Day26 悪夢

 文化祭でドミノ倒しをやると決めたときから、彼はなんとなく嫌な予感がしていた。


 息詰める作業が終わったのは文化祭前日で、ドミノは模様を作りながら廊下から教室へ向かい、そこで広く展開する予定だった。その瞬間はきっとすばらしく、感動さえ呼ぶかもしれない。


 帰り道、ふとスマホを忘れたことに気づき、彼は教室まで戻る。無人の校舎は薄暗く、もの寂しい。遠く誰かがはしゃぐ声が聞こえる。


 ふと、彼の靴のつま先が何かに触れた気がした。

 カタタタという音が聞こえ始める。彼はぎょっとした。

 ドミノを蹴ったのだ。

 彼はドミノに飛びつき、止めようとする。それがかえって別の列のドミノを倒し始める。


 ドミノが倒れていくさまは絶望を呼び、まるで圧巻だった。

 薄闇の中で彼が転げまわっているうちに、あっという間にドミノは倒れきってしまった。現れるはずだったアニメキャラクターの顔は見る影もなく、彼がその中央にへたり込んでいる。

 血の気が引いた頭をめぐらし、彼は呆然とドミノを見渡した。ほぼすべてのドミノが倒れている。1万個のドミノのほぼすべてが。


 彼は散らばるドミノの中で、ひとり祈る。どうか、悪夢なら、覚めてくれ。

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