第3話 今日の振り返り《夏原涼音視点》
お風呂から上がって布団に寝転ぶ。見慣れた天井を視界に収め今日の出来事を振り返る。
『夏原、ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください!』
夕暮れ時、陽が差す教室で日向燎にそう言われた。告白される時、一瞬だけ冷やかしである可能性を考えてしまった。でも違った。琴花への告白を何度も見てきたからわかる。あの顔は真剣に恋をしている人の顔だ。
そもそも、自分が告白を受けるなんて思ってもいなかった。周りにいる男は大抵、琴花と仲良くしたい連中だ。男みたいな見た目と性格の自分はあくまで琴花よりとっつきやすいやつで、ただの橋渡し役としか見られていないだろう。
日向燎。彼とはたまに会話をする程度のいわば普通のクラスメイトだ。去年も同じクラスだがほとんど絡みはなかった。ただ、時折あるコイバナで彼の名前が出ることがある。といっても自分は聞くことしかできないんですけど。竜胆目当てでサッカー部の試合を見に行っていた子が周囲の友人としていた会話を思い出す。
『試合見ててさ、竜胆くんはいつも通りかっこよかったんだけど、日向くんもちょっといいなとか思っちゃった!』
『へー! なんで、なんで!?』
『まず、見た目ね! いつも竜胆くんの隣だから目立たないけど普通に綺麗な顔立ちしてんの!あとサッカー部だからやっぱりスラっとしてて筋肉質だし! あとはやっぱり中身ね! ミスした味方に1番に声かけてたし、荷物運びも積極的にやってさ。なんか、見た目良し、性格良しで、あれ、日向くんって、普通にハイスペック男子じゃね? ってなりました』
『私としてはなにより竜胆くんとの絡みがいいね。何とは言わんけど捗るね、ぐへへ』
最後の子は様子がおかしかったが、話した感じとこれまでの評判を含めるととりあえずいいやつで密かな人気があるといった印象だった。
だからこそ戸惑った。なぜ、自分なのか。こんな可愛げもなく、たいした取り柄もない、おとこ女の自分なのか。
男は琴花みたいな清楚でお淑やかな女が好きなんじゃないかと。ま、まあ、興味本位でどこが好きなのか聞いたら痛い目を見たんですけど。はい。
『と、とりあえず、友達から始めてみませんかっ!』
これが正解だったのかはわからない。聞こえはいいが、好意を保留することに変わりはない。でも仕方なかったんだ。恋とか愛とか、そんなのとは無縁に生きていたし、自分が恋愛に取り組むターンなんて来ないと思っていたから。
もしかしたら告白されるかも、そうテニス部の友人達に相談をした。羨ましいだとか、優良物件じゃんとか言われて、絶対に告白を受けるべきだって言われた。でも、自分の気持ちを整理する時間が欲しかった。そんなこんなでみんなで考えて導いた答えが、"友達から"である。
キッパリと断るのが正しいのかもしれない。でも、それでも"友達から"と提案したのは、やはり嬉しかったんだからだと思う。初めてだったんだ。人からまっすぐな好意を告げられることが。初めてだったんだ。琴花の友人としてではなく、夏原涼音として接してくれたのは。もちろん、琴花は大好きで、大切な幼馴染だ。今も昔もこれからもそれはきっと変わらないだろう。しかし、琴花という完璧美少女の隣で生活を続ける中で、気付かぬうちに彼女に引け目を感じていたのだろう。
「とりあえず、友達からか……」
そう呟いてとりあえず振り返りを終える。日向とどうやって接していくのか、どう仲を深めるのか、今はまだ何も考えられない。しかし、明日から確かに変わっていく生活に期待と不安を感じている自分がいる。そう思い、いつの間にかやってきた眠気に身を任せ、目を閉じた。
――――――――――――――――――――――
ここまでご覧いただきありがとうございます!
よろしければ、作品、作者のフォローやレビューをしていただけると大変励みになるのでよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます