謎の電話番号に関する証言

@Dr_Kobaia

2000年代に確認された謎のチラシ、並びにそこに記載されていた正体不明の電話番号に関する証言


…いや、具体的にいつ、どうやって入手した、とかは正直分からないんですよ。

もう十何年も昔の話ですしね。


それにチラシって言ってもね。

ポストに入れるようなペラ紙じゃないんです。

今回あなたが訊きたいっておっしゃるチラシっていうのは、いわゆる街で配ってるようなポケットティッシュに入ってるタイプのちっちゃいヤツでして。


ただね、そのティッシュをいつもらったのかは、どうしても思い出せなくて。

気付いたらカバンに入ってたんですよ。


お恥ずかしい話、私はカバンの中身を整理するってことをあんましないもんで…。

ズボラですから。

それに、道で何か配ってたりすると良く確認もせずに、もらえるだけもらっちゃうタチなんですよ。

カミさんには「みっともないからやめて」って言われんですけどね。


あはは。


そんなわけで、小物入れにいつの間にか入ってたポケットティッシュに、ちょっと変なチラシが入ってるなって。

後になって気づいたんですよ。


なんかね、コピー用紙に家庭用のプリンターでただ印刷したような、粗末なものでした。

そこにたった一言だけ、こう書いてあるんですよ。






お伺いします


050-2894-XXXX





これだけ。

こういうチラシって、ふつう業種とか社名とかいろいろ書いてあるもんじゃないですか。

でもこのチラシには電話番号しか書いてなかったんですよ。

しかもフリーダイヤルじゃなく、なんの変哲もないIP電話なのがね…。

却って変な感じですよね。


とりあえず、「お伺いします」って言うからには、何かしらの相談ダイヤルなのはわかります。

だから私ね。

ちょっとからかってみるつもりで、その時まだ彼女だったころのカミさんに見せてみたんですよ。

ホラーとか苦手なタイプなんで、まあ気持ち悪がってましたね。


私は面白がって、冗談半分で言ってみたんです。


「ちょっと、電話してみない?」

「やめなよ!そんな怪しい電話」

「なんかさ。話のタネになりそうじゃん」

「家の電話からかけるのはやめて頂戴」


そんなわけで、かけるなら外の公衆電話からにしてくれってことになったんです。

ウチに持ち込まないでくれって、体よく追い出されましたよ。

まあでも、危険な詐欺かも知れませんしね。

だから翌日、出かけるついでに家の近所にあった公衆電話に入って、実際に電話をかけてみることにしたんです。


それは当時私の住んでいた家の最寄り駅の前にある、ごく一般的な公衆電話でした。


受話器を手に取り、硬貨を投入します。

そして、チラシに書いてあった電話番号を、一つずつプッシュしました。

すると、すぐに着信音が鳴りました。


その電話番号ね。

かかったんですよ。

本当に。

ちゃんと。


2コール鳴った後。

ガチャっという音と一緒に通話が始まり、不気味な「ザーッ」というノイズに混じってね。

こんな声が聞こえてきたんです。






(着信音)






(着信音)






(通話開始)






(雑音約4秒)






(女性の声で)

お電話ありがとうございます






これからお伺いいたします






(雑音約6秒)






埼玉県






上尾あげお






谷津やつ






2ー1ー






(通話終了)





そこで私は電話を切りました。


……。


そして、その場から一目散に離れて、少し遠いところにある喫茶店の中に飛び込んだんです。


席についてもまだ心臓がバクバクと脈打って、冷や汗まで吹き出て、いったん気分が落ち着くまでしばらくかかりました。


理由。


もうわかりましたよね?




電話の相手が読み上げた住所ね。




私のいた公衆電話の住所と一緒だったんですよ。




そうです。


当時の私は埼玉県のJR上尾駅の近くに住んでまして。

「谷津」というのは上尾の駅近くの地域の大字なんです。

…ピッタリなんですよ。

これは後で調べて分かったことなんですが、途中まで聴こえた「2ー1」っていう番地の数字。

これも。

はい。

…2丁目なんです。

公衆電話があるのは。


…。


それで私気づいたんですよ。

チラシに書いてあった言葉。

あなた覚えてます?


「お伺いします」って書いてあったでしょ?


電話でも女の人の声で「これからお伺いいたします」と言っていたんですが。


よく考えたらね。

あれって

「あなたの話を聞きます」

って意味じゃなかったんです。




あれは

って意味だったんですよ。




相談用のダイヤルなんかじゃない。

もっと得体の知れないヤバい番号にかけてしまったんです。

私は。


……。


…ということはです。


電話の相手が、私の電話に逆探知を仕掛けたってことになると思うんですよね。


でも、それってどう考えてもおかしいんです。

詳しく調べてみると、一般人とか一般の企業なんかが、かかってきた電話に対して逆探知を仕掛けるなんて、普通にありえないんですって。


NTTみたいな通信事業者や警察の協力とかがない限り、できるわけがないと言うんです。


なんかのデータベースがあるにしても、かけてものの十数秒で番地まで特定するなんて、どっちにしたって普通じゃない。


はい。


とにかく、とんでもなくヤバいとこにかけてしまったのだけは事実です。


…カミさんの言った通りでした。


もし自分の家からあの電話にかけてたら。




考えるだけでぞっとします。

今でも。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

謎の電話番号に関する証言 @Dr_Kobaia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ