打開の鍵は雌犬ロリ巨乳!?

『14:00辺りに新人の高島安吾くんが、ICEBOXに武器を買いに来るはずだからさ。

様子見がてら仕事仲間の顔でも確認しに行きなよ。何かしてくれそうで面白そうな子だからさ。』


『はぁ? 男相手やしな……。

 つーかなんでそんなことわかるんや』


『そりゃあ、僕が武器調達について敢えて教えなかったから。

 そうすれば必ずエリカちゃんに連れられて、ICEBOXに来るはずだから、君も顔合わせしやすくなるだろ?』


『なんしとんねん、お前。』


あの性悪情報屋に言われて、新人クンの顔を見に行った後、俺は豊島ブンダイのラブホで一発済ませたった。

まぁ、ええ感じのスケ引っ掛けれたから結果的に良かったけども。

セセラの奴、わざわざ俺と新人クン引き合わせたんはどういうつもりや……?


あの新人……高島安吾を初めて見た時の印象としては、なよなよしてるって感じやったな。

マスター相手にあたふたしとるし、挙げ句にハニトラ引っかかって胸ぐら掴まれとるしな。


我楽多としての心得も知らんガキって感じや。

……けど。


「あの『目』やな……」


アイツの顔を真正面から見た時……それこそ、目と目が合った時や。

まるで洞穴の暗がりを見取るような……一度手ぇ出したらまずいスケに手ぇ出してもうてダムに沈められそうになった時に目にしたダム穴のような感じ。

話すだけでもなんか……、変な奴やって分かった。

流石に、セセラが『何かしてくれそう』って言うだけあるわな


「すぅ~~~、はぁ~~~。出来れば、おっぱいちゃんを一目見たかったけどなぁ~。ガキやから守備範囲外やけど、あの胸は眼福っちゅーもんや。まっ、俺は嫌われとるけどな」


ポケットから取り出したタバコ、肺に入る紫煙を味わいながらもあの胸だけ大人顔負けの少女を思い浮かべる。

初っ端、仲を深めようとイジッたんがアカンかったかなぁ?

生活困って公園で礼儀の鳴ってないスケベ共にセクハラさせとるらしいけど、そのせいで潔癖になってるんやろうか。

お嬢様っちゅーのも難儀なもんやなぁ~。


「んじゃ~素人で一発抜いたし、せっかく豊島ブンダイまで来たんや。楓ちゃんと乳繰り合うかぁ~」


行きずり女……それも見た目は悪うなかった、寧ろ最高や。

けれど正直新人クン助けたおまけでついてきたスケや、やっぱり心の満足度には欠けるやん?

せやから豊島ブンダイに居る、彼女5号との愛のあるイチャラブセックスで心も満たしたらんとな。


正直、そろそろ依頼こなさなアカンのはあるんやけども……まだまだええか。

ぶっちゃけ今回の事案ってセセラの使いっ走りってだけでチーム組んでやるれっきとした我楽多の仕事やないしなぁ~。

報酬を多少ピンハネされると思うと、やる気も出ぇへんわ~。

きっとおっぱいちゃんとギャルのちゃんねーが頑張っとるやろ。

にしても、チームでもない寄せ集めなだけあって金持って居る調達役が居らんって終わっとるやろ人選。


まっ、金持っとる奴がセセラが手配した仕事受けるわけあらへんか。


「もしもし、おう。せやせや、今から向かうわ。もう目と鼻の先……そうだ、仕事とか問題あらへんか?」


『ええ、問題ないわ。それじゃあお姉さん、店の前で待ってるわね?』


「高級ホステスさん店の前で待たすなんて恐縮やわぁ~。そないなことしても、ええん?」


『どうかしら……まぁ、大丈夫でしょ。それに、迅くん……アナタ、クラブの中の入場料払うの、厳しいでしょ? 私が出迎えないとじゃない』


「なははっ、こりゃ一本取られたわ。白馬の王子様じゃあらへんけど、迎えに行くわ」


『ええ、待ってるわ。可愛い王子様❤ ……チュッ❤』


電話越しでそう言うと愛しのハニーはチュッと器用に通話越しにキス音を鳴らして通話を切った。


「フッ……王子なんて柄やないやろワイは」


可愛いなんて柄じゃあらへん、鏡を見ればチャラくてガラの悪い兄ちゃんが写っとるはず。

まぁ、でもこうやって年上女に甘やかされるんも悪うない。

流石はワイの彼女ズにおける大人の包容力担当なだけあるな。


「おっ、朱莉安娜見えてきたわ」


楓ちゃんが務めとる高級クラブの前までたどり着く。

ここは豊島じゃ高級クラブと名高い場所や。

ここに出入り出来るっちゅーことは、それなりの人物としての箔があるっちゅーことや。

金だったり、権威だったり、力だったりな。

そないな所の女の子に、彼女やからって他の男共じゃやってもらえへんような恋人チュッチュッしてもらえるんやから、正直優越感感じるわぁ。


「ほな、いつも通りガードマンの強面お兄さんを尻目に手つなぎデートでも始めよか……ん?」


そう呟きつつも、朱莉安娜の店の前へと目を向ける。

すると何やらガードマン二人と誰かが言い争っとるのが見える。


「……はぁ?」


そして、その人物が何者か分かった瞬間、俺は度肝抜かされたんや。


「だから、僕をここで働かせてください! せめて中に入れて面接だけでも!! ほら、見てくださいよコレ! 僕に掛かれば女の人をヒトイヌにすることだって可能なんです! 皆さんのプレイの効率化につながると思うんですよ! ほら、お前も鳴いて見せなさい」


「えっ、鳴くって……わ、わふ……きゅ~、クゥ~ン……」


「だからぁ! ナイトクラブはそういう店じゃねぇって!! ウチはこれでもクリーンにやらせてもらってるんだから!!」


「場所間違ってんぞボウズ! 行くんなら夢島の方に行け!!」


店の前、若い男女の一組が立ち往生しとる。

一人はなんか人畜無害そうな男。

そして、男が手に持ったリードの先……まるでペットのように四つん這いになった少女が居った。

背丈的にも小学生くらいと言ってもありえるくらいの容姿……赤毛が特徴的な女の子。

そんな少女は肩まで真っ赤になるほど照れながら、犬の鳴き真似をしとる。


そしてガードマンはそんな二人を前に、戸惑いながらも大きな声で追い返そうとしていた。

俺は、この二人を知っとる……。

なんなら男の方とはさっき会ったくらいや!


「お、オマエらなにしとんねんっっ!!?」


慌てて目の前のあったまおかしいことしとる二人組……高島アンゴとおっぱいちゃんの下に駆け寄った。










地下鉄の構内から上がった先。

豊島の駅に着いた時から漂っていた香辛料の香りは、街に出ると濃密に鼻腔をくすぐる程に濃くなっていた。


スパイスの香りに、道行く多くの人々。

中華料理屋や総菜屋さんの呼び込みなどでにぎやか。

これが中国人街か。


「着いたわね……相変わらず居心地が悪いわ」


「うん……」


中国人街は多くの中国人が行き来している。

そんな彼らから見て、僕らはよそ者的なサムシングなのかジロジロと見られている。


ここ豊島は治安はそこそこ良いということで有名だ。

それこそシンジュクよりも良い。

まぁ、ナガタマチの方と比べれば流石に劣るが。


それでもそんな治安の良さには理由があるらしい。

なんでも元は中国人同士の互助組織である九蓮幇というチャイニーズマフィアは、この街の生活の隅々にまで監視の目を光らせているんだとかいないだとか。


要は民族重視のマフィアのお膝元だからこそ、保たれている治安だということだ。

故に僕のようなよそ者は住んでいる人々からどこか警戒の目を向けられる。


とはいえ、観光客もそこそこ来る場所である。

歩いていると襲われる……なんて物騒さはないのは事実だろう。


「それでどこに聞き込みに行くの? 確か……エリカちゃんが米倉スズの元顧客から聞いた情報では米倉スズはナイトクラブで働いていたんだっけ?」


「そうね、出来るのであればナイトクラブの中で一緒に働いたことのある人とか居れば話を聞きたいんだけど……」


「だけど……?」


「そこ、結構な高級店らしいのよ。入場料だけでお金がかかるとか聞いたわ」


へぇ~チャージ料的な感じだろうか。

そもそも、僕はナイトクラブがどういうことしている場所か知らないしなぁ。

なんとなくだが、いやらしいことをやっているイメージだ。

大体、僕のやってたエロゲでは遊びに来た男と女が躍ってて侵入した捜査員とかがそこに居る調教うまい奴に薬やらなにやら盛られて調教されているイメージしかない。


それ、エロゲの知識でしょ? と侮ってはいけない。

フィクションというのは少なからず筆者の体験や経験したことへの気持ちなどが根底に敷かれていたりする。

それはファンタジーでもそうだ……やけにご飯の描写に凝っていたりするシナリオライターは食べ好きだし、武器や銃の描写に詳しい人間はミリオタ・軍事オタだろう。


つまり、ナイトクラブだって必ずそういう側面があるということだろう。

うんうん、これ結構信憑性高い持論だって思ってる。


「まぁ、どのくらい値段掛かるか分からないし、一旦店の前まで行ってみようか」


「……そうね、地理関係だけでも把握しておけば、米倉スズの行動範囲内の風景や状況を掴めるかもしれない。そこから何かしらの手掛かりに繋がるかもしれないわ」







「顔巻1個分か……」


しばらく中華街をエリカちゃんの誘導で歩きまわると、そこには豪華な造りの建物がある。

陽が落ち始め、茜色の光が空から差す中、数人が吸い込まれるようにクラブの中へと入っていく。


ここがナイトクラブか。

ネオン看板には『朱莉安娜』と書いてあった。

ここはそういう名前なのか……はえ~中国語でナイトクラブって『夜総会』って書くんだなぁ~。


「ない……わよね……?」


「生憎ね……大男から取った金じゃ、足りないしなぁ」


財布の中には、札が数枚入っている程度だ。

明らかに足りない。

入場料の時点で値が張る……これが高級クラブって奴か。


「……それなら、しょうがないわね。先輩としてアタシが一肌脱ぐわ」


「それって、もしかして公園でやっていることを中華街でやるってこと? それは最終手段くらいで考えた方が良いんじゃないかな……? 時間がかかりすぎるし、確実じゃない。それにもしかしたらそういう立ちんぼだってこの街じゃ仕切られてるかもしれないし。シマ荒らしみたいなこと言われたら本末転倒過ぎる」


それに、一応今日知り合ったばかりだが仲間なんだ。

嫌がることをさせるのも、なんだかな。


「それじゃあ、どうすれば良いのよ。ルーキーには何か考えがあるのかしら?」


「ちょっと待ってね……今それを考えているから」


エリカちゃんは出鼻をくじかれて、少しムスッとした様子で僕に尋ねる。

とはいっても、僕も具体的に思いついているわけじゃないんだよなぁ。


お金を調達する。

ナイトクラブへ入っていく人間はみんな羽振りの良さそうな者たちばかりだ。

彼らを襲えばそれなりのお金が手に入ることは確定的だろう。


……けれど、自分はプロというわけではない。

強盗の腕に覚えがあるわけでもない。

そしてなによりも、マフィアの勢力圏で派手にやると後が怖いだろう。

相手がそっち系に繋がるがある人間かもしれない。

なにせ高級クラブに通っているような連中なのだから。


ナイトクラブへ入っていく人間の中には、男と腕を組んでホステスらしき女も一緒に歩いている場合もあるのが分かる。

所謂同伴……それも結構な太客だからだろうか?

それとも個人的な付き合いがあるのか……囲われているのか。

中にはリモコンを弄りながら、内股で震えながら歩くホステスを侍らせて得意げに歩くおっさんも居るくらいだ。

……それにしても。


「……なによ、ジロジロ見て」


「いや、ちょうど服装が似てるな……って。もしかしてホステスの方?」


「……アタシはそんな冗談聞きたくて待ってるわけじゃないんだけど」


「ご、ごめんなさい……」


めっちゃ睨まれた。

いやでもつくづく、出で立ちが似てたから思わず……。

考えてみれば来ている服は高級店の裏手で拾った物なのだ。

夜職の、それもグレードの高い店の女が来てた服なのだから似てる雰囲気になるのは当然か。

恐ろしいのはその年で着こなしている発育の良さか……。


なんにせよ、強盗路線はなしだ。

となると、どうお金を工面すべきか……。


周りを見回す。

ん……なんだあの店……?


紫やピンクのいやらしいネオンに照らされている、ひっそりとした佇まいの小さなお店。

フェンスのついたガラスには猫耳やお尻に入れるタイプの尻尾……それにアダルトグッズが値札と一緒に置いてある。

どれも値引きされているようで、お手頃な値段で買えるようだ。


僕の近くには幼いながらスパンコールドレスを着こなしたホステス風にも見える少女。

目の前にはお手頃な価格のアダルトグッズやらが売ってあるお店。

そしてナイトクラブではおもちゃ入れられたホステスが中に入って言ってることから、僕がエロゲで見た知識は所謂フィクションに基づいた嘘ではないと証明されている。

つまり、調教のうまい奴はそれなりに重宝されるんじゃないか?


その瞬間、僕に電流が走る。

もちろん、僕は童貞だ。

ましてや調教の仕方なんかわからない。


それでも、オタクコンテンツ・アダルトコンテンツを捌いてきたこの身。

それっぽい演技ってのは出来るんじゃないだろうか?


そうだ、発想を逆転させろ。

お金を工面するのではない……状況を工面するんだ。



「良いアイデアが思いついたよ、エリカちゃん」


「え、ホント!? やるじゃないアンタ!」


「今の僕らがやるとすればこの方法しかない……」


「なによ、もったいぶらずに話しなさいよ!」


僕の言葉を聞いて、目を輝かせるエリカちゃん。

やれやれ……我楽多の先輩に、僕のとっておきのアイデアを話してやるとするか。

彼女にも一肌脱いでもらわないといけないのは、変わらないわけだし。






「というわけであそこで首輪と目隠しを買って、エリカちゃんには僕に完全調教された雌犬風の演技をしてもらうよ。そして僕はその隣で、そんなエリカちゃんを例に提示しながら働かせてくれと言って従業員としてナイトクラブの中に入るということさ……そうだな、エリカちゃんは別のクラブのNo.1という設定で……」


「やだ! ぜっっっったいに嫌!!!」


興味津々の彼女にアイデアを話すと、断固拒否してくる。

そしてプンプンと怒りながらも僕に詰め寄って来る。


「このアタシが……有澤家の子女であるアタシが、アンタの犬ですって! そんなの絶対に御免よ!!」


「そんなこと言われてもなぁ……有澤家ってもう断絶しているんでしょ? 自分で言ってたじゃん、なら問題ないんじゃないかな?」


「うぐっ……いや、それは……」


「それに……中国人街であまり揉め事は起こしたくないし、正直これ以外良いアイデアは浮かんでこないし……」


心外だと言わんばかりに言ってくるが、これでも僕は考えた上で言っている。

変な気なんか一切なしの提案だ。

それに家柄を出されてもねぇ……自分でもうないって言ってたわけだし、理由にはならないでしょ。


「な、ならアタシがいつも通りお金を集めれば良いじゃない! そ、そうだ……! それなら適当に店に入っていく男共を誘っちゃえば……」


「だから、いつも通りのやり方じゃ遅いし、効率的じゃないって言ったでしょ? それに、店に入っていく男に声を掛けても、今度はホテルへUターンするだけだと思うけど」


「ううぅぅ、でも……でもぉ……」


「それに良いの? また変な男にベタベタ身体触られて、酷いこと言われるかもなんだよ? 店に入っていく男に声なんか掛けたら寧ろ前のモンスターカスタマーみたいなテンションでホテル連れてかれるだけだけど、嫌じゃない?」


「そ、それは……その……慣れてる、し……」


「僕は嫌だな、アレ。見てて気持ちのいい風景じゃないし。それに仲間でしょ? 仲間一人を犠牲にするなんて、間違ってると思う」


「アンゴ……」


ゆっくりと、あくまで諭すように話していく。

すると断固拒否!って感じだったエリカちゃんの態度が軟化していく。

最初にコンプレックスであろう家柄のことで揺さぶりをかけておいた甲斐があったな。

それに嘘はついていない、あんな幼い子が金や大人の男であるということで気圧されて肉体関係を迫られるなんて、正直胸糞ものだと僕は思う。


「ミスってもきっと追い返されるだけだよ。高級店のホステスと比べても劣らないエリカちゃんだからこそ、頼めることなんだ。……お願い、先輩として一肌脱ぐつもりなら、僕の考えた方法でやってほしい」


まっすぐ彼女の瞳を見つめて、頼む。

しばし、交錯する視線。

そして、エリカちゃんは観念したかのように溜息を吐くと勝気な笑みを僕に見せてくれた。


「良いわ、振る舞いとかそういうのはよくわからないからアンタに任せる」


「良いの?」


「ルーキーにそこまで言われちゃ、先輩としてやらなきゃでしょ? それに、アンタの言う通りだもの。……アタシ、実はああいうこと極力もう、やりたくないの。

 もう夜寝る前にパパとママの顔を思い出してみじめな気持ちになりたくない。……だからこうして我楽多の仕事受けてるんだから」


「そっか……なら、やり遂げないとね。この仕事」


「ええ!」


よかった、エリカちゃんもやる気になってくれた。

……今度は僕が腹を括る版だ。

身も、心も調教役……鬼畜竿役がごとく偽る。


やれるか……?

いや、やるんだ。

お前は一体何の為に我楽多なんかに足を突っ込んだ。

金が必要だから、……ならこの依頼を成功させなくちゃだろ?


そうじゃなきゃ、『3周年アニバーサリー限定の等身大、リアル質感バスタちゃんフィギュア、股部分に意味深スペース付き☆彡』なんて届かないんだから。


決意を再び。

僕はエリカちゃんを連れだって、ひっそりと佇むアダルトショップへと足を向けた。









「そんなバカな……! ごまかさないでくださいよ! ナイトクラブってのは後ろ暗いことしてて、中に入った女性捜査官とかを調教して裏社会を仕切っている小太りのおじさんに振舞ったりするものでしょう!? 『退魔捜査官三島玲子~饗宴の女贄~』含むその他諸々で履修済みなんですよ僕は!」


「テメェ、ナイトクラブにどんなイメージ持って……AVで義務教育終えてんのかよ!!?」


は?

『退魔捜査官三島玲子~饗宴の女贄~』はAVじゃなくて、ゲームだが??

アニメと間違えるならまだしも、それは流石に世間は許してくれない……いや、世間は許したとしてもあの日ムスコをお世話になった思い出に掛けて僕が許しちゃおけない!!


「違いますよ! 『退魔捜査官三島玲子~饗宴の女贄~』はAVじゃなくてゲーム!! タイトルだけ聞いてもゲームっぽいでしょ!!! 一体子供の頃に何を習ってきたんですか!!?」


「中学まで通ってきたけど習ったことなんかねぇよ!!!」


「それじゃあ高校で習うんですねっっっ!!!」


「それじゃあってなんだ、それじゃあって!? わけわかんねーこと言ってんじゃねぇぞガキ!!」


クソ……イメージトレーニングは完璧なはずだ。

買い物中だって、『退魔捜査官三島玲子~饗宴の女贄~』に出た調教役である異界医者の鬼龍院恭二郎のセリフを覚えてる限り頭の中で暗唱していたんだぞ!?


僕は今、彼らと同じ穴のムジナなはずだ……!

なんで、分かってくれないんだ……!

まだ足りないのか……なり切れていないのか、僕は?


「クゥ~ン、クゥン……ちょっ、どうなってんの!? 言い争ってる? まだやる……?」


「もうちょっと頑張って……お前が犬になり切れてないから、皆さん躊躇っちゃってるだろ!!! キュンキュン鳴いてんじゃねぇぞ畜生が!!!」


「はひっっ!!! ご、ごめんなひゃっ❤ おっぱい、たたかないでくだひゃっ❤ やぁ……❤」


小声で僕に何事か聞いてくるエリカちゃん。

そんなエリカちゃんに周囲の男に気付かれないように返答しつつ、癇癪を起した風に彼女の頬をぐにっと掴むと、胸に一閃入れる。

勿論軽くじゃない、流石にこの距離だとそんな手心を入れたら気付かれる。

うおっ、やわらか……やばっ、布がズレる!


叩きながらも、布地がズレてポロリしないように布地を押さえつつ離す。

滅茶苦茶胸触ってるけど、これはこのナイトクラブに侵入する為。

あとでいくらでも非難叱責は受けるし、エリカちゃんが望むのなら拳くらい甘んじて受けるつもりだ。


でも、今は彼らが求めているような鬼畜外道な人材になり切らないといけない。

きっと子供だからと舐められているのだろう、ならばガキの御遊びじゃないレベルで鬼畜男なのだということを示さなければ。

そうじゃないとこんな強面が警護してるような場所なんだ、求められるような人材とは言えないだろう。


クソっっっ! すまない、エリカちゃん……。

僕の演技力が足りないばかりに……。

エリカちゃんなんかこんなに真に迫るような演技をしているのに。


声は泣きの入った情けない雌声っぽい。

ハッハッと呼吸が荒く、犬のような口呼吸で熱い吐息を吐いている。

皮膚は照れたように真っ赤で、体温も熱い。

滅茶苦茶それっぽい……クソっ、それだけに提案者である僕がこのザマなんて、情けない……。


「ははっ、すみません。たまにこうなんですよ、お茶目でしょ? 言えばお座りもチンチンも出来るんですよ。僕に任せればおたくの商品である女性たちにもこのようなプレイを可能に出来ますよ。例としてお見せしましょうか?」


「い、いや、良いって! ホント、夢島行った方が良いぞキミ。ホント、あっちは調教にハードプレイになんでもござれだから。ここ、ただのナイトクラブだから! キミ雇ったとしても手に余るから!」


「なんでガードマンがそんなことわかるんですか。人事担当に該当する人に合わせてくださいよ」


「こ、こんなことしてる人間から正論!? いや、そもそもそれなら事前にアポを取って面接に来てくれよ!!! 

 ここはコンビニじゃねぇんだよ!! 張り紙見て即日雇用ってわけにはいかねぇの!!」


クソっ、議論は平行線だ……。

どうすれば……エリカちゃんもっと虐めるか……?


「お、オマエらなにしとんねんっっ!!?」


「えっ、あの時のお兄さん……なんでここに!?」


行き詰まりを感じる僕の背後で聞き覚えのある男性の声が聞こえる。

それはさっきICEBOXで聞いた声。

振り返れば、僕を大男から助けてくれたホスト風のお兄さんが何やら焦った表情でこちらにずんずんと歩み寄って来る。


「どうしてここにはこっちのセリフじゃい! 何やってるんじゃ、お前!? えっ!? っていうかおっぱいちゃんにどうやってこないなコトさせとるんや!? 潔癖やあらへんかったかこの子!? 何がどうなってるんや!?」


「えっ!!? お兄さん、エリカちゃんと知り合いなんですか!?」


「は……? ちょっと待って、今の声……もしかして鳳迅一!? な、なんでアンタこんなとこに居るのよ……! 〜〜〜〜っ!! さいっっあく!! 見てんじゃないわよ!!」


僕と地面にお尻をつけてるエリカちゃんを交互に見て、目を白黒させるお兄さん。

なにやらエリカちゃんを知ってるみたいな物言い……元顧客?


そう首をひねった瞬間、足元でお兄さんの名前らしき名前を呼んだあとに、エリカちゃんは慌てた様子で目隠しを外して立ち上がると、お兄さんに怒鳴っていた。


……もしかして、このお兄さんが今回の仕事にあたってる他メンバーなのだろうか?

前に他メンバーの内、一人は嫌い〜みたいなことエリカちゃん言ってたし。


「また来たのかTheホスト、こいつらお前の知り合いかぁ?」


「いや〜、そうなんすよ〜! ほんっっま、迷惑かけてすんまへ〜ん! ガキなんでそういう分別ついてへんみたいで〜! 後で言って聞かせますんで〜……ほら、さっさ向こう行くで」


実に迷惑だと言いたげな表情のガードマンの一人に、ヘラヘラと笑いながら頭を下げるとお兄さんは僕の腕を引こうとする。


「ちょっ、待ってくださいよ! 今、調教師の気持ちになってここで働かせてもらえないか聞いてるんです! 聞き込みに必要なんですよ!」


「そうよ、サボり魔! 邪魔しないでくれる? なんのためにアタシが犬のフリまでしたと思ってんのよ! 米倉スズの同僚探して話を聞かないといけないの!」


「はぁ〜〜!? 調きょっ……なんでそれとこれが繋がるんや?? ほんっまにわけわからん……頭痛なってきた!!」


僕とエリカちゃんの言葉を聞くと、うんざりした様子でこめかみを抑えだすお兄さん。

……あれ、あんまり反応が芳しくない。

もしかして、僕……なにか思い違いをしてるのか??

……それにしてもエリカちゃん、お兄さんへ当たり強いね。


「なんだかわかんねぇけど……ウチの嬢の身辺を探ってんだったら、お引き取り願わねぇといけねぇなぁ? ウチはそこら辺クリーンにやってるんでなぁ?」


「おいおい、優しいじゃねぇか。そもそも営業妨害なんだどっか行ってもらうのが俺らの仕事だろ??」


ガード萬二人は僕らの言葉を聞くと目の色を変える。

手をぽきぽき鳴らしながら一歩前に出る二人をお兄さんは慌てて止める。


「ちょっ、待ってんかぁ~。そないカッカせんでええやないですかぁ~!」


「問答無よ――」



「待ちなさい。彼ら、私の客だから。中に入れてあげて」


「楓さん……! しょ、承知しました……!」


「わ、悪かったな……」


「楓ちゃん……!」


扉の前、いつの間に出て来ていた赤いナイトドレスを纏った美しい妙齢の女性が、ガードマン二人を嗜める。

女性に言われると、ガードマンたちはおずおずと臨戦態勢を解く。

そんな彼女の姿を見て、知り合いなのかお兄さんは名前を呟いた。


「待っていたわ、王子様。大変そうね……」


「まぁ、な。言ってへんかったけど、今は我楽多の仕事受け取るさかい。迷惑かけてほんま申し訳ない……」


「良いのよ。ほら、中に入って話しましょう? ……あなたたちも、ね?」


楓さんと呼ばれた女性は、お兄さんに微笑みかけると歩み寄って襟を直す。

そしてお兄さんの手を取ると、僕らを一瞥してナイトクラブの中へと歩みを進める。


「あの、アンゴ……これ……」


「ま、まぁ目的は達成したから……」


よくわからない状況に不安げに僕を見上げるエリカちゃん。

そんなエリカちゃんに震え声で答える。

い、一応お兄さんの知り合いっぽいし……お兄さん自体エリカちゃんの知り合いなんだろ?

それに我楽多の仕事受けてるって言ってたから、まず間違いなくセセラさんの言っていた仕事仲間と言う奴だろう。


思いも寄らぬ経緯で目的を達成して戸惑いながらも、僕とエリカちゃんは前を歩く仲睦まし気な二人とはぐれないよう、その後を追うのだった。

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