クラウスはよろめきながら後退し、手の甲で唇から伝う血の一滴を拭った。彼の顔に浮かんだ仰天したような表情は、冷たく、屈辱に燃えた怒りへと硬化していった。

　彼は身を起こした。その時、床の溶けた鉄の水溜まりから太い鉄の柱が隆起し、彼の背中を押し上げ、完璧に直立させるように強いた。

　ゆっくりと、意図的な動作で、彼は両腕を左右に広げ、手のひらを開いた。優雅でありながら、信じがたいほど傲慢なポーズだ。

　エリナの意外なアッパーカットに歓声を上げていた観衆は、鉄柱に支えられて空中に浮かび上がるクラウスを見て静まり返った。その傲慢な姿勢は腹立たしいが、同時に、彼が大きな攻撃を放とうとしている明確な兆候でもあった。

「卑しき血の喧嘩屋め」クラウスは上から嘲笑った。「幸運な一撃を当てられたかもしれないが、真の創造の芸術家こそが常に勝利するのだ！」

　彼が両手を前方に突き出すと、床の溶けた水溜まりが噴き上がった。無数の鋭い鉄の槍が地面から飛び出し、全てがエリナを直接狙っている。彼女は最初の一斉射撃をかわし、レイピアがかすむほど素早く二撃目を弾いた。だが、数が多すぎた。一つの槍が彼女の腕をかすめ、浅い、出血する切り傷を残した。

　後退する代わりに、エリナは予想外の行動を取った。彼女は前進し、立ち上がる槍の森へまっすぐに駆け込んだ。それらを防ごうとはしない。ただ走る。

　バルコニーで、ケリナは緊張しながらも誇らしげな微笑みを浮かべて見ていた。

　エリナは距離を詰め、クラウスが腰を下ろしている鉄柱の真下に立った。彼女は彼を見上げ、燃えるような新たな激しい強さを宿した瞳を光らせて。「私の番よ」彼女は言った。

　彼女は鉄柱に手を置いた。それは彼女の『陽炎火（ファイアースプリング）』のような優しい、夜明け色の炎ではなかった。今回は、怒りと戦いの興奮によって燃え上がり、彼女の手から迸った炎は、鮮烈な、轟くような白だった。

　鉄柱全体が一瞬で白熱し、輝いた。激しい熱が柱を伝って上がり、ブーツの底を焼く。クラウスは絶叫した。彼はバランスを失い、集中力が二度も粉砕され、腰掛けから転落した。

　彼が落ちるにつれ、彼が創り出した鉄の槍の森は揺らぎ、地面の溶けた水溜まりへと溶解していった。

　エリナは彼を待ち構えていた。彼が地面に叩きつけられた瞬間、彼女は彼の上にいた。レイピアはしまわれている。魔法は使わない。彼女は拳を使った。素早く、正確な連打を彼の肋骨へ叩き込み、最後の一撃、きれいなフックを顎に決め、彼を石の舞台に意識不明で倒れさせた。

　審判は一瞬呆然としたが、ようやく正気を取り戻し、駆け寄るとエリナの手を高く掲げた。「勝者、ノックアウトによる... エリナ・ソルクレスト！」

　闘技場はまるまる5秒間静寂に包まれ、その後、耳をつんざくような、純粋で信じがたい賞賛の嵐が爆発した。

　勝者控え室の静けさの中、観衆の歓声は遠く、こもったこだまのように聞こえた。広い円形の部屋は今は空で、他の出場者たちはとっくに去っていた。

　エリナはクッションのベンチに一人座り、大きく磨かれた銀鏡に映る自分自身を見つめていた。

　彼女の頬は、クラウスの必死の、乱暴なパンチの一つがかすめたところで、少し赤く腫れていた。彼女はそっと自分の顔に触れ、疲れた小さな微笑みを唇に浮かべた。

　重い石の扉が開き、静寂を破った。ハヤト、ライラ、ケリナが入ってきた。リコとレンナは、トーナメントを十分に見たとして、それぞれの用事にすでに去っていた。

　ケリナが最初に静寂を破った。純粋な誇りに満ちた、珍しく広い笑顔を浮かべて。彼女は妹の元に闊歩し、そっと打ち身のついた頬を手のひらで包んだ。その触れ方は驚くほど優しかった。

「素晴らしかったわ、エリナ」彼女は、ハヤトが今まで聞いたことのない温かみに満ちた声で言った。「よく戦ったわね」

　エリナの顔は、嬉し恥ずかしの赤面で染まった。「ありがとう、お姉ちゃん」彼女は言った。「ただ…ハヤトさんの言ったことを思い出したの。剣を失ったらどうするかって」

　彼女はハヤトの方を見た。瞳を輝かせて。「効果があったわ」

　ハヤトはただ、わずかにうなずいて認めた。「戦略の実行は効率的だった」彼は言った。それは彼ができ得る最高の賛辞の形だった。

　一方のライラは、ドアの近くで気まずそうに佇み、まったく場違いで何をすべきかわからず、家族の瞬間の無言の傍観者だった。

　ハヤトはエリナを見つめ、分析的な眼差しで戦いの出来事を組み立てていた。「お前は怒っていた。お前の炎…いつもとは違った。お前が言っていた通りだ」

　エリナは彼の直接的な口調に少し驚いたようだったが、明るいエネルギーは揺るがなかった。「ええ！準備室で、リアが傷つけられたのを見た直後に…自分で自分を叩いたの。何度か。ただ自分を怒らせるために」

　彼女は自分の手を見つめ、そして再び彼らを見た。その表情は、単純な、幸せな勝利のものだった。「そして効果があったの！それだけよ！」

　ケリナとライラはエリナを見つめ、彼女の単純で、ほとんど子供じみた説明に完全に面食らった。しかし、ハヤトはすでに分析していた。

「それは非効率で信頼性の低い方法だ」彼は平坦な声で述べた。「自己誘発性の怒りは一時的な感情状態だ。一貫した戦闘戦略にはならない。本当の危機において、十分に自分を怒らせることができる保証はない」

　エリナの明るい表情が曇った。「でも…効果があったわ」彼女は言った。

「今回はな」ハヤトは論駁した。「お前はより良い引き金が必要だ。『怒る』と考えてはならない。パワースイッチだと考えろ。単一の、核心的な記憶や思考――常に正しい感情的反応を引き起こす何か――を見つけ、それと力の活性化を結びつけよ。感情を道具に変えろ」

　ケリナはただ彼を見つめ、深い不信感の表情を浮かべた。「あなたは…彼女のトラウマを魔法の引き金へと兵器化したいというの？」彼女は、危険なほど静かな声で尋ねた。

　ハヤトはただ彼女を見返した。「そうだ。それが最も論理的なアプローチだ」

　ケリナはハヤトを見つめ、口をわずかに開けて、彼の冷たく、論理的で、率直に言って恐ろしい提案に完全に仰天した。しばらくして、彼女は鋭い、信じられないという笑い声をあげた。

「トラウマの兵器化」彼女は繰り返し、首を振った。「あなたは本当にただ者じゃないわね、ハヤト」彼女はその場で、彼がこれ以上心理的に疑問符の付く戦闘アドバイスを提供する前に、この会話は終わりにすると決めた。

「さあ、行きましょう。家に帰るわよ」

　そして彼女は妹に向き直り、表情を和らげた。「そういえば、あなたの友達は？リアはどこ？」

　ハヤトの助言を強い好奇心に満ちた集中力で聞いていたエリナは、まばたきし、周りを見回した。

「ああ！リアはもう帰っちゃった。彼女の試合の後、ちょっと祝福を言いに来て、それからご両親と一緒に家に帰らないといけないって言ってた」

　***

　ケリナとエリナが道の向こうに消え去り、ハヤトとライラは薄れゆく午後の光の中に取り残された。姉妹は手を振って別れを告げ、二人を少し気まずい沈黙の中に残した。

　ハヤトはそばにいる臆病な少女に向き直った。「で」彼は、すべてビジネス的な口調で尋ねた。「お前は今、家に帰るのか？」

　ライラは彼を見上げ、そして彼がくれた重い金貨の袋を見下ろした。「正直言うと」彼女は静かな声で言った。「あまり家ってないの。つまり、借りている部屋はあるけど、大家さんとは良い関係じゃなくて」彼女は袋を握りしめた。「このお金で、新しい、もっといい場所を探さないと」

　ハヤトはこれを一瞬考えた。「それなら、俺の宿に来ないか？」彼は提案した。「そこに部屋を借りろ」

　彼は彼女の目にある疑念を見て取り、即座に論理的な理由を述べた。「お前は今や遠征の一員だ。お前を近くに置いた方が効率的だ。お前がこれ以上問題を起こさないことを確認する必要がある」

　二人は数分間沈黙して歩いた。祭りの賑やかな音は、宿がある静かな通りへと移動するにつれて消え始めていた。ライラは重い金貨の袋を握りしめ、状況を理解しようとまだ頭を悩ませていた。

「ねえ」彼女はついに、ためらいがちな声で言った。「あなたはなぜ本当に私をこの遠征に欲しがるの？つまり…私は泥棒よ。なぜ私を信用するの？全てが急すぎる」

　ハヤトは歩き続け、彼女を振り返らない。彼女の質問は論理的だったが、本当の答えは、彼女が理解できるはずのない人生の遺物だった。

　悪い癖だ、彼は思った。戦略的な思考を突破する自己認識の閃きが。企業での日々の名残だ。彼はコンサルティング会社での時代を思い出した。ユニークで、未加工の可能性を持ちながら無駄にされている人を見つけるたび、私の第一の本能は常に彼らを採用し、自分のチームに引き入れることだった。

　彼はついに止まり、振り返って彼女を一瞥した。「お前の力は有用だ」彼は平坦で直接的な声で言った。「それだけが理由だ」

　ライラは彼を見た。その表情は不信感と疑念が見事に混ざり合っていた。『私の力は有用だ』？それだけ？その単純で論理的な説明は、完全な嘘のように、彼女が理解し始めることさえできないはるかに複雑な何かのための都合の良い言い訳のように感じられた。彼女は変な顔をした。一種の、しかめっ面で懐疑的な表情で、それは明らかに「一秒も信じてないわ」と言っていた。

　しかし彼女は議論しなかった。幻の鎖を創り出し、Sランクの冒険者たちと付き合いのある男と議論するのは、とても悪い考えに思えた。彼女はただ沈黙し、賑やかな祭りの通りを彼のそばで歩き続けた。

　宿の廊下は、同じ木製のドアが並ぶ長い静かな廊下だった。ハヤトは自分の部屋の前で止まり、そしてすぐ隣のドアを指さした。「あれは空室だ。そこを使え」

　ライラはちょうどフロントで自分の部屋の鍵を確保したばかりで、指示されたドアまで歩み寄り、鍵穴の上で手をかざした。彼女は彼の方を見た。その表情は古い疑念と新しい、ためらいがちな好奇心が入り混じっていた。

「で、明日は自由な日だ」ハヤトは述べた。「だが、質問がある。お前はこの王国…街全体をよく知っているか？」

　ライラはまばたきし、突然の質問に混乱した。「ええ」彼女は警戒した声で言った。「まあね。なぜ？」

　彼は壁にもたれかかり、読み取れない表情を浮かべた。「いくつかの場所を案内してほしい」

　つづく