Day27 しっぽ

「あの、おたくの息子さんを大変驚かせてしまったこと、本当に申し訳なく思います」


 玄関先で若いトカゲの娘は言った。

 彼女は二足歩行で、背丈は小学6年生の息子と大して変わらない。このトカゲは突然息子を威嚇してきたのだ。息子が驚いて転び、けがをしたのも当然のことだ。

 母親の義憤は、謝罪の言葉だけでは収まらない。


「ヒトとトカゲが共存するのに、このような行為は本当に困るんです。二度とやらないと約束できますか」


「大変申し上げにくいのですが、私も、繁殖期で気が立っていたのです。ですから、これを」


 ブツッと音がした。

 コンクリートの床にドサリとしっぽが落ちる。自分で切り落としたのだ。


 トカゲの娘は両手で自分のしっぽを拾い、母親に向けて差し出す。


「誠意のあかしです。トカゲの自切は生涯に一度か二度、一度すれば子どもを産めなくなることもあります」


 母親をひたと見つめる爬虫類の瞳には感情が映らない。

 気圧されて、母親は黙って受け取った。まだしっぽはびくびく動いている。

 トカゲの娘はヒトで言えばまだ十代後半くらいだろうか。

 何という覚悟だろう。

 しっぽは今すぐ放り出したいほど重たく、冷たかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る