あとがき

 作者の蒼井凌です。今回もご覧いただき、本当にありがとうございます。


 これまで、女の子の「見られる怖さ」をテーマに書き続けてきましたが、自分としては、今作が一番の山場と言えるものでした。


 そもそも私がこの物語を書き始めたのは、「スカートをめくられて泣いている女の子は、なぜ泣いているの?」という疑問からでした。第三者の目で見れば、たかが布1枚のためになぜそこまで必死になるのか。しかもスカートの形状からして、風に吹かれればめくれてしまうのは明らか。なのになぜ、彼女たちはスカートを履き、必死にスカートを押さえるのか。風にめくれるスカートを押さえるとき、笑っている子もいれば、涙目になる子もいるのはなぜなのか。その答えを知りたくて書き始めたのが、この「葵と綾」シリーズでした。


 よく「男と女は違いすぎる」「わかり合えない」と聞きますが、これを書き終えて思いました。「そりゃあ、わかり合えないでしょうね」と。


 世の中に、作中の男子たち、桐谷のような男性は、自分の身の回りでもよく見かけます。いや、それが世間の主流かもしれません。そして自分自身にも、そんな一面は無いと言えば噓になります。自分は、そして世の中は、菜帆の痛みにどれほど無頓着だったのか。作者としても、それを突き付けられた思いです。


 しかし、一方で希望もある。それが、今作での柳井です。彼は「頭では理解した、でも本心ではまだ理解できていない」と明言したうえで、それでも「自分たちがしたことがいかにひどいことかはわかった」と謝ります。全く違う人間、全く違う身体である以上、すべてを理解するのは不可能です。それは、菜帆自身もよくわかっているでしょう。それでも、少しでも相手を理解しようと歩み寄る、「わからないんだからしょうがない」と見過ごさない、そんな柳井の姿勢が、菜帆には一番嬉しかったのかもしれません。


 また、今作では、舞にも真剣に向き合うようにしました。舞は短パンを履いていたために実害はなかった。でも、実害が無ければそれでよかったのか。笑い飛ばしてもよかったのか。舞のように、その場は笑ってごまかしても、心の奥で涙を流していた人は多いのではないでしょうか。


 今回、葵と綾は、あまり表には出てきていません。しかし、葵の叫びが、綾の一言が無かったら、この出来事は何もなかったように過ぎ去っていたでしょう。葵の言う通り、これは「時が解決してくれる」痛みではない。綾の言う通り、「冗談で済まされる」問題ではない。それを声に出して訴えてくれた葵と綾に、作者としても「ありがとう」と伝えたいです。


 …………あ~あ、言っちゃった。自分の性別はずっと隠し通すつもりだったのに。(まぁ、文体等でとっくにバレていたかもしれませんが……)


 初回作「葵と綾、そして風」を公開するとき、2作目「葵と綾と美羽、そして風」、特にPart.1を公開するとき、本当に怖かったです。嫌悪感を抱かれるのではないか、炎上するのではないか、通報されるのではないか、誰かのトラウマを刺激してしまうのではないか、お前はわかったふりをしているだけだと言われないか、色々な恐怖が頭をめぐりました。


 でも、書かずにいられませんでした。自分も、世の中も、目を背けていい問題ではないと思いました。何度も繰り返されるニュースを見るたび、その気持ちは強くなっていきました。今の時代だからこそ、この物語は世に出すべきだと思いました。


 読者の皆さまは、誰の気持ちに近かったでしょうか。この物語が、これまで描いてきた葵・綾たちの物語が、少しでも男女の理解を深めるきっかけになりますように。そして、今まで声を上げることもできずに涙した女性の皆さまへの、せめてもの救いになりますように。


 また次の物語でお会いできるのを楽しみにしています。



 蒼井 凌

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葵と綾と菜帆、そして風と黒髪ショート 蒼井 凌 @ryo-aoi

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