俺の能力でフィーバータイム
一色くじら
第一章 勇者監禁
第1話 エピローグ
「目覚めなさい 高橋拓也。大いなる勇者よ」
いつもの目覚ましとは声が違うなと思い、重い瞼をこする。
目覚ましへと手を伸ばすが“もにゅ”と、いつもと違う感触が手に伝わってきた。
これは何だと、こねくります。
「気持ち悪いので、そろそろ起きてください」
声が聞こえる方に向かって頭だけを上に向けた。
すると、まぶしい光で目を手で覆いつつ、もう一つの手でもにゅもにゅする何かをしっかり握り込む。
視界がその場になじむと青と白のスカートに身を包む女の子がその場にはいた。
髪は長く結ばれており、瞳と髪の色が黄色で統一されていた。
女神に会ったような感覚になっていた。
「その気持ち悪い手をそろそろ放してくれる?」
女の子が見下しながら、こちらを見てくる。
その目におびえながら、自分の手の方を見ると、彼女の足をしっかり固定しており、足の指と指の間に自分の指を重ねていた。
「これは、すいません」と言い、さっと手をどける。
(よっしゃー!女の子と恋人つなぎをしたぞ。これで俺もリア充の仲間入りだ。)
ガッツポーズを決めていると「気持ち悪」の声が聞こえてきた。
「ぐっはーーー!」
高橋のHPはマイナス100ポイントになった。
「もう死にたい」と床に倒れた。
「そろそろ話したいんだけど」と気だるい感じでこちらを見てくる。
「それは、すいません。お話をどうぞ」
正座をしながら手でどうぞと合図をする。
「では、改めてまして、私の名は女神アグネイア」とソファにダイブしながら、話始める。
俺はその瞬間を逃さず、スカートが、たなびいたところをロックオン。
白いパンツに焦点を当てた。「ごちそうさまでした」と内心で感謝を込め、耳だけは、話に戻った。
「簡潔に言うわ。あなたは死にました」
「はあー」
(今なんと?)
体もそちらに向き直り、姿勢を正す。
「今死んだとおっしゃいましたか?」
「えー言いました。夜道をふらふら歩いてると、こういうことになるんですよ」
「どうやって、私は死んだんですか?」
急に高橋はかしこまり、女神に詳しい話を要求した。
「あなたは、夜道を歩いているところをストーカーによって刺されてお亡くなりになりました。ご愁傷様です」
ポテチを頬張りながら、指についつ塩を舐めた。
(確かに、最近視線を感じると思ったが、それだったか。)
「それで、俺はこのあとどうなるんですか?」
「そこからが本題です。あなたには、異世界で勇者をやってもらいたいのです」
「マジ?俺が異世界ものの主人公になるんですか?」
「そうです。そして魔王を倒し世界を救ってほしいのです。どうですか、やってみる気はありますか?」
食い気味で女神は高橋に近寄ってきた。
「もちろん、ちなみに異世界に行く特典なんかはあったりするのですか?」
異世界なら、それなりのパワーやスキル、能力が与えられるはずだという期待を込めながら、彼女の口からのご褒美を待つ。
しかし彼女は意外なことを言い放つ。
「そんなものはありません。むしろあなたには、呪符をさしあげます」
「じゅふ??」
聞きなれない言葉についつい、かわいい声を出してしまった。
「そんなこともしらないんですか?!これだから人間は。これです」と言いいながら、ありもしない胸の平地からそれを取り出してきた。
そしてその一つのお札を、高橋の額に押し付けた。
「なにするんだ。ひっつけるな」
だが、額のそれは離れない。むしろ粘っこく、くっついてくる。
すると、札の四方八方から、白い布が出てきて、高橋の体を覆うのであった。
はたから見たら、ミイラそのものだ。
顔の部分だけは、何とか見え、後ろへと白い布がたなびく。
そして、その上から謎の言葉が白い布にびっしりと書かれたのであった。
「これは、どういことですか?」
「私からのプレゼントです。感謝してください」
「全然嬉しくないんですけど。ださいし。ちなみにこの文字なんですか?読めないんですけど」
「それは、あなたが今から行く世界マルネヤの母語の一つロトイ語。そして、この文字の数々は、あなたが今まで現世のゲームで、つけた名前に由来します。この文字が読めれば、仲間を召喚できたりとか強くなれたりもするかもしれませんね」
「はあ。世界を救ってほしいというから、どんな力を与えてくれるかと思えば、持っていけるのはダサい呪いで。仲間の名前がわかっても、読めないと使えないとかどんなクソゲーだよ」
一気にやる気をなくした高橋は、ソファのところまで行き、ふて寝を決め込んだ。
「わたしのソファで勝手に寝るな」と少女の姿の女神は、ポコポコと叩いてくる。
しかし全く痛くなく、むしろほほえましかった。
「はあーじゃあ、あなたには特別です。こいつもさしあげます」
女神は指を鳴らすと、白い綿ボコりが天空から、落ちてきた。
女神と高橋の前にどさっという音を立てながら、降ってきたのだった。
スースー聞こえるが、何も起こらない。
この聞きなれた動物のような音はなんだ。
「何も起こらないんですけど」
「異世界に着いたらわかると思います」
(本当にこいつは女神なのか、実は悪魔だったり。)
心底疑っていると、「何か文句でもあるんですか」と女神が高橋の頭を蹴り上げソファからどかした。
「いいえ」
蹴られた頭を押さえながら、ソファの前に立つ。
「それじゃあ、そろそろ異世界に行ってもらいましょうか」と言って、体を起こし、また指を鳴らすと、大きな本が出てきた。
女神は、「セラサニシセラサニシセラサニシ」と謎の言葉を唱えると、光の線が本の中から出てくる。
「いや待って、まだ心の準備が」
「準備はできました」と高橋の言葉を無視しながら言い、光の線を今度は、女神が握り、高橋と綿ボコりを捕まえて、本の中へと引きずり込んだ。
「何をするんだ」と少し持ち堪えたが、とんでもない力で引きずり込まれた。
「次の言葉を紡ぐのは、あなたたちです。運が良ければ、また会えるかもしれませんね。では頑張ってください。荒廃した世界を救いなさい。勇者たちよ」と遠くなる女神の顔を見た。
白い背景が周りを包む。
高いところから落ちながら、最初の方はビビっていたが、長くなるにつれて、落ち着いてきた。
「あいつ変な事言ってなかったか。荒廃した世界だと?」
そんな世界に楽しい異世界ライフはあるのかと不安になってきていた。
極めつけは、あなたたちあなたたちだ。
この場には一人しかいないのに、まるで二人いるかのように言っていたが、どうにも気になる。
しかし「今は関係ないな」と、思いながら、白く光る先に終わりが、近いことを喜んでいた。
白くまぶしいところを抜けると、それは空の上だった。
「ぎゃあー誰か助けて」と叫んでみたものの誰もいない。
空が青いことだけには、ほっとしたが、地上は、ほとんど焼け野原で唖然とした。
黒くまがまがしい城塞が真下にあるのを発見した。
「あれが魔王城か、最初から迎えるなんてラッキーだな。ちなみにこれどうすればいいんだ」と思うと、すでに地上に落下していた。
バーーーーーーーーーーン。
近くの焼け野原に顔からダイブをし、辺り一面にくぼみを二つ作った。
「「痛って」」高橋が叫ぶと知らない女の声が混じる。
気のせいかと思ったが、「あんたちゃんと助けなさいよ」と声がする。
周りは焼け野原なのに、おかしい。
「お前は誰なんだ?」
「誰って目の前見ればわかるでしょ?」
目を皿にして見るが焼け野原が続くだけ。
「誰も目の前にいないから困ってるんだろうが」
「目腐ってんじゃないの?」
何度目をこすっても誰もいないので、目の前の状況をどこにいるかもわからな存在に、話しかけた。
話し終わると、彼女は何かを思い出したように、声を発する。
「そういえば女神に私も呪いをかけられたんだった。忘れてた」
「そういうのは早く言えよ。で、どんな力なんだ?」
「大きな声出さないでよ。えっとね。連鎖透明化だったかな?あなたの能力に応じて透明化が解放されるみたい。あとは自分の力も発揮されるかもって言われたわね」
「なんで、そんな大事な事を言わないんだよ?」と大きな声を出すが、目の前に誰もいないのでうまく力が入らない。
「しょうがないじゃん。眠かったんだもん」
「眠かったって小学生か?」
「何言ってるの?もう立派な大人だもん」
「いくつ?」
「20歳」
「俺からしたら、ひよっこだな」
「おじさんは何歳なのよ?」
「おじさんじゃないわ。まだ29歳だし」
「そんな変わんないじゃん」
「変わるだろ」
「おじさんじゃん」
話が延々にループするかもしれなかったので、話を一度遮った。
「ところで名前なんていうんだ?一緒に冒険行くにしても、名前知らないんじゃ今後困るだろ」
「聞くなら、先にあんたが名乗りなさいよ」
「そりゃそうだ。俺は高橋拓也だ」
「私は、梨沙。遠藤梨沙よ」
「・・・名乗り方ダサいな」
「うるさいわね。いいでしょ。別にそんなこと。小さい男ね」
「誰が小さい男だ!こんなにたくましい体してるのに」
「どうせ、なにもかも小さいんでしょ。こことかも」
梨沙は拓也の下半身を指さして言う。
「どこ、指さしてんの?ここも聖剣だし」
「どうだか」
くそ女め、体が見えるようになったら、覚えてろよと心でつぶやく。
そして拓也はその場から起き上がり、あたりを見回した。
「右側が魔王城ぽいから、こっちから、サクッと行くか梨沙」
「このまま行って、勝てるの?あと呼び捨てにすんな、おじさん」
「いいだろ、それくらい。戦いに関しては、わからん。でも何もしないよりは、ましだろ」
「そりゃそうだけど」
魔王城らしき外観は黒く、周りは毒の川が通っており、橋の先の入り口には、門があり、それで閉じられていた。
さてどうしたものかと考えていると、ガラガラ・・・と鉄格子の門が開いた。
ラッキーと思ったのもつかの間、大きな二本の角をもち、斧を持ったミノタウロスが、行く手を阻み、こちらに向かってきていた。
異世界ならこれくらい余裕だと思った拓也は、拳を握りしめ、ミノタウロスと闘おうとした。
すると、ミノタウロスは斧をこちらに向かって投げてきた。
その瞬間、当たると思ったが、何かが手を引いてくれて助かった。
「なんだ?」
「なんだ?じゃないわよ。死ぬところだったんだから」
「梨沙が手を引いてくれたのか?」
「そうよ悪い?」
何とか命拾いした。
「ありがとう。たすかったよ」
「どういたしまして」
頬からは、少し血がでていた。
「それより、血でてるわよ」
「本当だ、少し痛いな」
「大丈夫?」
「大丈夫だ。それより逃げよう」
ミノタウロスとの距離はおよそ2キロくらいあったので、少しは逃げられるだろうと思った。
その瞬間、ミノタウロスはその場で力を込め、この場に飛んできた。
大きな拳を握りしめ、彼ら目掛けて放つ。
死ぬと思い、梨沙の手を握り込んだ。そして目をつむった。
その瞬間、死んだ・・・と思ったとき、地面が揺れた。
何んだと目を開けると、マンホールのようなものの中から、つるつるのおじいちゃんが出てきて、
拳を軽く、受け止め投げ返した。
「ふんあーー!」
並々ならぬ筋肉でミノタウロスを押し返した。
化け物はどっちだ。
そのすきに、「お二人ともお早く、この中に」と言い、中へ入った。
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