第4話 夢主の過去

ルシエルがゆっくりと夢主の方へ歩いて行く...


尻尾を振りながら、無邪気に話しかける....

さっきの威嚇がなかったかのように。


ルシエル「どうした?……怖いのか?」


ルシエルの心臓がドクドクと鳴る。

それでも尻尾はゆらゆらと、まるで平然を装うように揺れていた。


彼は夢主を下から見上げて言った。


夢主の大粒の涙がルシエルの顔にかかる...


ポタン.....ポタン



夢主は耳を塞ぐことに必死だ....


誰かからの声を聞こえないようにするかのような...


ルシエル「ねぇ.....君の悪夢、覗かして貰うね........大丈夫......怖くないからね.......」


彼は夢主の手を握る。

相手はとんでもなく大きな手。そこにルシエルの小さな手が重なる


ルシエル 「メモリア・インサイト」


ルシエルが目を閉じ、瞼の裏に光が入ってきた。


みんなが友達と一緒に帰ろうとする放課後の教室....

夢主は何も聞こえないように机に突っ伏した。


夢主「今日も、話しかけられなかったなぁ.....」


女子A「あの子話しかけた方がいいのかね?」


女子B「うーん.....なんかさぁ....怖くない?トランスジェンダーらしいよ。傷つけちゃうかもじゃん.....」


女子A「あーね.....触らぬ神に祟りなしってやつ?」

僕は心の中で叫び続けている...


僕は女の子じゃない.....男だ

だだそれだけだ....なのに...周囲が避けていく...

僕を壊れ物のように扱う....



どこからか、女性らしき、優しい声が聞こえる。


「ユイ、正しい性別で産めなくてごめんね……。ママ、本当に……ごめんね……」


その声は優しかった。

だけどそのたびに、僕の存在が“間違い”だって、釘を打たれていく気がした。

優しさで包もうとされるたび、僕は“壁”の中に閉じ込められる。


お母さん……

偽善だ……偽善だよ……


僕は心と体が同じ性別じゃなきゃ間違いなの?

僕って失敗作なの?

やっぱり、体は間違い?

僕は自分なんか間違いなんて思ったことなんてない!!

───僕って間違いなの?


ルシエル「.........なるほどね....」


ルシエルが目を開ける。



ユイ「僕の悪夢みたのか!?」


ユイがルシエルの手を強く握り返す。


ルシエル「えっ.....」


ユイ「見たかって聞いてんだよ!?!?」


ルシエル「見たけど....」



ユイ「やめろ....やめろよ。なんで.......人の心に土足ではいるんだ.....バカなのか?」



ルシエル「ごめんね.....ユイ君....ただ君を知りたく........」

彼がそう言おうとした瞬間...



ユイ「.......何もわかってない.........わかってないんだよ!大人はみんなそうだ‼️」

ユイ「お前もどうせ、僕に無関心なんだ.........」

ユイはルシエルと重ねた手を力を込めて振り払った。

慌てて手のひらで顔を覆い、震えながら涙をぬぐう。

ユイ「じゃあさ...........僕がいなくても一緒じゃない?」


空気が凍った。

ユイがすすり泣く音だけがやけに響いた。


ルシエル「そんなことないよ....」

ルシエルが静寂を切り裂く。

声には温かさが宿っていたが、その奥には揺るがぬ芯があった。


ユイ「........お決まり文句言ってるだけだろ?責任、あるのかよ?」


ユイの涙が手から腕へと流れていき、体が冷たくなる。悲しみに侵食されそうだった。


ユイ「口先だけで慰めてさ。逃げていく奴らがいるんだよ。」


嗚咽が混じった声。

言葉の切れ端に、静かな叫びが潜んでいる気がした。


ユイ「最後まで一緒にいてくれないなら、黙って見てろよ.......」


ユイは震える手で自分の首を締める。

自分の脈が手のひらに伝わり、虫唾が走る。


ルシエル「っ!?」


ルシエル「僕と同じになっちゃう.......!だめぇ!!」


ルシエルがユイの手を首から離そうと、ユイの手に力を入れる。

だが、力は貧弱だった。

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