どこまでも逃げて、いずれ辿り着く幸せを願って。
- ★★★ Excellent!!!
ツキを引き寄せる月の一族の御子である詩乃は、日の一族によって囚われ、虐げられていた。
日の一族の御子である宗一郎へ嫁いだ姉を殺された失意の中、今度は自分が次の花嫁になることに。
憎い宗一郎に嫁ぐくらいなら、日ノ本を安寧秩序へ導く役目を放棄してでも死のう。
そう心に決めて海へ身を投げた詩乃を助けたのは、龍神の洵。
彼も親が勝手に決めた婚姻から逃げている最中なのだと言う。
他人に好き勝手される運命から逃げることを決めた二人は、「洵が本当に結婚したいと思う相手を見つけるまで」という期限付きで、契約結婚をすることに――。
幼い頃から枷を嵌められ、虐げられて生きてきた詩乃ですが、その心根は強く気高いものでした。
暴力に屈さず、自分を保ち続けたからこそ引き寄せた洵との逃避行に、心が震えました。
洵は龍神というだけあって、不遜で、どこか考えがズレていて、それでいて恐ろしいほど無邪気な一面もある、魅力的なヒーローです。
最初は詩乃のツキを引き寄せる能力で親の追手からどこまでも逃げようという打算的な考えから彼女を助けますが、次第に詩乃という人間に関心が沸いていく様子が鮮やかに描かれています。
そして「誰のためでもなく自分のために生きる」と決めた詩乃が枷から解き放たれ、洵と一緒に外の世界へ踏み出す姿は、純粋に「がんばれ!」と背中を押したくなりました。
二人の逃避行がどこまでも続いてほしい気持ちと、もし終わりが訪れるのなら、無自覚な二人が本当の気持ちを自覚した時であってほしいと願わずにはいられません。
抑圧からの解放、そしてキュンを詰め込んだ契約婚。日本神話をモチーフにした和風ファンタジーの要素も魅力的です。
ぜひご一読あれ!