第20章: 心の奥底
エルフの手から温かな光が脈打ち、リコの腕にかかった青白い霜を押し返した。空気がシューッとジュージューという音を立てた。それは溶ける音ではなく、魔法が解除される音だった。リコの肌にあったギザギザの結晶構造がひび割れ、剥がれ落ち、地面に落ちる前に無害な光の粒子へと解けていった。
ほんの一瞬で、全ては終わった。金色の光は消え、古びた浮遊する魔導書も消えた。エルフは一歩よろめいて後退し、その労苦から息を弾ませた。
リコは自分の腕を見つめた。かつてギザギザの永久霜があった場所には、今や滑らかで傷一つない肌だけがあった。
エルフは息を整え、疲れながらも満足げな表情を浮かべた。「やはり思った通り、『結晶腐食病 (Crystalline Blight)』と同じパターンだった」
彼女はリコの今は癒えた腕を見た。「これは霜の性質を模倣する古代の寄生呪いで、実際の氷ではない。私の祖先はその対抗呪文を記録していた」
リコは自分の腕を見つめ、永遠に失ったと思っていた体の一部を再発見するかのように指を曲げ伸ばした。彼女はエルフを見上げ、いつもの無表情は完全に消え、目には見慣れない、むき出しの感情が輝いていた。
「レナ…ありがとう」
レナという名のエルフは、疲れながらも温かい微笑みと、簡素なうなずきを返した。
しばらくして、リコは突然頭を上げ、新たな切迫感を持ってたき火の周りの騒がしい人混みを見渡した。「ケリナは?もう来てる?見なかったか?」彼女は期待に満ちた眼差しを僕に向けた。
僕はただ首を振った。「いや。ギルドで別れた今日の午後以来、見ていない」
奇跡の即時の衝撃が薄れるにつれ、新たな、より軽やかなエネルギーがリコを包んだ。彼女は立ち上がり、新たに癒えた腕を自由に伸ばし、重い白いコートは今やベンチの上に忘れ去られたように置かれていた。
「宴が始まる。そしてとても久しぶりに、本当にお腹が空いた。料理を取りに行くわ」
「料理だと!そいつはいい!」ドワーフが大声で言い、即座に立ち上がった。他の人間の冒険者たちも賛同の声を上げ、祝賀に加わる準備をした。
彼らが立ち去ろうとした時、リコは僕に向き直った。「ハヤト、何か欲しいものある?食べ物を持ってきてあげるわ」
僕はただうなずき、まだ騒がしい群衆に飛び込む準備ができていなかった。「何でもいい。ありがとう」
そう言うと、リコとドワーフ、そして他の者たちは、食べ物で満たされた長いテーブルへと向かう人々の群れに消えていった。彼らの去る音はすぐに祭りの喧騒に飲み込まれ、僕たち二人だけを突然の静かな泡の中に残した。
僕は今、奇跡をさりげなく成し遂げたエルフ、レナと二人きりでテーブルにいた。
祭りは遠くかすんだ唸りへと消えていったようだった。僕はたき火の煙越しに、輝く唯一の月だけが照らす、深く暗い紺碧の夜空を見上げた。その下では、首都の人々は祝賀に夢中になっていた。カップルたちは笛や太鼓の調べに狂ったように踊り、老人たちのグループは王国のために歓声を上げながらジョッキを掲げていた。火の近くでは、別種の儀式が行われていて、何世紀も前に死んだ魔王の名を呪いながら、炎に向かって罵詈雑言を叫ぶ人々もいた。
「奇妙な祝日ですね」柔らかな声が僕の傍らで言った。レナだった。「忘れ去られた、恐ろしい戦争から生まれた祝祭です」
彼女は僕に向き直り、穏やかで好奇心に満ちた表情を浮かべた。「それを見せてくれますか?」僕が困惑して彼女を見ると、彼女は言葉を補った。「あなたのギルドカードを」
彼女は腰のポーチに手を入れ、自分自身のカードを取り出した。それは磨かれた古代の木のような、薄く優雅な板で、表面は年月を経て滑らかに磨耗していた。
彼女はそれを僕たちの間のテーブルに置いた。「お返しに私のを見せるのは当然ですから」
僕は彼女のカードを見て、それから自分のサッチェルに手を入れ、ヴァレリウスが作成した新しい金属製の板を取り出した。それを彼女のカードの横に置いた。
僕はエルフのギルドカードを手に取った。磨かれた木は温かく軽い手触りで、かすかな古代のエネルギーを帯びて微かに震えていた。それを手にすると、表面に光る文字が現れた。
[ 名前: レナ・ヴェイロリス ]
[ ランク: S+ ]
[ クラス: 大賢者 (Arch-Sage) ]
僕の息が止まった。Sプラスランク。この静かで優しいエルフは、ケリナやリコのような高位の冒険者というだけでなく、まったく別次元の存在、この王国全体でも最も強力な人物の一人だった。
その時、レナは手を伸ばして、テーブルの上に置かれた僕自身の金属製カードにそっと触れた。彼女の指が触れた瞬間、彼女の穏やかな表情は消え、代わりに目を見開いた衝撃の表情に変わった。彼女はカードを見ただけでなく、その中にあるマナの刻印をはっきりと感じ取れたのだ。
「この力は…」彼女は囁き、目はカードに釘付けだった。彼女はヴァレリウスの刻印である、圧倒的で威厳ある黄金のオーラを感じていた。
彼女の視線は、次に受付が追加した新しい紋章へと移った。シンプルな「C」だ。矛盾があまりにも甚大で、意味をなさなかった。彼女は僕を見上げ、眉を深くひそめて純粋な困惑を浮かべた。
「このマナの刻印は途方もない…だが…君のランクはCだけ?なぜだ?」
僕は彼女の質問には答えなかった。代わりに、彼女のギルドカードを彼女の前のテーブルに戻した。その質問線を終わらせる明確な合図だった。
そして話題を変え、彼女のカードを指さした。「S+ランク、そんなランクに到達するにはどれくらいかかるんだ?」
レナは全く顔を上げなかった。彼女はまだ僕の金属製カードを持ち、複雑な謎を解読しようとするかのように、ギルドマスターのマナの刻印の微かな線を指でなぞっていた。
「最後の昇格は簡単だった。一日しかかからなかった。暴走したドラゴンを倒したから」彼女は間を置き、付け加えた。「それをギルドに報告したら、即座にランクアップを認められた。だが、冒険者になってからはもう十年になる」
彼女の言葉が僕たちの間の空気に残った。ドラゴンを倒す。簡単だと。
リスクや変数を計算するのに長けた僕の頭は、その発言の規模さえ処理するのに苦労した。ランクAの冒険者であるケリナと、S+であるこの…。僕の傍らに座るこの静かなエルフは、単なる強力な冒険者というレベルではなく、自然災害級の存在だった。
「さて、教えてくれ」レナが言った。彼女の目がようやく僕のギルドカードから離れ、僕自身の目を見つめた。「なぜこんなにも違和感を感じる?君のカードからは途方もないマナの刻印を感じるのに、君自身からは…マナが全く感じられない」
僕は彼女の強烈な好奇心に満ちた視線をまっすぐに受けた。部分的ではあるが、必要な真実を話す時だった。「そのマナの刻印は僕のものじゃない。ギルドマスター、ヴァレリウスのものだ」
レナの混乱はさらに深まった。「ギルドマスターの?でもなぜ?」
僕の心に一つの考えが閃いた。重大な実験だ。「話せば長くなるが、それに関連して…実験を手伝ってくれないか?」僕は彼女をまっすぐ見つめた。「君に僕の皮膚を切ってみてほしい」
小さな、興味深げな微笑みが彼女の唇を掠めた。「もちろん。本当にいいのか?それなら…君の短剣をくれ」
僕はベルトからシンプルな短剣を外し、柄の方を彼女に向けて差し出した。「これでは僕自身の皮膚は切れない。ケリナにもできなかった。でも君はS+ランクだ。君に切れるかどうか知る必要がある」
彼女は短剣を受け取り、思案げな表情を浮かべた。彼はそんなに確信しているのか、彼女は思った。彼女の強力な感覚は、彼に防御魔法がかかっていないことを告げていた。なぜ彼は切られないとそんなに確信しているのか?
「手を出して」彼女は言った。
僕はそうした。彼女は優しく僕の手を取り、もう一方の手で短剣の先を僕の指先に向け、ほんの一滴だけ血を出そうとした。
レナは正確に、制御された動作で、短剣の鋭い刃を僕の指先に引いた。
キィン。
微かで甲高い、金属がガラスを擦るような音が、僕たちの間の静寂に響いた。刃は僕の皮膚をきれいに滑ったが、切れなかった。傷一つすら残さなかった。
彼女は止まり、目を大きく見開いて困惑した。今度はより意図的に力を込めて試した。結果は同じだった。切り傷も、血の一滴もない。
彼女は短剣を下ろし、僕の指を自分の手に取り、火の光にかざして指先を強く押し、切り傷の兆候がないか確かめた。何もなかった。僕の皮膚は完全に、あり得ないほど無傷だった。
純粋な、科学的な疑念の表情が彼女の顔をよぎった。彼女は短剣を拾い、異なる角度から素早く、苛立った動作で何度も何度も切りつけ始めたが、どの試みも同じ摩擦による失敗に終わった。
ついに彼女は止め、刃を引き離し、僕の指、そして僕の顔を見つめ、その声は純粋に分析的な驚嘆の囁きだった。「信じられない…君の皮膚はいったいどれほど強いんだ?」
僕は彼女の質問にただ肩をすくめた。「わからない。最近の変化だ」
彼女は何度も何度も短剣で切りつけようとしたが、どれも無駄な擦れる音とともに失敗した。ついに彼女は止め、小さな刃を決然としたため息とともに置いた。
「この道具ではこの実験には不足だ」
彼女の古びた銀縁の魔導書が再び空中に具現化し、ページが素早くめくれて、細長い剣が描かれた一枚の輝くページで止まった。レナは手を伸ばし、まるで水の中に沈むかのようにページに手を入れ、彼女の専用の刀(カタナ)を取り出した。
それは古くから伝わる由緒ある武器だった。刃の切っ先は特に鋭くは見えず、鋼そのものにもかすかに、ほとんど見分けがつかないほどの歪みが刃の長さに沿ってあった。無数の戦いの痕だ。
彼女はその伝説の武器を両手に持ち、その静かな殺傷能力は周囲の祭りとは対照的だった。彼女の眼差しは今や完全に真剣だった。
「君は皮膚を試してほしいと言った。覚悟すべきだ。これが暴走したドラゴンを倒した刃だ。一閃で終わった」
僕は顎を引き締め、手を差し出した。
レナはゆっくりと意図的に息を吸い込み、その全身の様子が集中していた。彼女は非人とも言える正確さで動きを制御し、古代のドラゴンスレイヤーである刀の切っ先は、ほとんど気づかれないほどの遅さで動いた。彼女は振らなかった。優しく刃を僕の親指の腹に当てた。
そして、途方もない制御力で、刃を僕の皮膚の上に引いた。
彼女は刀を持ち上げた。二人とも僕の親指を見つめた。ついに起きたのだ。切り傷。剃刀のように細い白い線が今や僕の皮膚に見えた。それは陶磁器のひび割れのような、極めて細い傷跡だった。刃はついに表面を切り裂くことに成功したが、一滴の血すら流すには十分な深さではなかった。
つづく
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