第19章: 空(そら)
私がそこに立って考え込んでいると、隣の影から静かな声が聞こえた。
「君が、ケリナが話していた人物だろう。」
私は驚いて振り向いた。誰かが近づく気配は全く感じなかった。壁にもたれかかっていたのは、短く整った黒髪の小柄な少女だった。彼女の服装は、この穏やかな祭りの夜には奇妙なほど場違いだった。分厚い詰め襟の白いコートに、重そうなズボン、密閉性の高いブーツを履いている。まるで凍てつき、危険な荒れ地への探検に備えた格好のようだった。
「誰だ?」私は警戒した声で尋ねた。
「宮本リコ。冒険者ギルド、Aマイナス級。」彼女は私を上から下まで見た。「噂は聞いている。複製能力を持つ新人だな。」
Aマイナス級…またしてもトップクラスの冒険者か。そしてケリナはもう私のことを話している。今日のことか、それとも以前からか?
私はわずかに、形式的にお辞儀をし、公的な説明通りに話すことに決めた。「三上ハヤトだ。そうだ、俺の能力は複製だ。」
リコは一瞬、まばたきせず、分析的な眼差しで私を見つめた後、轟々と燃える篝火(たきび)と、食べ物で溢れる長テーブルを囲む人々の群れの方を見た。
「だったら、なぜこんな影の場所に立っている?大宴会が始まろうとしている。何か食べに来るべきだ。」
リコは私の返事を待たなかった。彼女はただくるりと背を向け、篝火の温もりと光の方へ、影の中から歩き出した。
「来い」、彼女は振り返らずに言った。声は相変わらず平板だが、否定できない命令のニュアンスが含まれている。「暗がりに立っているのは非効率的だ。何かを知りたければ、人と話す必要がある。紹介してやる。」
彼女の言う通りだ…隠れているのは安全だが、何の情報も得られない。交流する時だ。
私は息を吸い込み、彼女の後を追って闇から出て、祭りの喧騒の中へと入った。
彼女は、私にはない身軽さで賑やかな群衆をかき分け、大きな木のテーブルを囲んで大声で笑っている冒険者たちのグループの方へと進んでいった。筋肉質のドワーフ、しなやかな見た目のエルフ、そして擦り切れた革鎧を着た数人の人間がいた。
「リコ!来るとは思わなかったぜ!」私たちが近づくと、ドワーフが大声で叫んだ。
リコはその言葉を無視し、横に立って気まずそうにしている私の方へ頭で合図した。「こいつはハヤト。新入りだ。ケリナが後見している。」
冒険者たちの笑っていた顔が一斉に私に向き、表情が激しい、隠そうともしない好奇心へと変わった。
テーブルの冒険者たちは皆、私を見つめ、その好奇心を今や露わにしていた。最初に口を開いたのは、そのしなやかで鋭い目つきのエルフだった。細い指で私を指さしながら、彼女の顔に次第に気づいたような表情が浮かんだ。
「ちょっと待って… 君、あの時街中でレインと戦ってた奴じゃないか?」
テーブルにいた全員の目が大きく見開かれた。ドワーフは低く口笛を吹いた。
私は単に、はっきりしない態度でうなずいた。「ああ。誤解だった。彼は俺を何か『見えざる盗賊』だと思い込んでいた。聞いたこともない人物だ。」
私はエルフに向き直って言った。「どうしてそれを知っているんだ?」
彼女はカジュアルに飲み物を一口すすり、肩をすくめて話し始めた。「始まるところを見たんだよ。人がいきなり空中に現れるなんて、毎日起こるわけじゃないからな。お前たち二人をあの路地まで追いかけたよ。でも行き止まりでお前が追い詰められたところで離れた。勝負は決まったと思ったし、衛兵に絡まれるのも御免だったからね。」
エルフの話は、テーブルに張り詰めた、疑いのこもった沈黙を残した。皆が私を見つめ、彼らの頭の中では明らかに、そのギャップを埋めようとしていた。
その沈黙は、屈強なドワーフが重いマグカップをテーブルにガンと置く大きな音で破られた。
「バカヤロー!話や尋問はもういい!本人はここにいるんだ、今夜は祭りだぞ!」彼は声を張り上げた。その声は快活な唸りだった。
彼は空いているベンチのスペースを指し示すように、大きく歓迎の仕草で腕を振った。「座れ、二人とも!座って飲み物を取れ。そんなことは今は忘れろ。今夜は食う時だ、ギルドの政略のためじゃない!」
私たちは混み合ったベンチのスペースを見つけた。ドワーフは重い木製のエールのマグカップを私の手に押し込み、グループの賑やかな会話が再び盛り上がり始めた。人間の冒険者の一人がリコの方に向き直った。
「で、お前が出ていたあの北部遠征はどうだった?」彼が尋ねた。
リコの無表情な顔が暗くなったようだった。「期待したより悪かった」、と彼女は簡潔に言った。
そして彼女は分厚い白いコートの留め金を外した。巨大な篝火の熱気の中で、ようやくそれを脱ぎ、脇に掛けた。
テーブルにいた全員が沈黙した。コートの下、彼女の腕と首の皮膚は衝撃的な光景だった。青白い氷のギザギザした結晶格子が、彼女の肉から直接生え出ているようで、古い傷跡の薄い白い線が交錯していた。
「神よ…リコ、あの氷のようなものは何だ?」ドワーフがささやいた。
エルフは身を乗り出し、目を異なる種類の心配で大きく見開いた。「それはお前の『クリオシェル』か?新しい防御能力か?」
リコは、自らの腕をよそよそしい、臨床的な視線で見下ろした。「違う。呪いだ。氷の王からの別れの贈り物。病だ。ゆっくりと俺の血液を凍結させている。いずれ、俺を殺すだろう。」
彼女は指を動かし、腕の氷が微かにひび割れた。「俺は運がいい。自分の氷属性と耐性のおかげで、対処しやすい。進行を遅らせることができる。だが、すでに根付いた霜…それは永久的だ。」
リコの呪いという厳かな現実がテーブルに重くのしかかった。それが彼女の服の理由か、と私は全てを繋ぎ合わせながら思った。
それらはただ暖を取るためだけじゃない。機能的で、おそらく断熱性があり、彼女が内部の冷たさを管理するのを助けているのだ。彼女は氷属性だから、ギルドは彼女を『氷の王』と戦う北部遠征に送り込んだ。任務は失敗し、王は報復として彼女を呪ったのだ。
私は重い沈黙を破った。「『我々』が送られたと言ったな。その遠征には一人じゃなかったんだな。」
リコは首を振り、視線は遠くを見つめていた。「ああ。俺は支援としてそこにいた。任務は英雄パーティーが率いていた。」
『英雄』、私はその言葉が即座に頭の中で印をつけたと思った。ケリナは私の話を聞いた時、最初に私を『召喚された勇者』と呼んだ。そして、『英雄』は冒険者とは全く別のクラスだと明確にした。では、その称号は実際には何を意味するのか?私のような別世界から来た人々のために使われる用語なのか?それとも、この世界で生まれ王国によって公認された最強の戦士たちに対する呼称なのか?
エルフが身を乗り出し、声をひそめて敬意を込めてささやいた。「英雄パーティー…それで、彼らは今どこにいる?氷の王を倒すことは成功したのか?」
リコの無表情が崩れ、深い、苦しみに満ちた困惑の表情に変わった。彼女は自らの腕を這い上がる結晶状の霜を見下ろした。「あ…あれが何だったのか理解できない。どういうわけか…英雄は氷の王に味方することを選んだんだ。」
驚きの沈黙がテーブルを覆ったが、それは直ちにドワーフの拳が叩きつけられる音で破られた。
「味方だと?!」彼は信じられないという怒りに満ちて叫んだ。「そんなことがありえるか!あの怪物は何ヶ月も北部全土に呪われた霜を広げていたんだぞ!生態系そのものを変え、豊かな森を凍てつく荒地に変えている!英雄が、あんな化物に加担するなんて、いったい何を考えているんだ?!」
リコはただ首を振り、その視線は暗く遠くを見つめていた。「わからない。奴の理由はわからない。」
彼女は顔を上げ、テーブルを囲む衝撃を受けた面々を見た。「俺にわかるのは、あそこから逃げなければならなかったということだけだ。英雄パーティーとそのリーダー、アーサーが俺を殺そうとしたから、命からがら逃げ延びたんだ。」
リコの語った厳かな真実がテーブルに重くのしかかった。それはどんな冬よりも冷たい重みだった。他の冒険者たちは言葉を失い、リコの話の恐怖の中に途方に暮れていた。しかし、エルフの表情は衝撃から強い集中力へと変わった。
彼女は突然立ち上がり、テーブルを回ってリコの前に立った。「動かないで。その呪い…お前が言ったこと…それが昔の文献の一節を思い出させた。じっとしてろ。何か試してみる。」
そう言うと、銀の装飾が施された分厚く古びた見た目の書物が空中に浮かび現れた。エルフの前で、煌めく、幽玄なページの奔流が渦を巻きながら、本はひとりでに開き、ページが柔らかいさらさらという音と共にめくられ、ついに一つの章で止まった。
エルフは、リコの腕にある結晶状の霜のすぐ上に両手を置き、目が柔らかく輝きながら、共通語ではない低くメロディアスな言語で詠唱を始めた。彼女の周りに浮かぶページは、彼女の言葉に合わせて鼓動した。
つづく
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