伝承
初めは、一日の業務内容や連絡事項が並べられているだけだった。たまに、患者の容態を心配するようなメモが残っている。
__僕が求めているものは、これじゃないんだけどな〜……
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……先程までの内容とは裏腹に、狂気に呑まれそうな、恐ろしい内容が書き綴られていた。
__新しい奇形の子が来た。
一年で二人も揃うなんて……やはり、神様は私達を見捨ててなんかいないのね。でも、あの母親……なんか怪しいわね。村長に報告しないと……
__やっぱり黒だったのね……どこで知ったのか分からないけど、邪魔なんかさせない。
__あと少し、あと少しで早苗祭が、儀式が始まる。
やっとよ、やっと儀式に立ち会うことができる。狼煙を上げる瞬間が楽しみだわ。私達の神様が復活するんですもの!!
__待ち切れない、早く明後日が来ないかしら。
……翔くんが神の子になるのね。でも、今年は一人じゃないわよ。智里くんも一緒だから、安心してね。
……あの時の胸の高鳴りは、とうに消え失せていた。
翔のほうを見れば、喜色に満ちた顔は無くなり、影を落としている。
僕らの心情もつゆ知らず、雨は無情に激しさを増した。生を感じない静寂の中で、雨音だけが響いている。
……なんだか、息がしづらくなってきた。
「ここから、逃げよう」
静けさを破るように、翔ははっきりとした声で言った。
「逃げるって……どうやって?」
「そこは、俺に任せて」
翔は安心させるためか、優しく僕の背中を撫でる。
少しずつ、呼吸が落ち着いてきた。これも全部、翔のおかげだ。
……ここに書いてあること、本当なのかな。
目をこすってみても、読んでいた手帳が手元に残っていた。
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