「……とはいえ、何を話せばいいですかね。」

含み笑いで、そんなことを言った。

座らせてほしいとは言ったものの、俺はカウンセラーじゃない。

上手いことを言えないどころか、俺の発言で怒らせてしまうかもしれない。

「言っておくが。お前の全国大会に行けなかったという嘘、腹が立ったからな。」

いや、既に怒らせていたか。

「それは、本当に申し訳ないと思っています。」

良かれと思って、という言葉に意味は無い。

本人自身が、よく思っていないのだから。

会話とは、難しいものだ。

「申し訳ないと思うなら、去ってくれないか……」

彼女の気持ちをぐるぐると掻き回す。

マドラーなら、細々と生きてろよって話だよな。

「たしかに、俺は全国大会に行きましたよ。」

それもきっと、いや。

絶対に、彼女より少ない努力量で。

「ですけど、俺はあなたの隣に居たいです。」

本当に自分勝手だ。

「俺は、気持ちが一番に大事だと思います。同じ境遇の人でも、他人のことなんかどうでも良いと思う人間より。真反対の状況でも、この人をどうしたら楽にできるだろうって。そう考える人に横にいてほしい。」

まあ、こうは言うものの。

それはお前の場合だろ、と言ってしまえばお終いである。

「……でもお前は、適当にやっているだけで全国大会にいける。いわば、猛者だろう?」

その。

そうなんだけど、もうちょっと言い方なかったかな。

そんなことを思ったが、謙遜で首を傾けておく。

運動の世界に詳しくないから、凄いことをしている自覚はないのだが。

全国大会にいける時点で、凄いと友達から聞いたことがある。

なら、猛者なのだろうとは思っている。

「猛者に、私の気持ちは分からないよ……」

彼女の声を聞くと、たしかにとも思えてしまう。

「どうしてですか?」

だが、どこからか。

納得いかないような、解けない気持ちがある。

「……人間って、差別が好きですよね。」

もう、噤んだ方がいいかな。

自分でも驚いた話の飛躍を、無言でも分かりやすく表現する彼女。

その姿に、謎な発言だということを自覚する。

「報道みたいな内容ではなくて、日常にありふれたことの話。なんですけど。美少女とか、モブとか。気が強いか、引っ込み思案かとか。それこそ、強いか弱いか。とか。」

話してることが異質で、一息の苦味を感じる。

「なんとなくでグルーピングして。そのグループの特有のイメージで、共通認識のようなものを生み出していく。」

グループに囚われては、自分と違う思考をグループのせいにする。

人間が感情論を苦手として。

怠惰になり、理解を放棄するのがいけないのに。

「本当は。ある程度の理解はしてあげられる、人間同士な筈なのに。」

ここまで話した意味はあるか。

そんなことを思う人がいるなら、思考をやめてくれ。

その通りすぎて、虚しくなる。

「……私がこの経験のせいで悲しむ時、大体の人間がこの経験をしていない。この気持ちを理解するのに、本当に十分なのか?」

不覚にも、納得できる言い分だ。

感情は全て、経験からくるものだと思う。

思い通りに行くなら、楽しいし。

その逆なら、哀しい。

思いがけない幸運があるなら、嬉しいし。

その幸運が不運なら、怒る。

ならば、その経験をしてない人間は。

はたして、共感するスタートラインに立っているのか。

筋が通っている。

「たしかに、同じ経験はしてません。ですが。最初に言った通り、俺は勝利の象徴ではありません。全く同じ経験ではなくとも、何かに打ち破れたり。それが大事なことだったり。似た経験はしてきています。」

そういう俺に、悔しい負けはあったのだろうか。

それはないかもしれないけど、負けだと思ったことはある。

「……甘えていいのか?」

この言葉を引き出せた安心と、長い時間を使った申し訳なさ。

「もちろんです!」

いや、隣に居て良い気がした。

「悔しい、情けない。」

そう嘆く、君の声に。

緩みが混ざった気がした。

改めて、隣に居て良い気がしたと同時に。

こんなに長く気を張らせて、隣に居る資格は無いなと思った。

俺が、というよりか。

元から、どんな人でも。

人の隣に居る資格はない気がする。

だけど。

隣に居る人を許して、許されて。

尽くして、尽くされて。

これでいいよな、と安直に思った。

一人の知識では、賄いきれない問題。

一人では解決できない、問題。

一人では生きれない、この世界。

自分が、横の人を選んで。

その人に盲目になれば、それでいいよな。

と、安直に思った。

一人でいいと思っているなら、それで過ごしてみてよ。

ちょっとだけ、違和感を覚えるからさ。

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青の下の涙を許す者は、誰であっても良い。 嗚呼烏 @aakarasu9339

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