第37章:道徳戦争(モラリティ・ファイト)
エリナは静かな石の廊下に一人残され、傲慢な少年の言葉がまだ耳に残っていた。彼女は首をかしげ、困惑したように顔を曇らせた。
「なぜ彼は自分の力を教えてくれたんだろう…?」と彼女は独り言のように呟いた。
アリーナから響き渡る大きな咆哮に、彼女の意識は現在に引き戻された。彼女は再びドアの隙間からのぞき込んだ。舞台上の戦いは、はるかに激しさを増していた。
リアの対戦相手、ヴィクトルがアリーナの中央に渦巻く炎の渦を作り出し、リアは絶えず動き回らざるを得ず、彼女の防御障壁は猛烈な熱の下でちらつき、ひび割れていた。
バルコニーでは、四人がリアの防御障壁がついにヴィクトルの魔法の容赦ない攻撃の下で砕け散るのを見ていた。
ハヤトは、効率的で致死性のない試合の決着を見届けると、他の者たちに向き直り、平坦な声で言った。「こうした競技会で生徒が死んだことはあるのか?」
ケリナとリコは二人とも彼を見て、その病的な質問にやや気圧された。「いいえ、もちろんないわ」とケリナが言った。「少なくとも生きている者の記憶の中ではね。これは学校のトーナメントであって、死の試合じゃない」
答えられたのはレンナだった。彼女の視線は遠くを見据えながらアリーナを見下ろし、現在だけでなく、その長く血塗られた歴史をも見ているようだった。「昔は残忍だったわ」と彼女は静かな声で言った。「百年前、このトーナメントは才能の披露の場ではなかった。それは剣闘士の闘技場であり、貴族たちが自分たちの最高の生徒たちを Champion として使い、争いを解決する手段だったの」
彼女はハヤトを見た。「だが、特に血生臭い決勝戦の後、規則は変わった。『死亡禁止』の規則が、多くの改革の最初の一つだった」
下での戦いは突然の、残忍な決着を迎えた。ヴィクトルが最後の、圧倒的な炎の奔流を放った。深紅の爆風はリアの弱体化した障壁に激突し、それを粉々に打ち砕いた。その魔法の爆発力は抑制されず、リアを後方へ吹き飛ばし、石の舞台を転がりながら、遥か向こうの端でくしゃくしゃになった塊のように着地させた。
呆然とした沈黙がアリーナを覆い、それからヴィクトルへの勝利の歓声の波によって破られた。
バルコニーで、ハヤトは障壁が破れた瞬間に目を閉じ、まるで自分自身が衝撃を感じたかのように顔をしかめた。彼女の身体が地面にぶつかる鈍い音を聞いて、ようやく再び目を開けた。
「残念だ」ケリナは、負けに対する平坦な、事務的な評価のような声で言った。
ハヤトは彼女を見、そして他の者たちを見た。それは彼らにとっては競技の普通の一部でしかなかった。しかし、リラは自分の席で飛び上がり、恐怖に怯えた柔らかな呟きが唇から零れた。
「あ、彼女…大丈夫なの…?」
***
舞台裏で、エリナはすべてを見ていた。彼女は二人の学院の治癒師が舞台に駆けつけ、彼女の友人の無意識の姿を浮遊する担架に載せるのを見守った。彼らはリアを、エリナが隠れている入口の前を通り過ぎて運んで行った。
エリナはリアの側へ駆け寄った。「リア! 大丈夫?」
リアの目がかすかに開き、顔は青白く打撲していた。「大丈夫…」と彼女は弱々しい声で囁いた。「彼はただ強すぎたの…私をただリングの外に押し出しただけ…」
治癒師たちは浮遊する担架でリアを運び去った。エリナは廊下に凍りつくように立ち、友人との別れの言葉が心の中で反響していた。
「あなたは勝つべきよ、だってあなたにはできるんだから」
彼女は担架が角の向こうに消えるまで見つめた。リアの彼女への信頼は、胸の中で重く、温かな石のようだった。彼女は深く息を吸い、埃と魔法の味がする空気を味わった。彼女は自分の両手を握りしめ、その感覚を掴みとるかのように強く握った。
アリーナからの観衆の怒号は、遠く、くぐもった雷鳴のようだった。彼女は、彼らが今、舞台を清掃し、次の出場者のために準備をしていることを知っていた。彼女のために準備をしている。
彼女は背を向け、観客席ではなく、静かな孤独な準備室の方へ歩き出した。
ヴィクトルの勝利に対する観衆の怒号は、治癒師たちがリアを舞台から運び去るとようやく収まった。アリーナのスタッフが舞台を清掃する短い中断の後、アナウンサーの声が再び響き渡った。
「さあ、本日最後の予選戦です! 王立アカデミー代表…エリナ・ソルクレスト!」
「ソルクレスト」という名前は、アリーナに新たな囁きの波を送った。周囲のバルコニーでは、ハヤトは貴族や裕福な商人たちが頭を回し、彼らの視線が舞台から自分たちの私設観覧席へと上がり、あの有名なAランク冒険者で同じ強力な家族のケリナを直接見ているのがわかった。
「そして対戦相手は」とアナウンサーは続けた。「クリムゾンタワー学院代表…クラウス・フォン・アイゼン!」
礼儀的な拍手が少し続いた。巨大なアリーナの反対側から、二人の競技者が現れた。
質素な学院の制服姿のエリナが歩いて入場した。
豪華な衣装をまとったクラウスは、傲慢なほど威張って歩き、自信に満ちた冷笑を既に浮かべて舞台に登場した。彼らは舞台の中央へと歩み、数千の監視の目の中、互いに向き合った。
クラウスが舞台に歩み出ると、リラの顔に純粋な、混じり気のない嫌悪の表情が走った。
「うっ、あのガキ知ってるわ」彼女は他の者にも聞こえるように呟いた。「いつも金の力を振り回してる」
ハヤトは彼女の方を見た。彼の視線はアリーナからこの新しい情報源へと移った。
リコが身を乗り出した。「どういうこと?」
リラは白目を向いた。「あの子…父親がどれだけ金持ちだとか、自分が十歳までに千ゴールドコインを稼いだなんちゃら『モチベーター』だとか、決して黙ったことないの。我慢できないわ」
ハヤトは傲慢な少年についてのリラの説明に耳を傾け、表情を変えずに言った。「十歳で千ゴールド…それは『モチベーター』には聞こえないな。それはむしろ、相当の確立された富を持ち、商人ギルドに強力な影響力を持つ家族の出身に聞こえる」
下のアリーナの舞台では、アナウンサーの声が最後の予選戦の開始を宣告した。
エリナは、クラウスの尊大な冷笑を無視して、構えを取った。彼女は武器を抜いた。優雅なレイピア。
彼女の優雅なレイピアを見て、クラウスは尊大な笑いを漏らした。「楊枝か? それで俺を突き刺して殺すつもりか?」
彼は構えを取ることすらしなかった。ただ手のひらを開いて差し出すと、低い軋むような音と共に、長く、分厚く、そして残忍なまでに無骨な鉄の剣がそこから空気中に形成され、成長し始めた。
彼は新しく創り出された武器を握りしめ、その重さは明らかに相当なもので、エリナに向けてそれを向けた。
「お前の小さな針が本物の鋼にどう耐えるか見せてみろ」と彼は言った。
開始のチャイムが鳴り、クラウスは飛び出した。彼は技術や技巧ではなく、純粋な、圧倒的な力で攻撃し、重い鉄の剣を強力な頭上段薙ぎのように振り下ろし、一撃でエリナの防御を打ち砕かんとした。
エリナは攻撃を真正面から受け止めなかった。彼女は横へ飛び退き、重い刃は石の舞台に激突して火花を散らした。同時に、彼女自身のレイピアの全長に沿って、日の出の色をした炎が爆発的に発生した。
彼女は前へ突進したが、クラウスではなく、彼が地面から持ち上げようともがいている鉄の剣へと向かった。彼女の炎の刃が鉄に触れた瞬間、それは明るく、怒ったような赤色に輝いた。
「ぐっ!?」クラウスは悲鳴を上げ、熱が即座に刃から柄へ伝わり、彼の手が焼けただれたので武器を落とした。
エリナは地面に捨てられた、灼熱の剣を見、そして焼けただれた手を振っているクラウスを見た。「どうしたの? 金属ならもっと長く火を持続できると思ったけど」
クラウスはただ笑った、残酷な光を目に宿して。彼は指を上げると、地面にある重い鉄の剣が突然空中に浮き、その先端が今や直接彼女に向けられた。
浮遊する武器の光景に、エリナの表情は硬直した。彼女は剣が彼女の頭の横を飛び過ぎるのを避け、そしてそれが戻ってくるのを再び避けた。
「ちっ…」いらだたしい叫声と共に、彼女は前へ突進し、飛んでいる武器を無視して、彼女のレイピアをクラウス自身への直接の突きとして狙いを定めた。
しかしその時…
ガシャン!
四層の分厚い鉄が瞬間的に彼の前の空中に具現化し、無骨な、層状の盾を形成した。エリナのレイピアは、まだ彼女の火魔法で輝いていたが、最初の層を貫通したものの、その勢いは二層目に深く埋まり冷たく止められた。
彼女は動けなくなった。
彼女が捕らえられたのを見て、クラウスは指を差し伸べて叫んだ。「突け!」彼女の前の鉄の層は歪み始め、その平らな表面は残忍な、貫通する尖った先端へと鋭くなり、すべて直接エリナを狙った。
金属の棘が前方へ突き出した時、たった一つの、冷静な助言がエリナの心に反響した。
「もしお前の剣がなくなったら、何を使う?」
クラウスには観衆の怒号以外何も聞こえなかったが、それは突然完全に沈黙した。彼は眉をひそめた。
彼女が傷ついたことに彼らはショックを受けるはずじゃないのか?
すると、鋭い、爆発的な痛みが彼の顎から噴出した。エリナはもはや盾の前にはいなかった。彼女は彼の側面におり、彼女のレイピアは放棄され、完璧な、悪意のあるアッパーカットをちょうど決めていたのである。
アリーナ全体が呆然とした沈黙で見つめた。
バルコニーで、リコの目は見開かれた。彼女はただ微笑んでいるケリナの方を見た。「あなたの妹は接近戦は怖がってたんじゃなかったの?」とリコは言った。
ケリナはただ含み笑いした。「それはハヤトの影響を受ける前だわ。彼女は少しボクシングを学びたがってたの」
リコはハヤトを見た。彼は一瞬彼女をじっと見つめただけだったが、それから彼の視線は戦いへと戻った。
下の舞台で、クラウスはよろめいて後退し、彼の集中力は粉々に砕けていた。彼の前の四層の鉄は揺らぎ、そして溶けた残骸の水たまりへと溶け、エリナのレイピアを解放し、それは床にガチャンと音を立てて落ちた。
彼は集中力を失った、とエリナは思った。新たな、激しい理解が彼女に訪れた。金属は消えた。
その理解と共に、彼女は倒れている自分のレイピアのところへ滑り込み、それを地面から拾い上げ、再び構えの姿勢に戻った。
つづく
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