第9話 なんか近くない?
早朝、電車を降りて学校に向かって歩き始めようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「よっ、日向」
「お、夏原、おはよう」
制服の夏服にエナメルバッグを持った夏原がいた。二人並んで学校まで歩く。昨日は様子がおかしかったような気がしたが、今はそんなことないらしい。
「天城はどうしたんだ?」
「琴花は吹奏楽部の朝練、大会まで頑張るんだって」
「そうなのか。まあ、もうそんな季節だよな」
「日向は?」
「俺は怪我の様子見ながら少しずつ復帰していく段階かな」
「夏原は大会ないのか?」
「あるぞ。でもまあもうちょい先かな」
「へ、へえ~」
「今年はどこも結構強いから、頑張らないとな!去年は――」
……なんか近くない? いつも通りの眩しい笑顔で話す彼女だが、手と手が触れ合いそうなくらい近い。ドキドキして全然話が耳に入ってこない。こっちはさっきから、俺の右手があなたの左手に当たらないようにすごい神経使ってるんですよ。しかも、彼女の綺麗な黒髪から鼻先をくすぐるシトラスの香りがして思考がおぼつかない。これはまずい。心臓に悪すぎる。
「日向? どうかしたか?」
「い、いや、なんでもない……」
「そうか?まあ、でな――」
夏原は特段気にしてないようだし、俺の気のせいか。友人として仲が深まって、距離が縮まったってことだな。うん。そう結論づけ、わずかな違和感を胸の内にしまい、学校に着くまでのわずかな時間を楽しんだ。
――昼休み、いつもの四人で昼飯を食べていた。たわいのない話をしてる中、俺はあることを思い出した。
「そういえば、そろそろ期末テストだよな」
「まだ二週間あるから大丈夫っしょ」
「お前、赤点取ったら大会出れなくなるんだから気をつけろよ」
「まあ、前回もなんとかなったし今回もいけるいける」
こいつほんとに大丈夫かよ……。そんなことを思いながら正面を見ると、いつも通りニコニコとした天城と、顔面蒼白な夏原がいた。
「夏原、お前ひょっとして」
「ち、違うぞ!普段は平均点ぐらいは取れるから!」
「すーちゃんは最近部活頑張りすぎて、ちょっと置いてかれちゃってるんだよね〜」
「辰也と同類か……」
「こいつと一緒にすんな!」
「おい、それはあんまりじゃないですかい、夏原さんよ」
俺も意外だった。夏原は真面目に授業を聞いているイメージだったからだ。それにしても――
「天城は美人なうえに頭もいいのか……」
「あらあら~、ありがと~。日向君も最近勉強頑張ってて偉いね~」
「怪我しててやることがなかったんだよ」
「だとしても、偉いよ~」
ふむ、勉強は学生の本分で当たり前のことだとはいえ、褒められるのは悪くない。気分が良くなって、やや顔が緩む。すると、右足の脛に鈍い痛みが走った。
「いっ……!」
蹴られた、確かに蹴られた。涙目になった目で周りを見て犯人を探す。いた、頬杖をついて、面白くなさそうにこちらを見ていた夏原が。
「ふんっ!」
今のやりとりにそんな不機嫌になる要素あったか? でもまあ大切な幼馴染に友人が褒められてニヤついてたら警戒するか。まずい、天城に下心を持っていると思われるのは印象的によくない。
夏原に先ほどの訂正をしようとした時、天城がある提案をした。
「じゃあ再来週、勉強会でもする〜?」
「お、いいじゃん、燎も夏原もいいよな?」
「ちょうど部活も無くなるし俺はいいよ」
「涼音も」
「よし、じゃあ決まりな」
そのまま、勉強会の話が続き、夏原にさっきの態度の意味を伝えるタイミングを無くした。まあ、そのあとは普通に会話もできたし、あんまり気にしてないのかもしれない。
とりあえず勉強会か……。映画を一緒に見てから夏原と出掛けることはなかったので、これは楽しみだ。より親交を深める機会になることを期待して、それまで部活も勉強も頑張ろうと思う。
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