第2話
夏葵が初めてのサッカーを終える頃、4人はすっかり仲のいい友達となっていた。
その日は体を動かして疲れたお陰か、相変わらず怒鳴り声と物を叩きつけるような音の中でもぐっすりと眠ることが出来た。
次の日も、その次の日も授業が終わるとランドセルを置いて公園に集まり、サッカーしたり、ベンチでおしゃべりしたりするのが日課になっていき、夏葵も毎日よく眠れるようになった。
ある日は陽翔の提案で「秘密基地作りたい!」とか言い出して、近くの空き地に段ボールを持ち込んだり、駄菓子屋でお菓子を買って交換したり。
夏葵は最初こそ遠慮しがちだったが、慣れてきたのか最近はふてぶてしくなり、表情も和らぎつつある。
こっちが素なのかもしれない。嬉しいことだった。
「なー、陽翔のグミ、もう1個ちょうだい」
「夏葵、おまえそれ5回目だぜ」
「くれないの?ケチ!」
それを見て笑う泉と窘める雅貴。
ぷー、と頬をふくらませ、そっぽを向いた夏葵の頬をつついてやろうと悪戯心が芽生えた陽翔が背後から手を伸ばし、もう少しでつつけると思ったその瞬間、夏葵が身を強ばらせるのが分かった。
「……あ……ご、ごめん」
はっとした夏葵が慌てて謝ってくるも陽翔の心には違和感が残った。
どこか気まずくなってしまったためか、逃げるように帰ろうとする夏葵に焦って手首を掴めば、小さく呻き、顔を歪める夏葵。
「いっ、」
「へっ?」
「ちょ、陽翔は力強いんだから手加減しないと!」
「そうそう、陽翔馬鹿力なんだから」
ごめんね、と思いつつ、俺、そんな強く掴んでないよ。
そう思って夏葵を見つめれば悲しそうな顔をしていた。
余程痛かったのかな。
罪悪感で涙が出そうになるのを堪える。
「なつき、ごめん……」
「…まってまって、陽翔わるくないよ。おれ、丁度ここに痣あってさ。だからなんだ。俺こそ大袈裟に痛がっちゃった。ごめん。」
「痣……?」
そうだ、もうすぐ夏を向かえようとしているこの時期、段々と半袖を着る人が増えていたが、夏葵だけは決して長袖以外を着ようとしなかった。
寒がりなのかな?なんて呑気に思っていたが、そんな理由では無いことが袖の下を見て分かった。
腕に散らばる、紫色の痣、痣、痣。
黄色に変色しかけているのもあった。
泉と雅貴も息を飲んでそれを見つめていた。
なんでこんなに沢山痣があるの?って聞きたかったけど聞いちゃいけない気がして。
でも気になりますよ、って顔を俺がしてたのか、夏葵は年齢に似合わず疲れたように笑うと、転んだだけ、ね。
と言って腕をしまった。
じゃ、帰ろっか。と言ったのも夏葵で、俺らはその間何も言葉を発せなかった。
でも、夏葵のどこか泣きそうな顔と紫色のあの痣が目に焼き付いて離れなかった。
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