君に惹かれ

 あのあとは一睡もできずに、夜が明けた。しかし、朝日は昇ることなく、弱々しい雨が降り注いでいる。……夜には晴れるといいな。

今は翔と分かれて、僕は売店で買い出しをしている。翔からは、食料の調達を頼まれた。

逃げるにしても、ここから隣町はかなり遠いらしい。確かに食料は大切だし、日持ちするものが良いかな……

少ないお小遣いでパンや水を手に取る。ここは無人販売で、怪しまれる心配がない……本当に助かった。

ふと、視線をずらすと雑誌コーナーが目に入る。そこには、翔が読んでいたバイク雑誌の最新号がポツンと置いてあった。……あの時の翔の笑顔が頭に浮かぶ。

気づけば、僕はその雑誌をめくっていた。


__眼の前に広がるのは、水平線と青空が重なった澄んだ海。

次に広がったのは、夕焼けに染まった橙色の海。

まためくると、満天の星空が散りばめられた藍色の海だった。

いろんな色に染まる海の景色をバックに、原付バイクが写っている。


__同じ砂浜だけど、時間が変わるだけで、こんなにも違う海が見られるんだ。

……あの時から、海がこわかった。だけど、ここに写っている海は、今まで見てきた景色の中で一番きれいだった。……翔と一緒に見てみたいな。




僕は雑誌を抱えて、会計に急いだ。

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