第14話
五月下旬
まだ梅雨入りするには早い時期だが、最近の空模様は雨、あめ、アメ。
今日もどん曇りの空の下、気分だけは盛り上げようと鼻歌交じりで学校へ向かった。
教室に入ると、いつも私より先に着いているはずのベストフレンド
待っていれば来るかと思っていたが、始業のチャイムが鳴っても、陽茉莉は現れない。
一時間目が終わる頃にスマホを確認すると「頭いたいから休む」と連絡が来ていた。
この天気だから、私もなんとなく頭がボーッとしてるし、疲れがたまる季節だから仕方ない。
休み時間はとなりの席の由香ちゃんと話してテキトーに暇を潰し、やがて昼休みがやってきた。
彼女とお昼を食べようかと目論んでいたが、あいにく昼は図書委員の仕事があるようで私一人取り残されてしまった。
旬をすぎた転入生には誰も興味を示さないので、仕方なく一人でお弁当を広げようとした。
その瞬間、スマホ着信音が鳴ったので確認してみた。
春馬くんからだ。
「昼休み 弓道場集合」
先生からの呼び出しかもしれないと思い、お弁当をサッとハンカチで包み直した私は急いで弓道場に向かった。
「お疲れ様!先生から呼び出し?」
裏山へ向かうと春馬くんは待機場の屋根付きベンチの下でお弁当を広げていた。
「別にそういうわけでは…。毎日あいつらといると、たまに疲れるから。」
あいつら…。
春馬くんはいつも5人くらいの男子達と一緒にいる。それなりにヤンチャな子もいるが、春馬くんはおとなしいタイプだからな…。
とか言いつつ、たぶん私が一人でいたことに気付いていたのだろう。
「わたし、そんなにハッキリ顔に『寂しい』って書いてあった?」
「放っておいたら、しおれそうではあった。」
真面目な顔で答えないでよ…。
それでも、なんだかんだで優しいのが嬉しかった。
「転入生って最初だけ忙しくて後は暇だから困るんだよね。分散して来てくれればいいのに。」
彼は私の言葉に「そうだな」と答えながら唐揚げを口にしていた。
「まあ、私が転入するって決めたし。後悔はしてないけど…。」
「どうしてここに?」
そう言えば、誰にも話してなかったな。
「うち、一家全員が弓道家で。弓道部を辞めてようやく自由になったと思ったのに家に帰ってもまた弓道。さすがに疲れるから家を出ようと思って、祖父母の家に。」
「もしかして、本当に弓道やめるつもりだったのか?」
彼は目を見開いた。
「まあ、結果的に流鏑馬に誘われてずるずる弓道も続けてるけどね。」
「ごめん…。俺が余計なこと言わなければ…。」
私は首を横に振った。
「いいの。流鏑馬やりたいって言ったのは私だし…。結局、弓を引かないと生きていけないんだと思う。」
「流鏑馬、楽しいか?」
彼はおそるおそる尋ねた。
「もちろん!意識しないといけないことが弓道よりずっと多いけど、それが面白い。今の目標は、二人みたいに三連続で中てること!」
彼は嬉しそうに微笑んだ。
「ならよかった。」
「とりあえず、全国大会に連れてってくれるみたいだし?」
私がからかってみせると彼は「トマトやるから、その件はチャラで」とお弁当を差し出してきた。
「いただきます!」
パクっと一口で頬張ると、春馬くんが悪い笑みを浮かべたので後になって気がついた。
「もしかして、トマト嫌いだから私に食べさせたの!?」
「正解。」
「また騙された!」
ふふっと勝ち誇ったように笑うので私も笑って誤魔化した。
今度、こっそり水筒の中身トマトジュースにしましょう。
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