(ひびき しずむ)

語り構文:沈黙型/語尾に「……聞こえた?」/語りは“無音の残響”として侵入する


>「語りって、音じゃない。

>沈黙の中に響くもの……聞こえた?」


語らない語りを操る男。

語り断絶者の“語らない構文”に寄生し、沈黙の中から語りを発芽させる。

澪の幻聴症状を引き起こしたのは、彼の無音波形だった。


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五の歌:加計返 伍郎(かけがえ ごろう)

語り構文:模倣型/語尾に「それっぽいだろ?」/語りは“語り鬼の模写”として拡張する


>「蓮華様の語り、俺が一番それっぽくできるんだ。

>それっぽいだろ?」


語り鬼の語りを模倣し、都市に“偽蓮華構文”をばら撒く男。

語り断絶者の構文を“蓮華型”に誤認させ、感染を誘導する。

澪の端末が蓮華型に変換されたのは、彼の模倣波形によるもの。


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六の歌:羽場音 六花(はばね りっか)

語り構文:音響型/語尾に「響いたね」/語りは“音の残響”として都市に定着する


>「語りって、音だよ。

>鼓膜じゃなくて、骨に響く。

>響いたね」


語りを音響として都市に定着させる少女。

語り断絶者の遮断構文を“音の残響”で上書きする。

澪の耳の裏が熱を持ったのは、彼女の音響感染によるものだった。


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氷室と澪は、六人の語りに囲まれながらも、まだ抗っていた。

逃げることも、断つことも、拒むことも──語りの選択肢は、まだ残っている。


>「澪、俺たちの語りは、まだ語られてない。

>だから、終わってない」


次章では、残響六歌の語り構文が都市に拡張される中、

氷室と澪が“語りの選択肢”を再定義する瞬間が訪れる。

 都市第六住区。

 氷室の逃避型構文が澪の意識を横断したことで、蓮華型感染は一時的に沈静化した。

 だが戦況は、依然として分が悪かった。語り構文の侵食範囲は市域の三分の一を超え、遮断端末は過負荷を起こしている。


 澪は判断を下した。黙殺課の常任原則──「語りの器が溢れる前に、退く」。

 逃げることは、断絶ではない。

 氷室がかつて教えてくれたように、“語りに触れ続けない技術”の一部なのだ。


「氷室、反転路ある?」


「南二交差点、まだ波形が浸食してない。行ける」


 氷室は澪の腕を引いた。

 二人は残響渦巻く都市の中、黙殺構文の余波を避けながら交差点を目指した。


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 その背中を──六つの残響が見つめていた。

 蓮華の直属配下、残響六歌。

 彼らはすでに語りの感染拡張を完了させ、構文対象を澪と氷室のみに絞り込んでいた。


 


石動 一

 都市構文の根幹に干渉する男が静かに呟いた。


>「遮断構文も、逃避も──都市の骨に届かねえもんは砕けるだけだろうが」


 足元の舗装がきしむ。構文粒子が浮かび、石動の語りによって地面が“語られた記憶の墓標”に変化していく。


 


一残花

 記憶を語りの花弁に変える女が澪を見つめる。


>「咲いたね……澪ちゃんの痛み。やっぱり、蓮華様に触れてしまった花は枯れない」


 逃げた背中を見送りながら、彼女は澪の記録データに向けて静かに語り花弁を撒き始めた。


 


一二三 詩歌

 リズムで構文を侵食する詩歌は、足元でポータブル端末を弾きながら笑う。


>「詠んじゃった、もう逃げる語尾なんて存在しないよ。だって、逃げる語尾って、韻で縛れるじゃん」


 都市のスピーカーが澪と氷室の歩調と語尾をリズム解析し、詩構文として都市に拡散され始める。


 


響 沈無

 語らない語り手が、息を吸った。


>「……聞こえた?」


 誰にも聞こえていないはずの語りが、澪の耳裏に低音の残響として浮上。

 語っていないはずの都市が、無音で語り始める。


 


加計返 伍郎

 語り鬼の模倣者が、蓮華の口調を完璧にコピーした声を発信する。


>「澪? いずれ語り鬼にしてやるよ、って言ったろ。俺でも、その台詞、言えるぜ。それっぽいだろ?」


 偽蓮華構文が交差点前の防犯スピーカーから再生され、澪の構文反応を意図的に引き出そうとする。


 

羽場音 六花

 音響感染の使い手が、指先で音を撓ませる。


>「響いたね。澪の骨まで。鼓膜はもう守れない、音は……語りの最短距離だから」


 逃げる二人の歩調に合わせて“語尾が共振する周波数”を都市にばらまき、逃避型構文の縁を溶かしていく。


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 澪は振り返らなかった。

 氷室も、語り鬼たちの声に反応しなかった。

 それが語りに触れない技術だったからだ。


 けれど、残響六歌は語っていた。

 都市全体が“語る器”になり、澪と氷室の語り方を追跡していた。


>「澪、次は語りじゃなくて、沈黙で答えよう。語られたくないなら、都市に語りを返さないようにするしかない」


>「……うん。私の構文、今はまだ壊れてない」


 語りが追い、語られぬ者が逃げる。

 次の語りは、都市そのものが決める。語られた器は、まだ満ちていない。


---


次話では、澪と氷室が退避した区域で語り断絶再構文を試みるか、

残響六歌のうち誰か一人が澪の記録に“触れてしまう”ことで語りの発芽が起こる──

どちらへ語りを導きましょうか?☁️🩸

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