第16章 俺こそが英雄
彼女の最後の質問が空気の中に消えた後、長く奇妙な沈黙が私たちの間を支配した。差し迫った脅威が去ったので、私たちは丘を下り、ブライトヒルへと向かった。
村の門に近づくと、家の中から心配そうに覗いていた村人たちが、不安に刻まれた表情で私たちを出迎えに来た。
村長が叫んだ。「ケリナ様!お戻りになりました!どうなりました?オークは…?」
ケリナはただ立ち止まった。彼女の表情は読み取れなかった。彼には答えず、代わりに振り返って来た道を見下ろした。
村人たちが彼女の視線を追った。私は彼女の数歩後ろを、落ち着いた表情で歩いていた。そして片手で、巨大な、がっしりとしたオーク族長の死体を、まるで子供の荷車を引くかのような気楽な様子で、いともたやすく引きずっていた。普通の男の二倍はあろうかというその死体は、引きずられるたびに土の道に深い溝を残した。
集団から一斉に息をのむ音が上がった。彼らは、そのありえないほどの怪力を、言葉を失って見つめた。
ケリナがついに驚きの沈黙を破った。彼女の声は、任務完了の明快な威厳を帯びて響いた。彼女は村長に向かって話しかけたが、その言葉は集まったすべての村人に向けられていた。
彼女が私がまだ握りしめている巨大な死体を指さした。
「これが彼らの族長だ。彼が死んだことで、戦闘集団は去った。安心していい。今のところ、ゴブリンは度胸をなくしているし、オークは戻ってこないだろう」と彼女は宣言した。
村人たちの緊張した沈黙は、喜びと安堵の歓声へと爆発した。村長は祝福する数人をかき分けて、私たちに直接歩み寄り、深い感謝の表情を浮かべた。
「ケリナ様、ハヤト。ブライトヒルはお二人に借りができました。どうやってお返しすればいいものやら」
彼はそれから村の中心にある自分の小屋の方へ手を振った。「どうぞ、私についてきてください。公式記録のため、クエストの書類に完了の判子を押さねばなりません。それは私の事務所で行う必要があります」
ケリナは鋭く、事務的にうなずいた。「もちろんです、村長」
私はまだ握りしめている巨大なオークの死体を見下ろした。「これはどうすれば?」
「置いていって…。討伐の証拠品は私たちが処理します。お二人とももう十分すぎることをしてくれました」
私は族長の死体を地面に落とし、私たちは村長に続いて、今や歓喜に沸く村の中を戻っていった。
***
夜がブライトヒルに降りた。村長が用意してくれた部屋は質素だった:一部屋、付属のバスルーム、そして二つの別々の狭いベッド。それで十分だった。割り振りに文句を言う気もせず、私はまっすぐにドアから一番遠いベッドへ歩き、横たわり、目を閉じた。その日の出来事がついに重くのしかかってきた。
ケリナが腰かける音と共に、もう一つのベッドがかすかにきしむのが聞こえた。沈黙が一分ほど続いた後、彼女が考え込むように低い声で口を開いた。
「ねえ、あんた、前に言ってた商人ってやつとは全然違うふるまいだね」
私は天井の木目を見つめるために目を開けた。疲れすぎていて、こんなことには付き合っていられなかった。「言っただろう、俺は戦いは何もしてない… あれはただの分身だ」
「それが面白いんだよ」と彼女は即座に言い返した。彼女が動く音がして、私をまっすぐ見ているのがわかった。「分身、召喚、幻影… それらは常に元の術者より弱い。それは魔法の根本的な法則だ。でも、私がそこで見た分身は信じられないほど速くて強かった」
彼女は間を置き、その含意を宙に浮かせた。「つまり、あれが弱いバージョンだとしたら… お前は一体どれだけ強いんだ、ハヤト?」
今や私の目は開いていたが、虚ろに天井を見つめていた。頭の中は駆け巡り、彼女の罠の完璧な論理を説明するための新しい嘘、新しい言い訳をでっち上げようともがいていた。そして初めて、私は何も思いつかなかった。
頭はフル回転していたが、すべての論理的な道は行き止まりだった。彼女の言う通りだった。話がつじつまが合わない。言い訳も、もっともらしい嘘を構築する材料も、もうなかった。
だから、私は残された唯一の選択肢を選んだ。
見開いて天井を見つめていた私の目が、落ち着いたものになった。ゆっくりと均等な息を吸い、そしてまた吸った。目を閉じ、体を動かなくし、突然の深い疲労による眠りに落ちたふりをした。
もう一方のベッドから、皮肉っぽく柔らかい笑い声が聞こえた。
ケリナの声には乾いた面白さがにじんでいた。「あらまあ?それがお前の手か?ただ眠ったふりをするだけ?」
彼女は続けた。その声は静かな部屋の中で低く、鋭い独白だった。「事実を整理しようか?まず、お前は自分が青りんごを売るただの商人だと主張した。少し変だけど、ありえないことではない。でも、その『商人』が『分身』の力を持っていることが判明する。これは奇妙だ」
彼女がベッドの上で動く音がした。「それから、お前の公式書類には、庶民と同じように魔力値がゼロと書いてある。庶民… うーん、馬車では天使がお前に話しかけているように見えたけど、お前はその天使さえも無能だと言い、その天使とはどこか知り合いのようだった。でも、この庶民の肌はナイフで引っかくことすらできないほど硬く、死んだオークの族長を洗濯物の袋のように引きずる力を持っている」
彼女は身を乗り出し、声をかすかなささやきまで落とした。「だから、ハヤト。お前は他にどれだけ嘘をついてきたんだ?」
私は目を閉じたまま、呼吸を整えていた。長い沈黙の後、私に残された唯一の答えを返した。
「…悪かった」
私の一言による降伏に、彼女の鋭く皮肉な表情が和らんだ。小さな、本物の微笑みが彼女の唇に浮かんだ。
「ハヤト… じゃあ、真実を教えてよ。知りたいの」
彼女は前のめりになり、その視線は揺るがなかった。「嘘をつき続けるなら、私はお前を信用できない。私は信用できない者を仲間にはできない。特に、ここ数週間、お前のために私がしてきた全てのことの後では」
私は長い間黙っていた。目を閉じたまま、そこに横たわっていた。それから、ベッドに体を起こし、彼女をまっすぐに向き直った。
「選択肢がある。俺がお前に会ってからついてきた嘘についての真実が欲しいのか?それとも、すべてについての真実が欲しいのか?」
ケリナは一瞬たりとも躊躇しなかった。彼女の目は私をしっかりと捉え、すべての物語を要求していた。「すべて。一番最初から話してくれ」
私は深く息を吸い込み、これから語ろうとする物語の重みがのしかかった。これは私が今までしてきたどんな投資よりも大きな賭けだった。
「わかった。でも警告しておく。お前が信じてくれるかどうかわからない。正直言って、俺自身も全部信じているかどうか確信がない」と私は声を潜めて言った。
私は自分の手を見て、それから彼女を見た。「俺に起こったことの真実… それは普通の話じゃない。これは本当に奇妙なことなんだ」
ケリナはひるまなかった。彼女の視線は変わらず、表情は屈しなかった。「私は世界の最深部で怪物を狩ってきた、ハヤト。普通の人なら正気を失うようなものを見てきた。話してくれ」
私は彼女の決意に満ちた目を見つめ、最後にゆっくりとうなずいた。「わかった。それは一つの電話から始まった…」
私が話し始めたとき、ケリナの表情は変わらなかった。
『電話』だと?
「魂を扱う天上の官僚機構がある。そこの従業員の一人である、アザキエルという無能な天使が、事務上のミスを犯し、誤って俺の命を終わらせてしまった。彼女の職務上の過失に対する『補償』として、彼女は俺の魂をここ、この世界へ送った。俺は森に到着し、やがて王都へたどり着き、全くの偶然であなたの妹エリナに出会い、それがきっかけであなたに導かれたんだ」
私は自分の奇妙な要約を終え、彼女に嘘つきか狂人呼ばわりされるのを待った。代わりに、彼女はゆっくりとうなずき、彼女自身の歴史を通してすべてを理解し、深い納得の表情が彼女の顔に浮かんだ。
「なるほど… つまりそういうことか。お前は召喚者なんだ。大戦の時に我々の世界に呼ばれた英雄たちと同じように」
私は手を挙げて、疲れた身振りで彼女の大げさな断定を遮った。
「いや、そこで止めてくれ。俺は英雄じゃない。誰かを救うために『呼ばれた』わけじゃない。俺は事務ミスだ。完全な間違えられた対象だ。俺はただの、間違って殺された男だ」
私は、真実を話すなら、全ての真実を話さなければならないと決心した。「それに、俺の力について嘘をついた。俺の力… その名前は『分身(デュプリケーション)』じゃない」
「その名は『完全なる幻想(パーフェクト・イリュージョン)』だ」
ケリナの目は見開かれ、彼女の一瞬の理解は新たな混乱の波によって打ち砕かれた。「幻想?でも…お前は分身だと言った。私はそれを見た。それはオークと戦った。物理的な体を持っていた」
「それが名前の『完全なる』の部分だ。それは単なる光のトリックではない。俺は自分が想像できるものなら何でも幻想を創り出せる。そしてその幻想は、あたかも本物であるかのように世界と干渉できる。それは打たれることもできるし、武器を持つこともできるし、地形と干渉することもできる。分身はその応用の一つに過ぎない」
つづく
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