第5話 ルシエルの過去

ルシエルの頭の中にある出来事が浮かび上がる。


西洋の街中。

パンの焼ける匂いと、古い木の屋台から立ち上る香りが混ざっていた。

人々は屋台で食べ物や骨董品を買い、笑顔を交わしていた。

その幸せの風景が、どこか遠い異国のように思えた。


そのとき、1人の声が響き渡った。

まるで警報の鐘のように甲高く、耳をつんざいた。


夢媒師「だめぇ!!自害しちゃ!」


だが、その叫びさえも、ルシエルにはただの雑音だった。

脳の奥に届くことのない、割れたスピーカーのような声だった。


ルシエル「タマがぁ......猫がぁ......」


ガヤガヤ声に掻き消されそうなか細い声だった。

まるで虫の声だった。

大通りの端には野次馬達が集まって、まるで見世物かのように、中央にいる2人に注目が集まっていた。


夢媒師「夢主くん.....タマちゃんがどうしたの?」


夢媒師が優しく、ルシエルに話しかける。

母のような優しさだった。


ルシエル「死んじゃったのぅ......だから僕も死ぬんだ.......」


薬を握る手は微かに震えていたが、薬を強く握り押し殺した。

飲み込んだ。

ゴクリゴクリ


周りが嘲笑っているのが聞こえる。


クスクス


まるで、ピエロの芸を見ているかのようだった。

その視線が冷たく、ルシエルに突き刺さった。


ルシエル「苦い.......」


夢媒師「っっ!?」

ルシエルは目を閉じて、倒れた


ガタンッ


痛みはなかった。むしろ……安心に近かった。

石畳の地面。

冷たかった。

寒い

ルシエル「タマも寒かったのかなぁ.....」


夢媒師がルシエルに駆け寄る。

ルシエルが倒れてるところに、夢媒師が しゃがみこみ、覗く。



夢媒師「やめなさい!!ぺっしなさい!ぺっするの!!」


ルシエルが再び目を開ける。

そこには、青白く、絶望に満ちた夢媒師が顔があった。


夢媒師の声が震え、視線を伏せた。

「あぁ……呪いが……」

ルシエルは目を見開き、肩を小さく震わせた。

「呪い…?」


夢媒師は震える手でルシエルの頬を掴んだ。

その手は氷のように冷たいが、どこか温かみも秘めていた。

「自分がやったこと、わかってないんでしょ……?」

「もうこの夢から出られないんだよ.....?自害したから.......」


ルシエル「えっ.......」


目が乾き、視界がぼやけた。

耳鳴りだけがよく響いた。


ルシエル「──嘘だ.......僕はただ悪夢を見たくなくて......」

ルシエルの唇が震え、嗚咽がこみ上げた。

「嫌だ……嫌だよ……家族は……?」

その頬が濡れていく。

頬を伝う涙が、空の青さを滲ませた

ルシエルは夢媒師から目を逸らし、空を見上げた。あまりにも青い。どうしてこんな日に……。

――空なんて、快晴なんて、全部嘘だ

無慈悲だった。


ルシエルの目には、

ユイが自分自身のように映っていた。

ルシエルは、ユイの瞳を見つめ返す。

ルシエルの瞳には確かな決意の光が灯っていた。


ルシエル「だから..............だがら、ユイくんには。

同じ目に合わせない...

自害はさせない..........生かしてみせる....!」

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