第13話
翌日
春馬くんに会うことは少しためらわれたが、いつまでも引きずっているわけにはいかない。
思い切って部活に行くことにした私は、今日も
いつも通り春馬くんと弟の海馬は準備をしているので、私はそこに合流する。
心の中で遅れてごめんなさいと思いながら駆け寄ると、海馬君は普段と変わらず「結月せんぱーい!」と言って手を振ってくれた。
今日もとびきりの笑顔を浮かべている海馬くんは、気を聞かせて「忘れ物取ってきますね!」と、どこかに消えていった。よくできた後輩だ。
今がチャンスだと思って私は切り出そうとした。
「春馬くん…。」
私が声をかけると彼の方が先に頭を下げた。
「この間はすまなかった。お前のこと何も考えずに無神経なこと言って…。」
「こちらこそ、ヒドイこと言ってごめん!」
私も続けて謝った。
「俺は別に、大したことなかったけど…。」
照れたように頭をかいて首を横に振った。
「そこそこ傷ついてたくせに…!」
後ろから海馬がイタズラっぽく現れ、二人は「余計なこと言うな!」とじゃれ合った。
「ホントにごめん!」
私は両手を顔の前であわせてもう一度謝った。
「気にするな。練習するぞ?」
「よろしくお願いします!」
海馬が言っていたように、私も初心に戻ったつもりで頑張ろう。
深く礼をした私は前を向くのであった。
流鏑馬に関しては今日も基礎練習が続いた。
まずはアンソニーに騎乗したまま、ひたすら弓を抜いて構えの流れを練習。
少し慣れてきたので、一度だけ馬を走らせた状態で連続騎射も行った。やはり矢を抜くのも素早く弓を構えるのも難しく、結局一射しかできなかった。
二人とも慣れればできると言っていたので、もっと基礎練習を頑張ろう。
週をはさんで神社での練習を終えたあとは、学校の弓道場での練習に行った。
いつも通り、用具の準備や準備体操、基本動作の確認を行って弓の練習に入った。
私が弓を握ると、海馬が私の隣によって来た。
「どっちの方がキレイな『引分け』ができるか勝負しましょう!」
会の一歩手前の動作にしてくれているあたり、彼はどうやら本気で早気になったことがあるのだろう。会の状態にすら到達できない苦しみをわかってくれるとは…。
それに的に中てることが目的じゃないなら、怖くないかも。
海馬が弓を射るための最初の動作である「足踏み」に入ったので私も言われた通りに引分けの状態を作ることにした。
呼吸を整えてゆっくりと両手を頭の上に挙げて打起しの姿勢をつくり、息を吐きながら右手を引いた。
子供の頃から何万回と行った動きだ。綺麗に美しく魅せる引き方なら負けない。
そのまま右手を引き切った私は、会の状態まで進めた。
いけた…?
気を緩めた瞬間に矢が離れてしまい、矢道に突き刺さった。
やっぱりだめか…。少し落ち込む半面、ここ半年で一番良い状態だった気がする。今までは会の状態を完成させることすらできなかったが、今日はほんの二秒程度だが会の状態を保持できた。
「誰がどう見ても結月の勝ちだ。変なところに力を入れずに楽に弓を引けていた。海馬は弓を引こうとしすぎて少し形が崩れていた。」
「悔しいから、もう一回お願いします!」
「う、うん!」
その後も、引分けの状態を作ることに一番集中していると、ほんの一瞬だが会の状態が出来上がるようになった。
初心にかえったと思えば、かなり上達が早い方かもしれない。私、弓道に向いてるかも。
二人が弓を引いている間は、顧問のおじいちゃん先生が発掘してくれたゴム弓でひたすら射法八節の練習をした。
ゴム弓なんて何年ぶりに使ったのだろうと懐かしく感じられたが、こちらも初心に戻った気がして新鮮だった。
日が落ちる数分前まで三人で練習をして、西日が差す頃に解散となった。
「じゃ、また金曜日な!」
「お疲れ様でした!」
二人に手を振って校門で別れると、夕日に向かって自転車をこぎだした。
東京にいた頃は、こんなに夕日が綺麗だというも知らなかった。
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