第7話 良さが分からない……?

 夏原と映画を見てからそろそろ1ヶ月が経つ。季節は6月になり、夏の足音も聞こえてくる。


 昼休み。夏原と俺は二人で昼飯を食っていた。天城と辰也は急用らしい。まあ告白だろう。天城はともかく辰也は彼女がいるだろ。本人は彼女がいることを公言しているが、ワンチャンにかけてくるやつも多いらしい。


「それでさぁ、琴花がな〜……」


 夏原が楽しそうに喋っている。あの映画以降、より仲は深まり、こうして二人っきりでも気まずい空気が流れることがなくなった。夏原が天城に向けるような笑顔を見せてくれる機会も増え、俺は内心喜びを感じていた。


「おい、おーい、日向〜。聞いてるか〜」

「悪い、ちょっとぼーっとしてた」

「まったく、ちゃんと聞いてろよな?」

「ごめんって」


 友人関係としては進んだものの、恋人云々の方面で言うと、まあ、お察しの通りだ。夏原からも友人としては確かな信頼を感じるものの、男としてはどう思われているかわからない。でも、この関係も悪くないし、焦らずゆっくり行こう。そう思いながら、また彼女の話に耳を傾けた――



 放課後、勉強をしていると教室に男子生徒が入ってきた。園田だ。彼は夏原のグループにいるやつで、男子テニス部に所属している。簡潔に特徴を説明すると猿みたいなやつだ。中身も見た目も。


「お、日向か、えらいなぁ〜、こんな時間まで勉強なんて」

「今日は部活が休みで暇なんだ。園田は?」

「俺も同じ、せっかくの休みなのに補講でこんな時間まで残る羽目に……、トホホ……」

「いや、それに関して言えば自業自得だろ……」


 園田とは今年から同じクラスであり、話すようになったのもつい最近だ。夏原たちと教室でも会話するようになってから仲良くなった。


「そういや、日向お前、夏原と最近どうなんだ?」

「ど、どうって何が?」

「決まってんだろ?」

「恋人への進展だよ、し・ん・て・ん」

「残念ながらからっきしだよ。」

「かあ〜、だと思ったぜ」


 だと思ったって何だよ。辰也もそうだが、なんか俺舐められてないか?俺そんな恋愛下手そうなのか?うーん、と考えこんでいると、園田が不思議そうな目で俺を見た。


「いやしかしお前も物好きだよな〜。あんなおとこ女のどこがいいんだ?」

「おとこ女?」

「そ、見た目も男みてえだし、あいつ口も悪いしよお。全く少しは天城を見習ってほしいぜ、だいたいあいつは……、って、おーい、日向?」


 こいつマジか。夏原の良さが、分からない……?信じられない……。目ぇついてんのか? 補講の影響で脳みそ焼き切れてんのか? 仕方ない、ここは一肌脱いでやるか。


「はあ、わかってないな〜」

「え?」

「そんなバカな園田くんにもわかるように夏原の魅力を説明しよう。まず、涼音は何たって笑顔がいい。いるだけで空気が浄化される。次は友達大好きなのも可愛い。特に天城のために告白ついていったり、天城が休みだと露骨にテンション低かったりする。可愛すぎんだろ! あとは世話焼きなとこも好きだ。この間も前回休んだ隣のやつが授業中に指されて焦ってたとこにすかさずフォロー入れてたんだ。素敵すぎますよ、彼女。他にも……」

「わかった! わかったって! 俺が悪かった! 許してくれよ〜。な?」

「はあ、今度、夏原に謝るように」

「わかりました! あ、後、俺別に友達としては夏原のこと好きだから。あいついるとクラスの空気が明るくなるし」

「わかってんじゃん! それでな、やっぱ夏原と言えば……」

「あ〜違う違う! 止まれ、止まってくれ〜!」


 物分かりの悪い園田くんに数分、特別授業(布教)をしていたのに、途中で走って逃げていきやがった。やれやれまだまだですな。

 時計を見ると時刻は18時半になろうとしていた。俺も帰るか。そう思って鞄に荷物を詰め、教室を出た。


 階段を降りようと思っていたら、その前でうずくまっている影を見つける。


「夏原? こんなとこで何してんだ?」

「い、いやぁ〜、ちょっと、わ、忘れ物をとりに……」


 乱れた前髪に、やや汗ばんだ様子で練習着を着たままの夏原はしどろもどろになりながら答えた。


「そうか。まあとりあえず部活お疲れ様、また明日な」

「お、おう! また明日……」


 帰り際、夏原の様子が変だったことを思い出す。大体何で階段前で座ってたんだ?それに会話した時も、まるで1ヶ月前に戻ったみたいな距離感だった。

 不思議に思いながらも、こういうときは大抵俺の考えすぎだってことを夏原と仲良くなってから学んだので、これ以上思い悩まなくてもいいか。思考に蓋をして肌を撫でる夏特有の風に身を任せ、帰り道を歩いた。






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