スリの少年とねぎ豚 少年に生きる希望を

 時間は少し流れ、人の波を掻い潜るかのように白石と木乃葉は歩んでいた。木乃葉は気まずくなった雰囲気を変えるために一つの屋台を指さした。


「白石様、あそこにあるのは4文で買える天ぷら屋台です」

「あれが有名な屋台か……」


 蕎麦一杯十六文(二百四十円)なのだから四文というのは破格というのが分かる。江戸時代の人達はファーストフード店をこよなく愛していたのだなと白石は思った。

 屋台には少しずつ人が集まり始めていた。木乃葉は白石の顔を見ると一度くすりと笑いこう言った。


「どうします買いますか」


 どうすべきかと白石は思った。これ以上お金を使わせていいものかと。恐らく彼女は自分に気を遣ってこう言っているに違いない白石は考える。


「どうしましょう……」


 考えた結果出た言葉が案外情けなかった。木乃葉はそんな白石を見ると意を決したかのように天ぷら屋に歩んでいく。


「あ……」


 彼女に気を遣わせていることが非常に申し訳ない気持ちになった。天ぷら屋に歩いて行く木乃葉。そんな木乃葉に一人の少年が近づいてくる。


 木乃葉にドンと少年はぶつかると、木乃葉は体のバランスを崩し、

「キャッ」

 と、よろめきながら声を上げた。そんな木乃葉の声を聞くと少年はたいして悪気がない表情でこう言った。


「ごめんよー」


 しかし白石はその一瞬を見逃さなかった。木乃葉と距離が離れていただけにその一部始終を見ていたのだ。


(スリだ……)


 少年は走ってその場を逃げようとした。白石は即座に駆けた。少年は後ろを見やると白石が全速力で駆けてきているのが見えた。


「白石様ー!」


 白石が木乃葉の元を離れ、全速力で少年を追いかけていくのをみて木乃葉は訳が分からず素っ頓狂な声を上げる。


 そして木乃葉も後を追うように人の波を縫うように駆け抜けていく。江戸時代でのスリは重罪だということを白石は昔本を読んで見たことがあったので、あえてスリだということを声を出して言わなかった。


 少年は鬼の形相で駆けてくる白石を振り向きざまに見やるとしまったと思った。


(捕まってたまるかよ!)


 しかし少年は白石の脚力を舐めていた。白石は中学時代に陸上部に入っており、その脚力には昔から定評があった。


 白石は更に速度を上げて少年を追うように駆けていく。少年が曲がり角に差し掛かろうとしたとき曲がり角の付近から一人の侍が現れた。恐らく登城日なのだろう。羽織や小袖といった感じではなくお供を伴っての正装だった。


 少年は前を見ていない。このままいけば少年が侍にぶつかるのは目に見えていた。白石は更に加速する。無礼打ちはないだろうがぶつかればいい目に遭うはずはなかった。


「間に合えー!」

「いつまで追いかけてくんだよぉぉぉぉぉ――!」

「前を見ろおおぉぉぉ! 少年んんん――!」


 少年は前を向いた瞬間。侍がいることに気がついた。後ろを何度か確認しながらの走りだったので侍の存在に気がついていなかったようだ。


 侍も驚いた表情になる。このまま走って行ったらぶつかるというところで白石はラグビー選手顔負けといってもよい方法を取る。地面を蹴ってタックルしたのだ。


「とどけえええええええ!」


 白石は左手で少年の体を掴むと強引に侍の方から右側に少年の体を持って行く。


「な、なにすんだあああああぁぁぁぁ――!」

「うおおおおおおおおおおっっっ――!」


 白石と少年は地面に叩きつけられようにして転がっていく。しかしそれも束の間、白石はすぐに体勢を立て直し、少年にこう言った。


「お前も土下座をするんだ」

「なんでだ!」

「お侍様にぶつかりそうになったんだ」

「え?……」


 その瞬間、自体を察した少年の歯がかカタりと音を立てた。それは恐怖といっても過言ではなかったもしれない。


 二人して土下座をして侍からの言葉を待つ。頭上から威圧めいた声が掛かる。


「侍の命と言うべき刀や、私が今日召している服に汚れなどをつけたらどうなっていたか分かっていたであろうな!」

「ははああああああぁぁぁ!」


 白石は少年の頭も地面につかせるように頭を下げませる。


「二人で追いかけっこをしていたところ過熱してしまい、もう少しのところでご迷惑をおかけするところでございました。誠に申し訳ございません!」


 白石は深く深く頭を下げると、一瞬侍の笑いが聞こえたような気がした。白石の頭に侍の足が乗る。


「もっと深く頭を下げよ! オラァ!」

「はああああああああっ!」


 白石の頭に土がつく。そんな光景を見てしまった木乃葉。駆け寄ろうとするが後ろから加納屋に腕を掴まれ、首を横に振られた。


 いじめなのはわかっている。しかし今は白石の機転に任せるしかない。後はどこからか助け船さえくればと白石は当てのない思いを心の中に抱いてしまった。


 正直言って怖い。身が震えるばかりに怖い。でも少年も守らないといけないという気持ちがなにより大きかった。


 そのとき丁度曲がり角から重治郎が現れた。どうやら重治郎も登城日であったようだ。一縷の望みが本当に叶ったとはこのこと言うのだろう。


 一瞬重治郎にはそこで土下座をしている人物が誰なのか分からなかった。しかし遙か前方には木乃葉がいる。


 重治郎はもしやと思い、土下座をしている白石を見やるとそれはよく知った顔であった。


「なっ……」


 なにが起きているのか重治郎には分からない様子であった。しかし白石の頭を踏みつける相手の侍を見て一度目を瞑ると仲裁に入る。


「土井殿」

「なにか?」

「そちらは私の客人なのです。この辺りでやめていただけないか?」


 土井と呼ばれた侍は声が掛かった方を振り向くと、ぎょっとした表情をして目を丸くした。


 この土井という男、あまり侍の界隈では良い評判はない。むしろこうした弱い物いじめをすることを趣味のようにやることがある。


「しかし、この者、私の服と侍の命である刀に傷をつけようとしたのですぞ!」

「見たところ、どこにも傷などないように思えるが」

「ぐっ……」


 重治郎の冷めた視線を受けて土井は苦虫を噛みつぶした顔になる。白石はそこでもう一度声を張ってこう言った。


「このようなことがないように、この子と共に更に気をつけていきたいと思いますのでなにとぞこれでご勘弁下さいませ。な、お前も」

「は、はい。すみません。これから気をつけます」

「うぐっ……」

「土井殿、二人ともこれだけ謝っているので勘弁してはもらえぬか?」


 土井にとって重治郎と言う存在は脅威でしかない。重治郎は先日は命を奪われにかかったが、それでも剣術の腕が弱いわけではない。


 そしてこの土井という男は剣術の腕は圧倒的に重治郎より下なのだ。だからこそ重治郎は言葉と態度にすごみを加えて言い放つ。


「それとも、土井殿、今回の件は道場で話し合いしましょうか?」

「ぐっ……お、おのれえええ――!」


 重治郎の挑発に土井は少し後ずさり、白石の頭から足を離すと呻くようにして叫んだ。どけた足は恐怖のせいかカタカタと震えている。


「ちぃっ! これからは気をつけよぉ――!」

「ははあああああああっ――!」

「ははあああああああっ――!」


 土井から逃げれると思った白石と少年はそこで再度深く頭を下げた。土井はぶつぶつと小言を言いながらその場から立ち去っていく。


 この出来事を見ていた通行人もそこで幕引きのようにさっと人がいなくなっていく。白石は頭を上げると少年の方を見やる。


「大丈夫か?」

「う、うん」

「そうか、それはよかった」

「に、兄さんこそ大丈夫なのかい?」

「ああ」


 そんな二人の様子を見て遙か遠くで加納屋に引き留められていた木乃葉が駆け寄ってくる。


「白石様ー!」


 その木乃葉の目には涙さえ浮かんでいる。そんな木乃葉を見やる重治郎。内心重治郎は間一髪だったかと考える。


「白石殿」

「は、はい」

「これからは注意して歩いてください。中には話というものが通じない輩もいるので」

「ありがとうございます、青木様!」


 重治郎は手を白石に差し伸べると白石はお礼をいいながら重治郎の手をとって立ち上がった。重治郎は少年を見やると白石に質問する。


「その子供は?」

「一緒に遊んでいた子でございます」


 重治郎にもこの子がスリをしていたことを気づかれるわけにはいかなかった。少年は体をガタガタと震わせ重治郎を上目遣いでみやる。


「訳は深くはききません。後は白石様にお任せいたします。まだ所用があるのでこの辺りでごめん」


「青木様、ご配慮と心遣いに感謝致します。この恩はどこかでお返し致します」

「命を助けて頂いたときからご恩はこちらの方にありますので、と、それでは」

「はっ!」


 去って行く重治郎の背中を見た後に白石は少年の方を向く。その白石の瞳に揺らぎはない。そんな瞳を見ていると木乃葉も加納屋もそれを静観するしかない。


「少年」

「は、はい」

「なんでスリなんかを」

「そ、それは……」


 本当に誰にも聞こえないような小声で二人は喋る。スリは重罪なので木乃葉や加納屋意外に知られるわけにいかなかった。


 加納屋は耳を澄ませて会話をなるべく聞き取ろうとしている様子であった。少年は白石に潤んだ瞳を向けると切実に訴えた。


「生きるためさ……」

「生きるため……」

「そうさ! 流行病でおっかあとおとっつあんをつい最近死んだんだ。でもおっかあとおとっつあんが死んだ瞬間、周りはおいらを腫れ物で扱うようになった。字を習い。将来のために算数を学んで、周りの人はそのときは認めてくれたさ。でも両親が死んでからは冷たいのなんの……だからおいらは誓ったのさ。おいら一人の力で生きてやると」


「……」


 両親が死んでから人は自分を腫れもののように扱うようになった。人とはそんなものなのかもしれない。だが世の中には捨てる神があれば拾う神ということばがある。白石はこの少年になんとかしたいという気持ちになった。だから厳しめの口調で言う。


「スリは重罪だ。命を取られる罪になってもおかしくない。更にお侍さんにその上でぶつかってみろ。お前は自分で命を捨てているようなものだ。死ぬことがお前の思い描いた人生なのか? どうなんだ?」


「……」


 死ぬことを目標にする。死に恋い焦がれているならまだしも、そのような覚悟はこの少年にはあるまいと白石は思う。


「少年、お前これから時間はあるか?」

「おいらを奉行所に連れていくのかい」

「違う」

「じゃあなんだい」

「お前に生きる希望を与えてやる」


 白石はそういうと少年の手を握り真剣な顔をした。近くによってきた木乃葉に言う。


「木乃葉さん」

「は、はい」

「この少年を家に招いてもいいですかね?」

「それはかまいませんが」

「ありがとうございます。加納屋さん」

「なんですか?」

「一緒に豚料理を今から食べませんか。朝から仕込んであったので」


 ちょうど今は昼ご飯を食べる時刻に差し掛かろうとしていた。腹の虫が鳴いたようなきがしたので加納屋は未知のごちそうの誘惑に負けてこう言った。


「いいですな。それじゃあごちそうをいただこうではありませんか」


 白石は頭や服についた土埃を払い落とすとこう言った。


「それでは行きますか」


 それから暫く時間が経って青木家の客人の間では白石の料理を待っている一同が手持ち無沙汰で待っていた。


 料理は温め直した方が旨い。本当は重治郎にもこの場で食べて欲しかったのだが、用事があるものは仕方がない。


 客人の襖の前で白石の声が聞こえた。


「出来上がりました。入りますね」

『どうぞー』


 少年は一同が声を揃えて白石の料理を待ち望んでいる風景を見てぽかんと口を開けた。まるで全員が子供のように楽しみにまっているように思えたからだ。


 白石は各人の前に皿と共に料理を並べていく。続いて春野が入ってきて野菜入りの味噌汁を並べていく。


 白石は正座して一同を見やると今日の料理の名前を言った。


「本日はねぎ豚になります。ねぎと煮ることによって豚肉を極限まで柔らかくしてあります」


「おー。旨そうだ」


 加納屋は前に並んだねぎ豚をじっと見やる。豪商として名高く、四十後半の彼でも見たことのない料理の前ではさすがに子供のようになってしまう。加納屋は強面の顔にある髭を一度触ると白石にこう聞いた。


「食べてもいいのですか?」


「はい、みなさんもどうぞ」


 緑が主体となった皿の中にねぎ豚がその存在感を醸し出すかのように並んでいる。しっかり煮られた影響なのか、その分厚い肉の身はしっかりと茶褐色の色に染め上げられていた。


 豚の脂身さえもその茶褐色のおかげかよい色合いがついていた。湯気と共に立ち上る醤油の香ばしく魅惑的な香りと、長ネギの甘い香り、そして紹興酒の香りが腹にボディーブローを与え、食欲という獣が体の内から引きずり出す。


 春野はどうぞと言いながらご飯と大根のお漬物を各人の前に並べていく。


「それではいただきますぞ!」


 春野が席に着いたのをみやると加納屋はそう号令をかけた。少年はじっとねぎ豚を見てから箸を豚肉に持っていく。弾力はぷるんぷるんとしていて、箸で触ると肉汁と脂が浮かび上がる。


「なんて料理だい!」


 少年は箸で掴むと意外なほどにその身は柔らかかった。ぷるんとしたその感触は箸を押し返すかと思いきや少し力を入れて掴むと結構簡単に肉が切れた。


「柔らかい」


 少年は口元から出てきそうな涎を飲み込むと箸で切った豚肉を口の中に入れる。


「ふお!」


 豚肉の特徴のある味。奥深く奥行きがある。まったりとした奥深いコクがふわりと口内へ広がり快楽とも言える肉と肉汁、そして脂の味が楽しめた。


 醤油ダレが引き締めるようにしっかりと豚肉の味を引き締め、長ネギの香りがふんわりと口の中に広がる。紹興酒の香りがふんわりと立ち上り、少年は身をよじりそうになった。


「加納屋さんが下さったこの豚肉と紹興酒があるからできたんです。ネギは肉などを柔らかくする効果がありますので」


 一同に白石は正座をしたまま説明していく。そして白石は更に話を続ける。


「漬物でご飯を食べられるのもいいのですが、この豚肉をご飯の上に載せて食べれば天国を味わえるかも」


 その白石の言葉に少年は豚肉を切り取るとご飯の上に載せる。そのタレが純白な米に出会うとき茶褐色に染め上げられる。


 少年はご飯と共にその豚肉を口の中に入れた。


「……」


 米の良い香りと甘さ。そして素晴らしい食感が醤油風味のねぎ豚によって更に格上げされていく。まったりコクのある味がまるでヘビー級のボクサーに殴られたかのような衝撃に変化した。


「うめえよ、うめえよ。なんだよこれ――! こんなの食ったことがねえよょょ――!」


 まるで天国を通り越したなにといいようがない。そうだこの料理が神ならばそれを料理したのは神の神剣だ。


 少年だけではない。一同がただがむしゃらにその料理を食べ進めている。そんな一同を見て白石は作った甲斐があるものだと柔和に微笑むのだった。


 食事が終わり皆が恍惚とした表情を浮かべているときに白石は皆の気持ちを現実に戻すのを悪いと思いながらも少年に言った。


「なあ、少年、突然なんだが少し生き方を変えてみようと思わないか?」

「生き方を変える……」

「そうだ。確かに悪い人生になりそうだったかもしれない。しかし生きていればこうした旨い豚肉料理が食える。お前のやっていることはただの自殺だ」

「……」

「生き抜いて、いつか旨い料理を食える生活を目指さないか?」


 そこで白石は言葉を一旦区切ると、話を続けた。


「少年、お前文字を読めたり算術ができたりするんだろ。折角学問がやれるのにもったいない」


「……」


 加納屋は地獄耳だ。先ほど少年と白石が会話をしていたことを聞いて、全てを理解していた。だから白石は加納屋の方を見やると深く頭を下げてこう言った。


「加納屋さん」

「……うむ……」


 白石が次に言うことを分かっていたので顎に手をやると考える。加納屋は瞑った目を開けると白石にこう言った。


「でも白石さん、私はあなたの為を思って話を振ったんですよ。いいんですか?」

「はい。まずは幼い子を助けましょう。私はなんとかやっていけます」

「白石さん、あなたは人のことを心配しているじゃないということは覚えておいてくださいね」

「肝に銘じておきます」


 そこで加納屋は小声でこう言った。「しかしこれほどまで凄き料理を作り続けるのであれば重治郎さんも、私のやりたいこととも一致するかもしれない」


 意味深な言葉であったが白石には意味が分からなかった。加納屋は少年の方を見やると厳しい顔つきを更に厳しくさせこう言った。


「小僧」

「は、はい」

「お前もしどこかに勤めることができたら今後盗みはやめるか?」

「も、もちろんです。もう今日見たいのはごめんだい」

「約束できるな」

「できます」

「少しの給金も出す。お前今日から私の店に入れ」

「え?」


 少年にとって意外な提案であった。少年は白石と加納屋を眺めると目に涙をいっぱいに溜めて泣きながら言った。


「いいのかい……こんなおいらでも」

「男には二言はない。それに儂は商人として長いこと人を見ているのだ。お前は悪いやつじゃあない」

「うう、うぐっ、うえええええええええん――!」


 加納屋は決して茶化さず真面目な口調でそう言うと少年は加納屋に抱きつき泣いた。そして少年は泣きながらありがとうございます、命の続く限り勤め上げますと言うのだった。


 暫く立って少年と加納屋が家から店に戻ろうとしていた。話の流れから白石が無職ということが少年は分かったのだろう。だから少年は白石にこう言った。


「兄さん、おっかしいや。自分も無職なのに人のことをこれだけ気遣うなんて。あんたこの江戸ではいない人だ」


 その言葉に白石も加納屋も乾いた笑みを浮かべるしかなかった。少年はこうも言った。


「いつか給料が入ったら蕎麦でも奢るよ。本当にありがとうな兄さん」


 少年はそこで涙を流した。本当に嬉しかったのだろう。歩を進めた少年と加納屋の背中が小さくなっていくのを見て白石はこう真剣に思った。


(確かにこの後、どうするんだ俺は)


 そう思う白石の上空には少し夕焼けが混じった空が浮かび始めていた。


 その日の夜。重治郎の部屋では玉城伊織と重治郎がねぎ豚に箸を付け、会話を交わしていた。


 重治郎が精悍であれば、この玉城伊織は非常に理知的な顔であると言える。顔が性格を表すとすればまさにその通りの性格でもあった。


「なんという料理か」

「どうでしょう玉城様。これならば我々の主張が上へ通るかもしれません」

「まさに……重治郎、これはまぐれではないよな?」

「三度もまぐれは続きますまい」

「三度?」

「はっ、どうやら白石殿は私が外出しているときにチャーハンなるものを作ったそうですが、作る工程からして人間業ではなかったと」

「味は」

「もう、極上だったそうにございます」

「うーむ、欲しい、その男はどうしても欲しい。時期が時期だ。どれだけ欲しくても暫く様子を見ねばなるまい……時期が来たら合議の席に白石という男を連れて行こうではないか」

「まだ早いですか?」

「うむ、まだな。ただ、我らの目的のためになんとしてもこの男の別の場所へ行くのを止めてくれ」

「承知致しました」

「しかし重治郎、これを食べていると、とても健康的な生活と知的好奇心が追えそうな気がするじゃないか」

「さようで」


 この台詞を言ったとき玉城はまだ見ぬ知的好奇心が湧き出た気がした。その玉城をみて頷く重治郎。二人の侍の顔を灯りが照らす。そんな二人のことなど知らずに白石は部屋で悶々と悩んでいたのであった。


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