第8話 これって恋なんですか?《夏原涼音視点》
「あ、やっべー。今日やる課題、机の中だ」
「忘れ物?待ってるから取ってきなよ」
「ごめーん。すぐ戻ってくる」
部活後、部室に戻る途中で課題を置きっぱなしだったことに気がついた。友人を待たせるのも悪い。急いで教室に戻る。
教室の扉に手をかけた時、中から人の話し声がする。こんな遅い時間に珍しいなと思っていると、聞いたことのある声がした。
『そういや、日向お前、夏原と最近どうなんだ?』
そんな声がして扉を開けようとした手を止める。今の声は園田だ。一緒に話しているのは日向か。最近、2人が話すのをよく見かける気がする。
自分の話をしている時に入るのも気まずいかと逡巡している間に、教室の中で広がる話題はあまり気分の良くないものに切り替わっていた。
『いやしかしお前も物好きだよな〜。あんなおとこ女のどこがいいんだ?』
『おとこ女?』
『そ、見た目も男みてえだし、あいつ口も悪いしよお。全く少しは天城を見習ってほしいぜ』
男みたい、天城を見習え、悲しいことに聞きなれた言葉だ。実際、自分の見た目や性格にかわいげがあるとは思わないし、男はやっぱり琴花みたいな女の子が好きなのは幼馴染として隣で見てきたからわかる。今更そんな言葉どうとも思わない。そう思ってた。
でもなぜか強い不安を感じた。日向と友達関係を始めて1ヶ月、友人としては仲を深められたが、依然として恋愛的な意味で好いてくれているかは正直わからない。
ひょっとすると、もう友人という枠にすっかり収まりきってしまっているのかもしれない。琴花とも話す機会が増えて、やっぱり女の子は愛想のよさや可愛らしさがあるほうがいいと思っているかもしれない。
しかし、聞こえてきたのは呆れを含んだ声だった。
『はあ、わかってないな〜』
目を見開いた。今まで頭の中で渦巻いていたまとまらない思考を吹き飛ばし、扉越しの彼の言葉に耳を傾ける。
『まず、涼音は何たって笑顔がいい。』
『次は友達大好きなのも可愛い。』
『あとは世話焼きなとこも好きだ。』
誇らしげに彼が言う。その言葉には友人としての同情なんて一切なかった。ただ純粋な好意がそこにはあった。ああ……、まずい、これはまずい。顔が熱い、鏡がなくても自分が真っ赤になっていることがわかる。心臓の鼓動がやけにうるさい。
嬉しい。彼が変わらず自分を好きでいてくれていることが、琴花と仲良くなってもなお、自分を見てくれていることが。ふわふとした温かい気持ちがじんわりと胸に広がる。
ガタッと音を立てて、園田が前の扉から走って出ていく。今まで夢心地になっていた状況から一気に現実に引き戻される。
時間も時間だ。そろそろ学校も施錠の時間で、日向も出てくるかもしれないと思い、急いで教室の前から離れた。
小走りで廊下を走る。頭の中では先ほどの彼の言葉が強く残っている。まるで呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、うまく息が続かない。ダメだ、胸が苦しい……。その場にうずくまる。いったん落ち着こう――
「夏原? こんなとこで何してんだ?」
よし、落ち着いてきた、そう思ったと同時に頭の上から声がした。日向!? 大きい声を出しそうになり抑える。よく見たらここ階段前だ。こんなところで休んだら当たり前に出くわすに決まっている。
「い、いやぁ〜、ちょっと、わ、忘れ物をとりに……」
顔が見れない。自分は上手く喋れているのだろうか。彼は不思議そうな顔をしてこちらを見てたあと、いつものように笑顔で言う。
「そうか。まあとりあえず部活お疲れ様、また明日な」
「お、おう! また明日……」
なんとかやり過ごした……。先に帰った彼のうしろ姿を見た後、教室に戻り忘れ物を回収し、部室で待っていた友人に謝罪をして帰路に就く。
友人との会話は上の空のまま、気が付けば電車に乗って最寄り駅に着いていた。家の近くの公園によった。古びたブランコに座り、自身の気持ちを整理する。
彼の存在がここ一ヶ月で自分の中で大きくなっていることに今更ながら気がつく。彼のことを自分は好きなのだろうか? いかんせん誰かに恋をしたり、されたりしたことがないからわからない。
とりあえず、これから自分が彼とどうなっていきたいのかを考えた。彼は自分に好意を持ってくれているのだから返事をすれば、この関係は一気に変わる。しかし、この気持ちが恋なのか確認してから答えたい。でないと日向に不誠実な気がする。彼は真剣だ。だからこそ自身も正面から向き合いたい。
そうは言っても先延ばしにするのは良くない。こういったあいまいな関係が続けば続くほど、後腐れのある状況になってしまう。
つまり、できるだけ早く自身の気持ちを固める必要がある。そのためには、もっと彼と親交を深めよう。恋慕か友愛か、きちんと見極める。そう決意して、確かに変わる彼との関係性に思いを馳せた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます!
☆も40を超えました! 思っていたよりも多くの人に読まれていい意味で予想外でした!
ここから先が本編と言っても過言ではないので引き続き応援よろしくお願いします!
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