Day25 じりじり
薄暗く、涼しい室内に、ゴミの入ったコンビニのレジ袋が積みあがっている。焼酎のボトルと折り潰された空き缶が並ぶ。コバエが飛んだ。
ソファにはまだ若い男性がうつぶせに横たわっていた。手に持つスマホの画面だけが光っている。彼はふとスマホを置いておもむろに顔を上げると、薄いレースカーテンの向こうにちらちらと動くものを見た。
ソファに寝そべったままカーテンの端をつまんで見れば、それは庭を歩く羽虫の小さな白い羽だった。ちら、ちらと揺れるのは蟻が運んでいるからだ。
蟻は一匹だけだった。この暑いのに、一緒に働く仲間はいないらしい。外はじりじりと太陽が照り付ける灼熱の庭で、土は乾燥しきって白く、蟻には茫漠とした砂の海のように感じられるはずだ。なのに、帆のように羽を高く掲げて、蟻はのろのろと歩いていく。
彼の胸に哀れみがあふれ出た。そしてすぐにそれを拒む。
自分もこの蟻のように前進せねばならないのだ。どこが前かわからなくても進まなければならないのだ。
彼は仰向けになった。灰色の天井が見えた。乾いた唇は音もなく動く。
――蟻に負けていられるか。
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