俺って、何だろう。
あっという間に飲み干した。
随分と、喉が渇いていた筈だ。
だから、当たり前なのに。
飲む様は、目を引くものだった。
「……なんで動かない、目的は果たしたんだろう。」
目的。
分かるようで、分からない。
今の俺は、何が目的なのだろう。
「なんとなく、動けなくて。」
とりあえず、そんなことをいう俺に。
彼女は、ひとつ息をついた。
深くて重い。
密度が高いように聞こえる。
「同情を描いたおままごとは、他所でやってくれ。」
手を払う動作を、見せてくる美鳥。
泣き疲れていようが、距離を置いてくる。
いや、疲れている今こそ。
距離を置きたいのだろうか。
「同情って、どういう意味ですか。」
俺は、変なことを口にした。
猛暑だろうが、彼女の言葉は冷たくなることはある。
その言葉は。
背筋を凍らせて、寒暖差を感じさせる。
でも、なぜか。
そんなやつを背に、歩いていたいとは思わない。
「同情っていうのは、人のことを自分のことのように思うということだよ。」
美鳥の目が、だんだん疲れた目になっていく。
本来は、一人にさせるのが良いのではないかと思う。
「では、同情というものは悪いものなのですか。」
もう、話したくない。
そんな目をしているのは、正直に言うと分かっている。
「悪いものだよ。完璧に心を読めるわけではない人間に、辛い人間の同情を任せていいわけがない。」
たしかに。
人間関係って、自分の考えている相手と話をしている時がある。
関係が長く、強くなるにつれて。
あの人はこうだ、こうされたら嬉しいんだという錯覚を起こす。
でも不思議なことで、それが当たることが多い。
「俺はここを離れませんが、嫌なら離れてください。」
気持ち悪いな、俺。
中学生の頃なんか、自分の楽が最優先な奴だったのに。
人って、変わるものだな。
「……俺、デリカシーというものがないのですが。なんで、泣かれているのですか。」
デリカシーがないと言う時点で、この質問は良くないと分かっていた。
それを聞いて、慰めたいから。
なんて美化は、たとえ事実でもできない。
美鳥の美しい笑顔を引き出すのが、真の美しいことだと思う。
「……負けちゃった。」
もうちょっと、はっきり聞きたい。
というのが、客観的だが。
俺は、分かる。
彼女は、全国を目前に負けやがった。
というのも。
美鳥は、部活人間だ。
運動部の俺が言うのも、不思議ではあるが。
何が楽しいのか分からない、運動というものに精を出した。
長い棒を振り回しては、顔に当たれば勝ち。
俺は、だが。
理解ができないスポーツだ。
だけど、真剣に打ち込む姿勢に。
剣道というスポーツごと、美しく感じた。
選手が上手いと、競技の面白いところが分かる。
「そうですか。」
俺なら、次に切り替えようと思えるけど。
生憎、美鳥は俺ではない。
「俺も、全国大会にいけなかったです。」
そんなことを言ってみたが。
あまり、意味はないか。
沈黙が、何もできなくする。
「貴方が全国に言ったのは、自分で皆に自慢してたでしょう。世話してやってる風にしないで。わざわざ、嘘つかないでよ!」
音が、落差をつけて消える。
「……えっと。」
耳が痛くなった。
同時に、失言を自覚する。
仲間がいれば、嬉しいと思ったのだが。
そうなるとは。
申し訳ないという気持ちしかない。
「もういいよ、どこかに消えて。」
改めて。
ここに居るのは、俺でなくても良い。
だけど。
俺であっても、良いと思う。
「まずは、ごめんなさい。」
えっと。
息が正しく吸えずに、邪魔になる。
落ち着け。
「でも。俺だって、勝利の象徴ではありません。」
それで。
次は、何を言えば良い。
「俺が勝利そのものであれば、放置するべきでしょうね。」
何も、分からなくなる。
嗚呼。
こんな世界に、わざわざ飛び込んだ。
俺に問う。
お前は、他人の横に座れる人間か。
「……貴方に話しかけるのが、皮肉やら嫌味やら。何か悪いことになるとは思いませんし。尤も、俺はそんな気持ちを持ってません。」
逆に、我に返りたい。
俺の今の言葉は、理解しがたいものになっている。
「隣に居させてください。」
それすら、分かっているのに。
口が止まらないし。
言い切った自分に、満足している。
「勝手にしてくれ……」
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