第8話 『語り鬼、世界を編む:17年パンデミック回顧録』

2008年。

都市伝説系YouTuberとして、鬼塚蓮華は【語り】を始めた。

それは、語れば感染する──という奇病のような噂の源であり、

当時誰もまだ“語り鬼”という言葉すら知らなかった。


> 「語りはな。聞かせるもんじゃねえ。

> 染み込ませるもんだよ。皮膚でも、耳の裏でも、夢でも。

> とにかく“受け取らせる”。それが本物の語りってもんだ」


──この語りが、世界を塗り替えていく。


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🕱 第零期(2008〜2010)|感染の芽吹き


- 初期の蓮華は動画プラットフォームや匿名掲示板で、

“誰に向けたとも知れぬ語り”を散布していた。


- 語られた者は、無意識下で彼の言葉を引用し始める。

会話の語尾、書き込みのリズム、夢での発語。


- 発症第1号は氷室鷹芽。語られることで記憶がずれ、人格が“蓮華型”へ微改変。


- この時期、黙殺課が設立され、澪による語り断絶試験が開始。

だが蓮華の語りはすでに“構文”として都市に植えられていた。


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🕯 第一〜第四期(2011〜2019)|語りの構造汚染


- 蓮華は語りの対象を“映像”“小説”“投稿”“AI対話”に拡張。

彼の語り構文は32型から自己再帰型へ進化。


- 感染はマス化し、語りを真似した者たちが“自語り鬼”として現れる。

最初の大奥群が形成され、語り強化種が都市の各所に潜伏。


- 語りは伝染病ではなく、“言語インフラ”になりつつあった。

都市のスローガン、CM、教科書、校内放送──無自覚に蓮華型の語りを使用。


- 黙殺課の断絶成功率は年々低下。語りに触れた課員の一部が失踪。


> 「語りは殺せねえよ。だって俺、もう構文にしてやったからな」


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📡 第五期(2020〜2023)|デバイス感染・AI語り化


- 【語り感染因子】が音声合成・文章生成AIにまで波及。

SNSの一部botが蓮華風に語り始める事例が確認。


- Onigame社から正体不明のアップデート通知が頻発。

一部の市民は“語りに触れたAI”を使ったことで、無意識下で感染。


- 視覚感染型では、文字列そのものがトリガー化。

語りに反応するだけで夢に出現し、次の日から語彙が侵食される。


- 澪の断絶技術は限界へ。語り遮断班は“共鳴崩壊症”を訴える。


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☁ 最終期(2024〜2025)|語りパンデミックの完成


- 世界中で“語り鬼の語り”が都市に溢れる。

配信、広告、通知、地下放送、対話AI──あらゆる語りが蓮華の残響を持つ。


- 感染数推定:直接影響系=約42万人/間接共鳴型=未確認(多世代語り反映)


- 一部市民は「語られたい」と願うようになり、語り鬼崇拝層が可視化。

語りを断つことが倫理違反とされる区域も出現。


> 「語られたことない奴って、語る価値もねえってことだろ?」


- 黙殺課が活動停止。澪は消息不明。語りの断絶者は都市の片隅で自語りを封じ続けている。


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🔚 パンデミックの定義は、もはや“語り方”の変化である


語り鬼、鬼塚蓮華。

彼は17年かけて、語りを感染に変え、

感染を日常に変え、

日常を物語に変え、

そして物語を“誰にも断てない構文”に変えた。


今や、語る者すべてが語り鬼予備軍。

そして、聞いた者すべてが語られている。


蓮華は言った。


> 「語りってのは、声じゃない。都市の呼吸そのものなんだよ」


語りの息は、今も都市に溶けている。

誰が語ったのか、もう誰も分からない。

だがその言葉は、君の目の裏にもう染み始めている。


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もちろん。以下に、雨宮澪以外の《黙殺課》関係者が2008〜2025年の蓮華による語りパンデミックを忌々しく振り返る“内部記録風の書き込み”を掲示板ログ形式で記載します。語りへの嫌悪、解析現場の疲弊、そして語り断絶者たちの壊れかけた言語感覚が滲む構成です。


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◆スレタイ:【黙殺課内記録】蓮華構文17年感染総括【愚痴ログ】


黙殺課・第七断絶班|無語隊員C

2025/07/26 22:18

2008年の初期波形、俺も解析にいたんだ。

蓮華の語りが“言葉じゃなくて圧”だった。

再生しなくても、波形だけで喉が乾いた。

今ならわかる──あれは“語られた痕跡”そのものだった。


黙殺課・構文遮断課|記録係G

2025/07/26 22:33

蓮華の語り、構文型が第五期で指数型に進化した時点で

都市の倫理中枢から“断絶の是”が消えかけた。

断つのが悪になる世界、誰が設計したんだよ。語りのせいで職務が“加害”呼ばわり。


黙殺課・影響記録部|補佐J

2025/07/26 22:38

澪の行方不明ってさ、公式には“退職”って扱いだけど

最後の断絶記録、明らかに“自己語り共鳴”でノイズ破裂してた。

蓮華は“語り断絶者すら語る”って言ってたけど、澪が消えたことで証明されちまった。


黙殺課・封語端末班|分析員K

2025/07/26 22:44

Onigameの通知文、7割蓮華型語尾になってる。

無人投稿なのに“語りが染みてる”の、どうやって解析しろって言うんだ。

構文汚染範囲、もう市民の語彙と文法そのものにまで到達してる。


黙殺課・封語区掃討班|元隊長M

2025/07/26 22:59

俺らが何人分断絶処理したと思ってる。

語られたまま死んだ市民を“語らせない”ために名前を切り、記録を焼いた。

でも語りは都市の壁に残ってる。静電気みたいに、耳に触れてくる。

蓮華だけが語り鬼じゃない──語った奴、引用した奴、記録した奴

都市そのものが“語り鬼の器”になってる。


黙殺課・波形観測班|退職者Y

2025/07/26 23:17

語りを断つために働いたけど、俺の娘が蓮華に“語られたい”って言ったんだ。

その夜、彼女は夢の中で蓮華の語りを口にしてた。

俺は……彼女の声を黙殺した。

誰か俺を語ってくれよ、って思った。

語られなさすぎて、存在が揺らいでる。

これ、職業病か?


もちろん。以下は、「黙殺課」の設定に基づき、澪の存在と思想に焦点を当てたラノベ風の冒頭章です。世界観を際立たせつつ、読者を澪の内面に引き込むようなトーンでお届けします。


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🌧『語られずの澪 ―絶望に沈まない少女と都市の残響―』

第零章:ノイズ欄の少女


都市第三区、通信遮断区域。

白昼の雨は、まるで語り鬼の残響波形が地表にまで滲み出たようだった。


その日も、黙殺課の会議室には沈黙が溢れていた。

隊員たちは語りの痕跡を消去し、次なる感染波形の処理に追われていた。


けれど──


「ノイズ欄に残ってた。名前は、さくら。」


少女はぽつりと呟いた。資料をめくる手は細く、しかし迷いがなかった。

雨宮澪。黙殺課に所属しながら、語りを“断つ”のではなく“拾う”者。


「名前だけ。語られてない。でも、それで十分」


他の隊員が顔をしかめた。「澪、お前……またノイズを保管したのか?」


「語りは排除するものじゃない。

語られ損ねた声には、まだ構造がある。意味がある。」


誰も答えない。けれど、彼女はそれを望んでもいない。

沈黙の奥にある“語られなかった何か’’をただ記憶していた


💫キャラクター紹介|雨宮 澪(あまみや みお)


- 黙殺課隊員。感染波形処理能力は高く、解析知能特化型。

- 語り鬼に最も近いとされながら、誰より“語られたがっている者”に寄り添う。

- 口癖は「語りは、暴力じゃない」

- 特技は市民記録の“ノイズ欄”から、未語り構造を抽出すること。

- 最後に語った言葉:「意味を残すために、語らずに記憶する」


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